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■応え
「・・・ミカン。どうしてあんたがR団に協力してるのか、理由は説明してくれないの?」 サラの炎をボスゴドラの投げた岩が防ぐ。キクコとサカキも、少し離れたところで戦っている。 「ナミさん。疑問に思った事、ありませんか?」 「・・・何を、よ?」 「どうしてポケモンたちが人間に従わなければいけないのかって事です」 ナミの表情が一層、険しくなった。 「出会い、ボールで捕獲し、育てる。人間とポケモンの関係はだいたいがそう。そこにポケモンの意思は関係ありません。ポケモンが何を思っていて も、トレーナーは関係なく捕獲します。勝手に交換し、プレゼントする。ポケモンは物じゃないんです。生きてるんです。なのに、その意思は図られた 事がない・・・」 「何が言いたいの?」 いつものオドオドした表情はなかった。悲壮感に溢れた、それでいて無感動な顔だけがそこにある。 「いっそ、この世界の主従が違ったら。ポケモンが人間を支配すれば、問題はないかもしれない。そう思うようになりました。そんな時、ハザマと会っ てしまったんです。 ハザマは言いました。『ポケモンが幸福となる世界を作る』と。もちろん、そんなものは信じられませんでした。何を言ってもロケット団のやる事。信用 するほどの話ではありませんでした。けれど・・・」 ミカンは胸の前でぎゅっと手を握った。 「新生ロケット団を実質的に率いていたのはハザマでしたが、頭領は博士と呼ばれる男でした。博士は昔、警察官をしていたそうです。博士は警察 官として、特にポケモンの不正取引を取り締まっていました。その時、思ったそうです。ポケモンは、不幸だと」 「・・・あんたと同じ、ね」 「そう。博士はあたしと同じでした。ポケモンが大事で、大好きでたまらない。だから、だからこそ、ポケモンの意思を汲み取らない今のシステムを嫌 っていたんです。そして博士は決断しました。ポケモンの力でポケモンだけの世界を作ろうと。人間と一緒にいたいポケモンはいればいい。でも、い たくないポケモンまで無理をする必要はない。そういう世界が作りたかったんです。ポケモンと人間を、対等にしたかったんです」 サラとボスゴドラが対峙する。それぞれの背後にはそれぞれのトレーナーがいた。 ポケモン同士が戦えばポケモンは傷つく。だが、トレーナーは指示をするだけ。トレーナーが傷つく事は決してない。それが、あまりにも不条理で。 どうしてポケモンが人間と一緒にいなければいけないのか。その事実について考えれば考えるほど、理由がわからなくなる。そんな、ジレンマ。 「だから、あたしはロケット団に協力した。後悔はしないって決めた。だからナミちゃん、全力で戦って。そして、あたしを倒して。ナミちゃんなら、でき るから」 「・・・いいわ。どっちにしろ倒さなきゃいけないみたいだし?だったら、私の、全力で!叩き潰すわ!サラッ!」 ナミの闘志と同調して、サラの闘志も飛躍的に上昇する。ポケモンと人間はひとつになる事で常以上の力が出せる。それは、事実。 ナミにはミカンの気持ちもわかった。それは、ナミも思った事だから。 わかっていた。ポケモンたちがこの世界を望んだわけではない事くらい。知っていた。この世界は人間の都合に合わせられている事くらい。 でも、ポケモンと人間は一緒にいられる。心をひとつにし、力を合わせられる。ポケモンと人間は、友達になれる。そう、信じてきた。そして、ナミはそ れを体現した。 ナミとポケモンは本当に友達だった。友達のためだから、命を張れる。代わりにナミは、信頼で答える。確かにナミは傷つく事なく戦い、ポケモンたち は傷ついていく。痛いのはポケモンだけ。だからこそナミはポケモンを信頼した。