|
■悪の牙を持つ獣
ハザマたちがナミを囲んだ。 ハザマ・キクコ・カンナ・ミカン。いかにナミといえども、あまりに強すぎる包囲だ。包囲を突破するだけでも、容易ではない。 「・・・カンナ。少年を追え。ここは我々だけで十分だ」 「わかったわ」 ナミの背後に立っていたカンナが、戦列を離れた。ナミはその跡を追えない。ハザマとキクコに挟まれて、おまけにミカンに背を向けるような事をすれ ば、おそらくは一撃でやられてしまう。 「うふふ。なかなか楽しめたわよ、お嬢ちゃん。次はないけど、ね」 カンナは氷のように冷たい笑顔で、ナミに背を向けた。 「どこに、行く気だ?」 「なッ!?」 突如。頭上から、岩石が降り注いだ。ひとつひとつがトゲのように研ぎ澄まされた、鋭利な刃物がカンナを襲う。 「パルシェン!『とげキャノン』!」 「ニドキング!『ほのおのパンチ』!」 ナパーム弾でも破壊できないという殻を持つパルシェンの放つとげ。それは、自身の殻とほぼ同じ硬度を誇る。それらが岩を砕く中で、ニドキングの 拳がパルシェンの唯一の弱点を打ち抜く。それは、『とげキャノン』を放つ限り絶対に出る弱点。殻に護られていない、黒い真珠のような本体部。 「あなた、何者?」 パルシェンをボールに戻しつつ、カンナは新たに出現した男を睨んだ。 漆黒のスーツ。オールバックに決めた黒い髪。その口元には、余裕の笑みが浮かぶ。 「Raid On the City.Knock out.Evil Tusks.」 男は、ニヤリと笑った。 「町々を襲い尽くせ。打ちのめせ。悪の、牙たち」 カンナの頬に汗が伝わった。 「R・O・C・K・E・T。ロケット団、ね」 「・・・いかにも」 男は満足そうに頷いた。 「トキワシティジムリーダーにして、ロケット団総帥・・・サカキだ」 「ロケット団総帥・・・!?なんであんたが!?」 ハザマも、キクコも、カンナも、ミカンも驚いていた。 「簡単な理屈だ。我が組織を勝手に使ってくれた礼をしに来た。ただ、それだけの話」 カンナはサカキと間合いを開いた。 サカキの実力は、ジムリーダークラスどころではない。カントー地方に存在するジムの中で、最も強い力を誇ったのが彼。通称“大地のサカキ”。 ジムリーダーたる彼を破ったのはただひとり。ロケット団を壊滅させた、カントーの現チャンピオンだけだ。 驚き、戸惑いつつも、一歩前に出た者がいる。ハザマだ。 「ふむ。こんなところで“大地のサカキ”に会おうとは予想だにしなかった。だが、貴様だけでは我々を倒せまい?」 「そうだな。確かに普通なら難しいだろう。だが、まさかこの私が何の準備もなくここまで来たと、本気で思っているのか?」 「・・・・何?」 サカキは懐からボールを取り出し、投げた。 ボンッ! ボールから現れたのは、銀色の翼を持つ巨体。 「これが、私の切り札だ」 「・・・・なるほど」 ハザマは笑みを浮かべた。だが、目は笑っていない。否。笑えない。 うずまき列島に住む、“生きる伝説”。名は、ルギア。 「さあ・・・戦いを始めようか。もっとも、戦いになればの話だがな?」 言って、サカキは笑う。心の底から。 ボンッ! ミカンの放り投げたボールから、巨大な鋼鉄の蛇が飛び出した。ミカンの手持ちの中でも最もレベルが高いポケモン・ハガネールだ。 「ハガネール!『アイアンテール』!」 ハガネールの鋭い尾が、鉄色に輝く。鋼鉄の尾を叩きつける一撃『アイアンテール』。 「ルギア!『エアロブラスト』!」 鋼系の攻撃技は、攻撃の前に力を溜める時間が必要だ。『アイアンテール』とて例外ではない。その刹那の時間を狙い、ルギアのカウンターが炸裂 した。 ルギアの吐き出す息は、それ自体が強力な武器。エネルギーを溜める時間も必要ない。まさにただの、『一息の空気弾』。 ハガネールの巨体が、宙を舞った。 「シャワーズ!『ハイドロポンプ』!」 「ゲンガー!『シャドーボール』!」 「ラプラス!『ぜったいれいど』!」 圧倒的な水圧の流れが、黒い影の球が、マイナス273℃の超冷気が、それぞれルギアに襲いかかった。 「その程度の攻撃でルギアを倒せるものか。『エアロブラスト』!」 しかしルギアは、全ての攻撃を一息で吹き散らす。まさに伝説に名を残すにふさわしいほどの威力だ。 「くッ!ジュゴン、『オーロラ・・・』」 「私の存在、忘れてない?サラ、『かえんほうしゃ』!」 ルギアに気をとられた三人を、サラの炎が包み込む。 「ラプラス!『ふぶき』で炎を吹き散らせ!」 その炎をラプラスの放つ氷風が吹き散らすと、今度はルギアの息吹が襲いかかる。 「『エアロブラスト』!」 一際、大きな暴風が戦場に吹き荒れた。 熱気に包まれた洞窟の中心で。ショウは、対峙していた。 “それ”はすでにポケモンですらない。人間でもなく、ポケモンでもない。だが、そこで生きている存在。 ショウの背後の地面は焼け焦げている。キメラの放った火炎弾の痕跡だ。 「なあ、戦うしかないのか?お前の力は強すぎるんだ。それはむやみに使っていいものじゃない。そんなの、お前自身が一番わかってるだろ?」 ショウは説得したかった。正直な話、このキメラに勝てる自信がなかったから。その目を見ただけで、簡単に気付いてしまう。こいつとは、格が違う。 こいつを暴れさせるわけにはいかない。だが、勝ち目がない事もまた事実。だからこそ、言葉でわかって欲しかった。 しかし、言葉はキメラには届かない。見ず知らずのトレーナーよりも、キメラは父の言葉に従う。 「やっぱ駄目、か。仕方ないな・・・」 ショウは手持ちのボールを全て放り投げた。 ラン、カイ、ヒノ、ハイロン。彼の大切な仲間たち。 「みんな。俺はここで命を賭ける。本当は俺がやんなくてもいい事だろうけどさ、たぶんあいつと“話せる”のは俺だけだ。だから、俺が戦う。別にみ んなは関係ない。俺に付き合って無駄に死ぬ必要もない。だから、ここで逃げたって立派な勇気だ。誰も咎めたりできない。それでも、みんなは俺に 命を預けてくれるか?」 彼の仲間たちが、短く肯定の意を返してきた。寸分の迷いもなく。すでに、覚悟は出来ている。 「ありがとう。それじゃあ、最初から・・・・全開でいくよッ!」 |