■絶対的な力

ショウの身体を淡い光が包む。温かい光は、彼の手持ちたちをも包み込んだ。

先手を打ったのはキメラ。先刻と同じ火炎弾を放ってきた。

「ハイロン!『ハイドロポンプ』!」

キメラの撃った火炎は、ハイロンが水流で押し流した。そして、その水流の陰からランが飛び出す。

「思い切りいけ!『神鳴拳』!!」

電流が拳へと収束されていく。ポケモンとしての限界値に近いエネルギーを一度に集め、キメラの腹にランの全力を込めた拳が叩き込まれた。

――が、キメラは微動だにしない。逆に大きく息を吸い込み、反撃の態勢を取った。

「カイ!『鋼転突』でランをサポート!」

カイの全身が、鋼色に輝く。自身を鋼鉄の剣へと換え、そのまま回転しつつ突撃する。

目にも留まらぬ超高速で、カイの一撃はものの見事にキメラのアゴを捉えた。

無理矢理に上を向かされたキメラは、そのまま上方に向かって火炎弾を放った。

天井に炎が当たり、火の粉が散る。熱気はどんどん増しているようだ。まるで、『にほんばれ』のような暑さ。

「今なら威力もアップってところかな?ヒノ!全力で撃て!『ブラストバーン』だ!」

ヒノの背の炎が、一層の輝きを放つ。強く美しく生きる、灼熱の紅。

選ばれたポケモンしか使えない炎系の極技。本来なら小さなヒノアラシには耐え切れない威力だが、ショウの力がヒノの小柄を援助する。

「いったれえええええ!」

光の如き炎が、キメラの顔面を撃ち抜いた。爆発、炎上。赤だけが世界を埋め尽くしていく。

「休まないで行くぞッ!ハイロン、『凍竜牙』!ヒノ、『ブラストバーン』!カイ、『ふきとばし』!」

ハイロンとヒノの超大技と、カイの小技が折り重なってキメラに撃ち込まれる。

退けば死ぬ。そんな気がしたから、ショウは攻撃の手を休めなかった。たとえポケモンの身体には負担がかかると理解していても、たとえ自分自身

の身体が危険であろうとも、止めない。止めるのが、怖い。

「ヒノ、ハイロン。休んで。カイ、『ドリルくちばし』!ラン、『かみなりパンチ』!」

カイは回転しつつ、ランは電気を拳に乗せて、キメラに向かって駆けた。

特にランはすでに『神鳴拳』を放ってしまっている。本来なら戦える状態ではないのに、全身の骨が悲鳴を上げても、それでも駆けて行く。

アアアアアアアアアアアアアアアア!!

キメラが鋭く吼えた。カイとランは刹那の時、その雄たけびにひるんで足を止めてしまった。

そこにキメラは炎を放った。炎弾ではない、熱線。

――まさか、『かえんほうしゃ』!?

