|
■最後の幹部
「ナミさん、大丈夫かな・・・?」 カイをボールに戻し、ショウは山頂を目指して走っていた。 やはり気になるのは、置いてきた仲間たちのこと。それぞれがジムリーダーレベルの強さはある。だからこそ、本来なら心配する必要はない。 だが、今度の相手は四天王。ナミでも倒せる相手かどうか、わからない。 「心配してても仕方ない、か」 走る。走る。走る。 木々の間を抜けた、その先。 「洞窟、か」 山頂付近に洞窟があった。キメラのものらしき足跡もその中へと続いている。 ショウはためらいなく、洞窟の中に踏み込んだ。途端、熱気が彼を包む。 「これ・・・!?」 そこには広い空間があった。まるで闘技場のように、中心に円形の台がある。そこまで続くのは細い一本道。闘技場の下は、溶岩がグツグツと煮え たぎっている。 そして、その闘技場の中心に。“それ”はいた。 大きな翼。太く逞しい両足。鋭い爪の生えた、丸太のような腕。それ自体が生き物のような長い尾。その顔は竜のような狼のような、不思議な雰囲 気を漂わせている。そして、額からは長く鋭い角が一本だけ生えていた。 しかし、決定的におかしい点があった。だからこそ、あれがただのポケモンじゃないとわかる。それがどこだ、なんてのはショウには言えない。ただ、 わかる。わかってしまう。“それ”の放つ空気のようなものが、ポケモンじゃないと物語っている――。 「あれが、キメラ・ポケモン・・・?」 キメラはショウを見つめた。濁りのない瞳は、眼前のそれを敵と信じて疑っていない。 ショウは、弾かれたように飛び出した。 「全力は久しぶりね」 ナミは腰のボールから、さらにポケモンを繰り出した。 片方は厚い鎧のような皮膚に覆われた、バンギラスというポケモン。名は、ギアス。 もう片方は赤い目を持つ幽霊。ゲンガーというポケモンで、名はリット。 これにサラを含めた3体は、ナミの手持ちの中で最高のレベルを誇る自慢のポケモンだ。 「リーグの決勝戦以来よ。全員で戦うのって」 ナミに続いて、アカネはミルたんを、ハヤトはピジョットとヨルノズクを、イブキはキングドラとハクリューを繰り出した。 「ほな、行くで!『ころがる』や!!」 ミルたんは自身を巨大な武器へと変え、高速回転でカンナに迫った。 「ふふ。それで攻撃のつもりかしら?」 突如。カンナを護るように氷の壁が生まれ、ミルたんの攻撃を防ぐ。 「キングドラ!ハクリュー!『りゅうのいぶき』!」 「フェフェフェ!甘いよ、『あやしいひかり』!」 氷の壁を砕くほどの一撃を放つ前に、キクコのゲンガーが怪しげな光を放った。見る者を惑わせ、混乱へと導く光が、イブキのドラゴンを包んでいく。 途端、キングドラとハクリューは互いに向かって『りゅうのいぶき』を放った。双方の圧倒的破壊力を持つ息吹が、互いを弾き飛ばす。 「くッ!?」 「悔しがっている暇はないぞ!エアームド、『はがねのつばさ』!」 手持ちを失ったイブキに、ハザマのエアームドが襲いかかった。触れるものを両断する、鋼の剣。 「させないわよ!リット、『10まんボルト』ッ!」 空気中の電気エネルギーを高圧の電撃として解き放つ一撃が、エアームドに直撃した。 「今だ!ヨルノズク、『つばめがえし』!ピジョット、『つばさでうつ』!」 フクロウのようなポケモン・ヨルノズクは低空飛行で、大きな翼を持つピジョットは高い位置から、それぞれ翼でゲンガーに攻撃をしかけた。 「あら。全体を見ないといけないわね?ジュゴン、『オーロラビーム』!ラプラス、『れいとうビーム』!」 先刻の氷壁を作った正体。それは、海獣・ジュゴンと、氷竜・ラプラスだった。 それぞれが放つ氷の属性を持った光線が、キクコのゲンガーを庇うように、ハヤトの鳥ポケモンを撃ち抜いた。 「甘いで!ミルたんの『ころがる』は健在や!」 ゲンガーを、さっきは氷壁で防がれたミルたんの『ころがる』が吹き飛ばした。 「さあ・・・どんどん行くで!」 アカネの言葉を皮切りに、全員が走り出した。 ナミのギアスの拳が大地を砕き、ハザマのシャワーズが水流を放つ。様々なポケモンが入り乱れ、潰し合い、技を放つ。 ハヤトとイブキはすでに手持ちを2体ずつ失っている。一方、ハザマたちはハザマのエアームドとキクコのゲンガーしか倒れていない。理論上、数の 上では勝っていても、やはり実力差があった。 「だあ!もう!ピィたん、『てんしのキッス』やで!」 「ヤドラン!受け止めなさい!」 星型の小さなポケモン・ピィのキッスを、尾を貝に噛まれたポケモン・ヤドランが受ける。本来ならポケモンを混乱させる効果のある技だが、普段から ボーっとしているヤドランには効果がない。 「ヤドラン、『どわすれ』!」 「させない!リット、『10まんボルト』!」 リットが再び10万ボルトもの電圧を持つ一撃を放とうとするが、今度は電気が収束しない。 「・・・ッ!?」 「フェッフェッフェ!私のゲンガーが使った『うらみ』の効果が出てきたようだねぇ!?」 キクコはその光景を見つつ、楽しそうに笑った。 どんなポケモンだろうと、それが技である以上は使用回数に限度がある。それが強力な技になるほど、限界値は早まっていく。『うらみ』はゴースト ポケモンの念の力で、その限度をさらに早める効果がある。 「だったらサラ!ぜ〜んぶ焼き尽くしちゃえ!『かえんほうしゃ』!!」 「くくく!『ハイドロポンプ』!」 サラの熱線を、ハザマのシャワーズの水流が押し潰す。周囲は一気に白い煙に包まれた。炎で蒸発した、真っ白な水蒸気。 「くッ!」 蒸気で全てが見えなくなる。その中心で、少女の声が響いた。 「コドラ!『とっしん』!ボスゴドラ!『かわらわり』!レアコイル!『10まんボルト』!」 ドドドン! 三度、戦場に衝撃が響いた。刹那、ナミの背筋を悪寒が走った。理由はわからない。だが、この感じがした時は・・・ヤバい。 「・・・ボーマンダ!『ふきとばして』!」 水蒸気の霧を晴らし、ナミは周囲を見渡した。 「・・・・ッ!?」 そこには、三人のトレーナーが倒れていた。 ハヤト、アカネ、イブキ。ジムリーダーの三人は、たったひとりのトレーナーに倒されていた。その中心に立っていたのは、ひとりの少女。 「よくやったわ。コドラ。ボスゴドラ。レアコイル」 鋼に包まれたポケモンたちを手元に戻し、少女はナミに向き直った。 「・・・ナミちゃん。もう、終わりだから。だから、引いて」 鉄壁ガードの異名を持つ、鋼使いのジムリーダー。 「ミカン。なんであんたが、敵なわけ?」 「ごめんね。でも、でも・・・・これが私の選択だから。だから、敵なの」 ミカンは無表情で、それでいて・・・悲しげだった。 |