命を預けてくれた代償に、ナミは絶対にポケモンを疑わない。絶対 にポケモンを裏切らない。それが、ナミとポケモンたちとの約束。 それがミカンにはできなかった。信頼に信頼で応えるほどの気概が持てなかった。それが、ナミとミカンの違い。決定的で、それでいて小さな違い。 その違いのせいで、今、ふたりは戦う。 ポケモンを信頼する者と、ポケモンに対する信頼に欠ける者。絶対的な溝が、勝敗をつける。決着は、最初からついていた。これはただの予定調 和。始めから、決まっていた事。決まっていると知っていて行う、儀式のようなもの。 「サラ!『ブラストバーン』!!」 「ボスゴドラ!『アイアンテール』!!」 ボスゴドラは正面から突っ込む。対してサラはエネルギーを高める。全力の全力。最高の力を出せる瞬間は、今! ドンッ! 光の如き熱線が、ボスゴドラを飲み込んだ。そのトレーナーもろとも、何もかも。 「・・・くッ!」 ナミは強く拳を握った。しかし、立ち止まる暇はない。 ナミは洞窟の入り口に向かって駆け出した。入り口の付近まで来たところで、嫌な感じを全身で感じ取った。この感覚がした時は絶対にヤバイ。 経験からナミは洞窟から離れる。その頭上を、炎弾が飛び去った。 「危なかったわね」 「それは残念だ」 洞窟から姿を現したのは、ついさっきそこに姿を消したばかりのハザマとカンナ。それに、見た事のないポケモンが一匹。本能的にそれがキメラ・ポ ケモンと感じた。 ドクン―― 「・・・!?」 ナミの中の血が騒ぐ。まるで遠く離れていた肉親に会ったような感覚。 「ミカンは、やられたのか。まあ仕方あるまい。幹部で最も弱いのがミカンだからな。私とカンナ、そしてこのキメラを相手にしては、そうもいくまいが な?」 「・・・ショウは、どうしたの?」 ショウは洞窟に行ったはずだ。洞窟内でハザマと出会えば、戦闘にならないはずがない。 「決まっている。キメラに倒され、雑巾のように転がっていた。もうあいつが生き返る事はあるまい」 ハザマは当然とばかりに言う。ごく自然なその言葉が、ナミの心に火をつける。 「・・・ッ!!サラ!『かえんほうしゃ』!!」 「愚かしい!キメラ!『かえんほうしゃ』!!」 サラが先手で炎を放つ。しかしキメラの放つ焔は、そんなものとは違った。 サラは仮にもポケモンリーグを勝利してきたポケモンなのに。だのに、キメラの焔はサラの炎ごと飲み込み、サラを焼き尽くした。 「サラッ!?」 ナミは慌ててサラに駆け寄った。サラは焼け焦げ、すでに戦える状態ではない。むしろまだ生きている事の方が不思議だった。炎タイプのサラだか らこそ、僅かに炎に対して抵抗したのだろう。そうでなければ、一撃で死んでいた。 これはすでにポケモンバトルではない。完全なる殺し合い。 「サラ、無茶させてごめん。ゆっくり休んで・・・」 ナミはサラをボールに戻した。ナミの手持ちの中で最も力量の高いサラが、手も足も出ない。相手はそれほどの攻撃力がある。真っ向勝負は、無意 味。勝ち目が全くない。 「ルギア!ヒメリの実を使って『エアロブラスト』!!」 PPを回復する効果を持つ木の実を食べ、ルギアはさらに空気弾を放つ。キクコと戦っているサカキからの、援護攻撃。 「・・・愚かしい」 ハザマはキメラに真正面から攻撃を受けさせる。 ズドンッ! ものすごい破裂音が響くが、キメラは無傷。そのままルギアに向かって突っ込む。 「『りゅうのはどう』!!」 ドラゴンの放つ不可視の波動が、ルギアに打ち込まれる。 ルギアの巨体が吹き飛ばされ、木々をなぎ倒した。 「ルギアッ!?」 「フェッフェッフェ!よそ見してると痛い目を見るよ!」 サカキの死角からキクコが姿を現す。不意を衝かれ、サカキの反応は間に合わない。 「ゲンガー!『シャドーボール』!!」 ゲンガーの放つ影の球がサカキの背に当たる。サカキは血を吐き、地に伏した。 |