■勝利の可能性

「休むな!ルギアにトドメだ!『かえんほうしゃ』!」

キメラの放つ脅威の熱線がルギアの身体を焼き尽くす。伝説に名を刻むほどの強者も、キメラの前にはなす術がなかった。

ゆっくりと、ルギアはその巨体を横たえた。瀕死の状態。すでに戦える状態ではないし、指示するトレーナーも動けない。ルギアはもう、戦えない。

「終わりだな、チャンピオン。サカキとルギアは倒れ、お前の最強の手持ちも歯が立たない。貴様らに勝ち目などない」

「・・・ッ!」

ナミにはわかっていた。まだ、僅かながら可能性がある事を。

この戦いの地にて、自分が最強ではない事をナミは知っている。本気になればナミより強いトレーナーが味方にいる。だけれども、そのトレーナーは

安否すらわからない。

「(・・・ショウ!何をしてるのよ!私がピンチになったら助けてくれる約束でしょ!?助けて、生きてるって示して!ショウ――!)」



誰かが、呼んでいた。悲鳴をあげている。

助けなきゃいけない。そう思う。

何故か、それができるのは自分だけな気がするから。

全身の感覚がない。けれど、必死に力を振り絞る。助けなきゃ・・・!

俺の力は、そのための力だッ!



「痛ッ・・・!?」

目覚めた瞬間、全身を激痛が駆け抜けた。

ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回す。

キメラがいたはずの場所には誰もいない。そして、キメラがいたはずの場所とショウの間にはポケモンたちが倒れていた。

「ラン!ハイロン!ヒノ!カイ!大丈夫か・・・!?」

ポケモンたちが、とっさにショウを庇った。だからこそ、ショウは生きている。本来ならポケモンの技を受けて人間が無事でいられるはずがない。まし

て、それがキメラの一撃なら、なおの事。

ショウは這いずるようにポケモンたちのところへにじり寄った。

どのポケモンもひどい火傷を負っている。当然ながら瀕死状態で、このまま放置すれば命が危ない。

「させ、ないよ・・・」

ショウは手をかざした。そして、“力”を放つ。

「・・・ッ!」

少し動くだけでも激痛が走る。そんな状態で回復の力を使えば、それは半端ではない負担。万全の状態ですら負担がかかる技をこんな状態で使え

ば、シャレにならないダメージになる。

それでもショウは力を使う。自分の命を預けてくれた者に対して、命を捨てられないで何がトレーナーか。

「・・・頼む、死なないでくれ。みんな!」



「あれは・・・伝説のポケモン、ルギア!?」

白衣の男の視界にも入った。銀色の翼を持つ、圧倒的な戦闘力を持ったポケモン。あれほどのポケモンでも、しかしキメラには敵わない。

「・・・急がねば」

残る気力を振り絞り、博士は走る。助けたい者がいる。だから、無茶ができる。

立ち止まる暇は、ない。



「どうした?それともまさか、ひとりで我々を相手取るつもりか?」

ハザマはナミを見下ろす。圧倒的な優位。それがハザマには心地よかった。強者だけが味わう事のできる、勝利の感覚。それはいかなる感覚より

も心地よい。

「・・・決まってるでしょ。私がどうしてあんたたちみたいなゲスを相手にして負けを認めなきゃいけないわけ?」

「ゲス、ね。言ってくれるじゃないの」

カンナの眼鏡が光る。静かな怒りを発しながら。

「凡人にはやはりわからないか。我々の理想は」

「・・・理想、ね」

ナミはハザマの言葉を鼻で笑った。

「確かにミカンや博士って人はポケモンの事を想って、想いすぎて道を誤ってしまっただけ。でも、あんたらは違うわね。あんたたちはポケモンの事な

んてカケラも気にしていない」

「それはどうかな?私もポケモンはとても大事さ」「嘘ね」

ナミはハザマの言葉を言下に否定した。

「あなたたちの戦い方を見ていればわかるわよ。ポケモンの事なんて気にしていない。あなたたちにとって、ポケモンはただの道具。自分の格好を

見てみなさいよ」

ハザマたちは傷ひとつ負っていない。それどころか、汚れすらあまりない。綺麗な姿だ。

一方、ナミはボロボロだ。汚れだらけで、あちこちに切り傷や擦り傷がある。

「ポケモンを盾にし、自分は決して傷つかない戦い方。そんなのができる奴は、ポケモンを大事にしているはずがない」

「大事にしているとも。大切な盾であり剣だからな!」

ナミの表情が一層、険しくなる。ハザマはその様子すら楽しんでいるようだ。

「あんたら、救えない」

「救って欲しいなどとも思わん。私を救うのは唯一、私のみ。さあ、消えろ。無意味な論争にも飽いた」

ハザマが片手をあげる。キメラが大きく息を吸い込んだ。

ナミはポケモンを出さない。出しても無駄だとわかるから。ただ、どうすればいいかを頭の中で必死に考える。

「083号!」

そこに聞きなれぬ男の声が響いた。キメラは攻撃を止め、ハザマの目がすいと細くなる。

「お久しぶりです。博士」

ナミが驚き後ろを振り返った。そこにはボロボロになり、汗にまみれた男が息を切らしていた。

「ハザマ。もう、止めろ・・・。キメラの力は、使うべきではないんだ」

「何を仰いますか。これはあなたが作り出した化け物。すでにポケモンですらない。そして、そんなものを作ったのは他でもない、あなたなのですよ。

博士?」

「わかっている。全て、わかっている。だから・・・止めるんだ」

「止められますか?」

「・・・止めると言ったんだ」

ハザマが片手をあげた。カンナとキクコが同時にボールを投げる。

カンナが繰り出したのは人型のポケモン・ルージュラ、キクコが繰り出したのは蛇のようなポケモン・アーボック。

「ルージュラ!『サイコキネシス』!」

「フェッフェッフェ!『かみくだく』だよ!」

「ギアス!」

ナミはバンギラスを繰り出す。アーボックの牙はバンギラスの分厚い装甲を貫き通すほどの力はなく、ルージュラのエスパー技は悪タイプのバンギ

ラスには効かない。

ギアスはその身を盾として、博士を庇った。

「博士って事は、あなたがあのキメラを?」

「・・・すまないと思っている」

うなだれる博士に、ナミは強い眼差しを向けた。

「へこむ暇があるなら即、行動!あいつの弱点、知ってるんでしょう!?」

「ああ。ワタシはそのために来たのだから」

「・・・だったら、どうにかするわよ」

一抹の可能性。吹けば飛んでしまうような儚げな可能性だけれども、それは実際にある。だったら、賭けるしかない。

「さあ、反撃よ!」



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