ショウが驚きの声をあげる暇もなく、ランもカイも、ハイロンやヒノさえ、炎に飲み込まれた。



汗が滴り落ちる。息が荒い。

それでも男は山道を行く。止めねばならない。彼が望んだ世界は、こんな世界じゃない。

ハザマを止める。それができるのは、彼だけしかいない。少なくても、彼はそう思っている。

自分に自信があるからこそ、そう思う。あのキメラは倒せない。知識なく戦って勝てる相手ではない。

何故なら、あのキメラは、ドラゴンポケモンをベースに、ヌケニンの能力を足したのだから。

ヌケニン。あのポケモンを初めて見た時、彼はこれだ!と思った。このポケモンの能力を使えば、彼の望む世界を作るポケモンが生み出せると思っ

た。実際、そうだった。彼の考えは間違っていなかった。

だが、それはあまりにも危険な力を生み出してしまった。ヌケニンの能力とは、『ふしぎなまもり』。弱点以外の攻撃を無効化する能力だ。

護りが完全であれば、誰も勝てない。防御能力は完全に捨て、攻撃にのみ特化した能力を授ければいい。

そうして生まれたのがプロトナンバー083。弱点のない事で有名なヤミラミというポケモンを解析し、そのタイプを付加する事に成功した。故に、ドラ

ゴンの能力を持ちながら、プロトナンバー083は、悪タイプとゴーストタイプを持つ。

この両方のタイプを持つポケモンには、弱点が存在しない。悪とゴーストが互いに弱点を補い合って、欠点を消すのだ。

欠点がない上に『ふしぎなまもり』の効果で欠点以外のダメージは受けない。これはすなわち、絶対に倒せない事を意味する。

だからこそ。彼でなければ、あのあまりにも悲しすぎる存在は・・・倒せないのだ。彼にはひとつだけ、このあまりにも悲しい存在を倒す方策がある。

危険でもやるしかない。彼がどうなろうと、やり遂げねばいけない。

今ならわかる。これが間違いであったと。気付くのは遅かった。だけれども、まだ手遅れではない。だから走る。全力で。

もうこんな事は終わりにしなければならない。それができるのは、彼しかいない。彼がやらねばならない。世界が変わる前に、止めなければならな

い。

「急がなくては・・・。止めなくては・・・。ワタシの、息子を!」

白衣の博士は、ボロボロになりながらも山道を駆け抜ける。



「待ちなさいって言ってるでしょうがああああああ!!」

絶叫するナミの前を、ハザマたちが駆け抜ける。

ナミの背後にはサカキがいる。いつもなら敵対する可能性が高い間柄だが、今は事実上の共闘状態だ。

何故にこんな状況下にあるのかを説明すると、いきなりハザマたちが揃って洞窟に向かって駆け出したのだ。それぞれが繰り出したポケモンに足止

めをされたために少し追うのが遅れているが、それでもまだ視界に入るレベル。なんとか追跡は可能だった。

「叫んでも疲れるだけだぞ」

「うっさい!こういう時は無意味でも止まれって言う法律があるのよ!」

「・・・・そうか」

「ボケたんだからつっこめ!」

なんとものんきな空気である。

やがて、ハザマたちは森を駆け抜けた。ナミたちもすぐに森を抜ける。そこは、熱気が溢れ出る洞窟の入り口。ショウが入っていった、あのキメラが

いる洞窟だ。

「ミカン、キクコ。少しでいい。連中を足止めしろ。カンナ、行くぞ」

ハザマは短く指示し、洞窟の中に入っていった。

「待ちなさい!」

ナミも慌てて追おうとするが、その前にミカンとキクコが立ちはだかる。

「フェッフェッフェ。ここでしばらく遊んで貰えるかのう?」

「ごめんね、ナミちゃん」

「うっさい!邪魔すんじゃないわよ!」

洞窟の入り口はさして広くない。キクコやミカンを倒さない限り、強行突入する事はできそうになかった。

「ならば。すぐに倒して先に進めば済む話・・・だろう?」

「そうだけど・・・」

ナミは心配そうに洞窟へと視線を送った。その先は見えない。そこで何が起きていようとも。



洞窟の中は灼熱の地獄と化していた。ハザマの予想通りの展開である。

「カンナ」

「はい。ルージュラ、『ふぶき』!」

人型ポケモン・ルージュラの放つ吹雪が洞窟を急激に冷ましていく。やがて、熱気渦巻く中に何があるのかが見えてきた。巨大なポケモンと、その

周囲に倒れるポケモンたち。そして、焼け焦げた人間。

「083号!来い!」

父の声にポケモンは嬉しそうに振り向くと、まさに文字通り飛んで寄ってきた。

「くくくくく!これでルギアにも引けは取らぬ!はっはっはっはっは!」

ハザマは狂気の笑いを浮かべた。勝利を確信して。

誰も傷つけられない。故に、誰も勝てるものなどいない。

「さあ!行くぞ!カンナ、083号!早々にこの下らない戦いに幕を下ろすぞッ!」

ハザマたちは洞窟を飛び出した。その中に、ショウたちを残して。



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