■倒れる戦士

ハザマのキメラ、キクコのアーボック、カンナのルージュラと、ナミのギアスが睨み合う。博士の力を借りるにしても、カンナとキクコを倒さねばならな

い。博士は戦力として考えられないだろう。ここまで来た事すら奇跡に近い。

となれば、ナミが踏ん張らねばならない。と言っても、四天王クラスをふたりも同時に相手をするのはさすがに辛かった。

しかし、サカキもジムリーダーたちもすでに倒れている。対抗する力を持っているのはナミしかいない。なら、ナミが戦うしかない。

ここでナミが倒れれば正真正銘、戦える者はいなくなる。せめてキメラだけでも倒さない限りは、倒れるわけにはいかない。

「チャンピオン。いかに貴様が強かろうと、我々を同時にはできまい?」

「大きなお世話よ」

ナミはジリジリと博士の近くまで移動した。

「(・・・博士)」

小声で博士に話しかける。博士も口を動かさないように話し出した。

「(・・・何かね)」

「(あのキメラを倒す方法って何ですか?)」

「(ワタシはポケモンの特性を無効化する薬を持っている。『かたやぶり』と同じ効果だ。それを使えば、あいつに攻撃が通じるようになる。これはさら

にキメラを弱体化させる効果もある)」

「(注射とかするんですか?)」

「(いや。霧状にして吸い込めば、吸い込んだ全てのポケモンは特性を無効化される。弱体化するのはキメラだけだがね)」

「(そう。それなら、すぐに放って下さい。あとは・・・私がなんとかします)」

博士は懐に手を入れた。そこには用意してきた薬と、霧状に放つための簡易装置が入っている。

「(・・・なんとかできるのかね)」

「(できるのか、じゃないですよ)」

「(・・・え?)」

「なんとか、するんです」

最後の言葉はハザマたちにも聞こえるように、はっきりと言った。

「あまり粋がると痛い目を見るぞ」

「うっさいわね。とっとと倒されちゃいなさい」

「・・・愚かしい」

一瞬の静寂。それはすぐに、トレーナーたちの指示で掻き消えた。

「『ふぶき』!」

「フェッフェッフェ!『へびにらみ』だよ!」

「目を閉じて『じしん』!」

最初の攻撃はルージュラの『ふぶき』。その隙間から相手の動きを麻痺させる『へびにらみ』の視線が飛ぶ。

だが、『へびにらみ』は目線を合わせねば効果はない。目を閉じた今のギアスならばその効果は無効だ。本来なら目を閉じれば攻撃できなくなる

が、『じしん』は攻撃の方向を選ばない。つまり、目を開いているかどうかは関係がない!

圧倒的な冷気の中で、しかしギアスは完全にそれを意識せず大地を揺らす。衝撃は地を走り、アーボックとルージュラに大きな打撃を与える。

アーボックは元より地面タイプの攻撃に弱い。また、ルージュラは耐久力に関しては高くない。

「ルージュラ!?」

「フェッフェッフェ!やられちまったねぇ!」

カンナは焦りを顔に浮かべ、キクコは楽しそうに笑った。

「面倒だから残り全部でいくよ!クロバット!ゲンガー!」

キクコはボールから4つの翼を持つコウモリ・クロバットと、3体目のゲンガーを繰り出す。一方、カンナはだいぶ疲れたラプラスだけを繰り出した。こ

れが四天王の最後の手持ち。

「さあ、終わりよッ!」

カンナが指示を飛ばそうとした時、博士は小瓶を放り投げた。光を浴びて小瓶は放物線を描く。

「・・・ッ!あの瓶を割らせるなッ!」

「甘い!ギアス、『いわなだれ』!」

ハザマたちの反撃が入る前に、ギアスの一撃が大地を砕く。砕かれた岩石は雪崩のように瓶を襲った。

「ラプラス!『ふぶき』!」

岩石を凍らせようと吹雪が襲うが、指示が遅く間に合わない。

岩弾のひとつが瓶に当たり、砕け散る。同時に煙が戦場を覆った。視界が悪くなるほどではない煙は、不思議と落ち着く香りを放つ。

「ちッ!キメラ!『りゅうのはどう』!」

「トドゼルガ!『まもる』!」

キメラが波動を放つ。ナミはここまで温存していたトドゼルガを繰り出し、絶対防御の力を使わせた。『まもる』を使っているポケモンには、いかなる攻

撃も通用しない。

ドオンッ!

すさまじい衝撃音が響き渡る。重い一撃。だが、ルギアを吹き飛ばした時ほどの威力はない。

「・・・やはりか!」

「フェッフェッフェ!キメラを弱体化させる薬かい!やるじゃないか!」

煙はすでに消えたが、効果は続いている。今なら、キメラを倒せる可能性がある!

「トドゼルガ!『なみのり』!」

「そんな力量の低いポケモンの一撃が効くと思っているのかい?クロバット!『ふきとばし』ちまいな!」

4つの翼が豪風を生み出し、トドゼルガの水流を吹き飛ばす。

「ゲンガー!『ギガドレイン』だよ!」

ゲンガーはトドゼルガからエネルギーを吸収する。ゲンガー自身の体力を回復しつつ、トドゼルガには大きな打撃となる一撃だ。

「ギアス!サポートして!」

「甘いわよ!ラプラス、『ふぶき』!」

ラプラスの放つ吹雪がギアスを包み込む。体力自慢のバンギラスも、何度も受ければただで済むはずがない。

「・・・ギアス!」

ギアスが倒れた事に、ナミは僅かに気を取られた。そして、その時間はクロバットが移動するのに十分な時間。

「『ふきとばせ』!」

ナミの目の前で、風が巻き起こる。動くのが遅すぎて、ナミの行動は間に合わない。

突風がナミを吹き飛ばし、崖にその身体を叩きつけた。

「ガあ・・・ッ!」

ずるずると、ナミは地面に倒れ伏した。トレーナーの指示が途切れて戸惑うトドゼルガに、ゲンガーのトドメの一撃が放たれる。

「『シャドーボール』!」

ゲンガーの放った一撃はトドゼルガを叩き潰した。トドゼルガも“気絶”。

「・・・終わり、だな」

ハザマの静かなセリフが、シロガネの戦場に響く。

戦いは、終局へと向かっている――。



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