■灼熱の結末

「なんだ。まだ立ち上がるのか。しつこいと言うべきかな?」

ランから視線を外し、ハザマはショウを睨んだ。

ポケモンの技をその身に受ければただでは済まない。まして、不意打ちの直撃。立てるのが不思議な話だ。

「長々と戦ってしまったし、私もそろそろ終わりにしたいのだよ。倒れてくれないか?」

「ラン、から・・・離れろ」

ショウは身を木に預け、小さな声で呟く。

「・・・いいだろう。サイドン、離れろ」

サイドンはランから離れ、ショウの前に立った。

「今度は君が代わりとなるのだろう?」

ハザマもまた、ショウの前に立った。ショウに逃げ道はない。どちらにしろ、逃げる力はない。

ショウとて何ができるとも思っていない。ただ、ポケモンを無意味に傷つけたくはなかった。

「ショウ。最後に言い残す事は?」

「・・・そうだな。面白い事を教えてやる」

ぜーぜーと息を吐きながら、ショウは下からハザマを見た。その顔には絶対の余裕がある。

もう何度目かわからないくらい、ハザマは愚かだった。

自分以外をゴミと決め付ける。それが、ハザマの敗因。

「博士はまだ動けるんだよ」

反射的にハザマが振り向く。そこには、手に光る塊を持つ博士とランがいた。

「ハザマ。お前は本当に馬鹿だな」

“げんきのかたまり”というアイテムがある。戦闘不能になったポケモンに元気を取り戻させるアイテムだ。

ランほどボロボロになると完全回復はできないが、一撃を放つには十分だった。

「ラン!気合でぶち込め!『神鳴拳』だ!」

「サイドン、避け・・・!」

鈍重なサイドンでは回避が間に合わない。

戦場を駆け抜け、ランの限界を超越した一撃が、サイドンの背を打つ。圧倒的にして遠慮のない電圧は、本来なら電撃を通さないサイドンの体を駆

け抜け、破壊する。

「サイドン!」

サイドンの大きな体が、

「ポケモンを道具扱いするからさ」

ゆっくりと、

「だから負ける。だから気付かない。生き物は、道具じゃないんだ」

倒れた。

ハザマの切り札、サイドンが倒れた。これでもう、ハザマは戦えない。

同時に、ランも残る全ての力を使い果たし、今度こそ本当に・・・倒れた。

「く・・・そおおおおおおお!!」

低く恐ろしいおたけびが響く。ハザマは拳を振り上げ、ショウの顔面を殴りつけた。

吹き飛んだショウは地面に叩きつけられ、僅かに血を吐いた。

「何故だ!この私が!何故にこんな子供に勝てない!何故、この私が何度も敗北せねばならない!こんな、こんな結果を認められるものか!」

「ハザマ。ショウ君が言っていただろう。ワタシたちはポケモンを生き物として扱う心が欠けていた。それが、敗因なのだ」

博士はハザマに優しい声で語りかける。だが、ハザマの心には・・・届かない。

「くそッ!こうなれば・・・・!」

ボンッ!

ハザマはボールを放り投げるた。現れたのは、残る唯一の存在。

「083号!こいつらを殺せ!お前ならできるだろう!」

キメラはゆっくりと、ハザマの前に立った。主人を見下ろすそのまなざしは、ひどく悲しげで。主の間違いを正せない。子供は親に逆らえない。親だけ

が子供の世界だから。親に見離された子供は、どうやっても生きていけないから。

それでも、キメラは決意する。自分という、在るべきではない存在を認識するからこそ。必要とされるべきではない自分だからこそ、できる事がある。

キメラはその太い腕でハザマをガッシリと掴んだ。

「な!?何をする!離せ!」

人間であるハザマがどれだけ暴れようと、キメラが相手では無意味。

「お、い・・・。待て・・・」

ショウは虫の息で、それでもキメラを止めようとする。キメラはショウに向かって首を振った。その顔は、まるで微笑んでいるようだ。

「博、士・・・。止めない、と・・・」

「・・・ショウ君。親は、子供の選択を許す事も仕事なんだ。子供が自分で深く考え、出した結論ならば、たとえそれが間違っていたとしても、一度は

やらせてあげなければいけないんだ」

「だ、だからって・・・。そ、そんなの許せば、キメラは・・・」

博士はキメラと同じように首を振った。

「ついでだ。ワタシも子供の選択に付き合う事にするよ。ボーマンダ、ピジョット」

博士がボールを放り投げる。現れたポケモンは、平均よりもずっと大きな体のボーマンダとピジョット。

「この人たちを山のふもとまで連れて行くんだ。その後は、そうだなぁ・・・。そこの少年に従いなさい」

ハザマは軽く手を挙げ、ショウに背中を向けた。

「それじゃあ、さようならだ。ショウ君。次があったら、その時は仲良くしよう。

・・・逝こうか、083号」

ハザマが何かをわめき散らしている。博士とキメラはそれを完全に無視し、洞窟に向かって歩き始めた。

すでに力を使い果たしたショウは起き上がる事すらできない。ただ、その背中を見送る事しかできない。

もはや声すら出せないまま、ショウの意識は途切れた。



グツグツと煮えたぎる火山。まるで闘技場のような岩場の上で、博士はキメラの肩に乗った。

「おい、止めろ!私を巻き込むんじゃない!」

ハザマの悲痛とも言える叫びが洞窟に反響している。そんな言葉は聞きもせず、ゆっくりとゆっくりと、キメラは宙に浮かび上がった。

「思えば、お前と一緒に過ごすのは初めてかもしれないな。そうだ・・・083号。お前に名前をやろう」

キメラは綺麗な瞳を博士に向けた。

「ショウ。私が尊敬する、世界一の男の名前だ」

キメラは小さく優しく、嬉しそうに鳴いた。

「ショウ、もう離れたりしないからな。ずっと・・・一緒だ」

ハザマを抱いたまま、博士を肩に乗せたまま、キメラはふわりと飛び上がった。

そのまま羽ばたく事なく、キメラたちは落ちていく。下には火山。燃える炎は骨も残さず全てを焼き尽くすだろう。

キメラとて生き物。ポケモンの技も通用するようになった今、火山に沈めば間違いなく博士と同じ道をたどる事となるだろう。

「ああ、これが・・・ワタシが望んでいた永遠なのだな」

博士の最後の言葉が、洞窟の中に残る。

ドボンという、重いものが沈む音が響いた。音はすぐに消え去り、後には何も残さない。

ただグツグツと、マグマの煮える音だけが途切れる事なく続いていた。



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