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■得られたモノ
ショウが目を開いた場所は、白だけがあった。 白い壁、白いベッド、白いシーツ、白い机。何もかもが白い中で、自分だけに色があった。 「ここ、は・・・?」 正面に扉がひとつ。反対側には窓があり、外は気持ちよさそうな風が吹いている。 カチャリと扉の方から音がした。 ショウが振り向くと、ジョーイが書類のようなものを抱えて入ってくるところだった。 「あ、目が覚めましたか」 ジョーイは笑顔を見せた。 「すいません、ここは・・・?どうして俺はここに?」 「ここはシロガネ山のふもとにあるポケモンセンターです。あなたはボーマンダの背中に乗って飛んで来たんですよ。本当にボロボロで・・・。一体、 何があったんですか?」 ――シロガネのふもと。何があったか。それは・・・。 「そうだ!ナミさんたちは!?」 立ち上がろうとするショウを、ジョーイは慌てて押しとどめた。 「まだ動いちゃダメですよ!全身の骨にヒビが入っているんですよ!?」 ジョーイが押しとどめるまでもなく、ショウは全身に走る激痛に耐えかねて、ベッドに横になった。 「他の部屋にお連れの人もいますよ。あなたほどではないけれど、どの人もボロボロで。手当て、すごく大変だったんですよ?」 「そう、ですか・・・。ポケモンたちは?」 「治療室にいます。たいていのポケモンは治療が済んでいるんですけど・・・」 そこでジョーイは言いにくそうにためらい、それでも口にした。 「あの、デンリュウちゃんは・・・。たぶん、もう電気は使えないと思います。電気を発生させる器官が完全に死んでいて・・・」 「そう、ですか・・・」 すでに予想はできていた答え。それだけに、ショウは軽く首を振って、すぐに調子を立て直した。 「あの、見た事のない珍しいポケモンはいませんでしたか?」 「・・・いえ?デンリュウ、キングドラ、ヒノアラシ、それにあなたのボールに入っていたエアームド。後はあなたたちを連れてきたボーマンダとピジョット くらいかしら?特に珍しいポケモンはいなかったと思うけど・・・」 「やっぱり、そうなんですね」 あの時、シロガネ山の火山洞窟の前で、ショウは僅かながらキメラの声を聞いた。 『必要とされるべきじゃないってわかるから、もう終わりにしよう?』 それは、ハザマへの問いかけ。しかし決して届く事はない問いかけ。 ポケモンの声を聞けるトレーナーはそうはいない。なんとなくわかるという段階ですら、深い絆が必要になる。だが、ハザマは・・・ポケモンとの絆を、 持とうとすらしなかった。だから、キメラの声は届いていなかっただろう。 「とにかく、当分の間は安静にしていて下さいね。絶対に動いちゃダメですよ!」 ショウに釘を刺し、ジョーイは部屋を出て行った。 「――そんな道しか、なかったのかな。必要とされないなんて、そんなのあっていいのかな・・・。あいつだって生きていたのに。なのに、なのに自分 から捨てなきゃいけないなんて・・・。そんなの、悲しすぎるじゃないか」 ショウは天井を見つめながら静かに呟き、そっと頬を濡らした。 結局、何もしてやれなかった。戦い傷つき、その先で得られたものは、無力感と絶望だけ。悲しく暗い想いだけが、戦いの先にあった。 本当は知っていたのかもしれない。戦えば、何も得られないという事は。だけど、それでも戦って。やはり、何も得られはしなかった。 四角い空が、段々と曇ってきた。間もなく雨が降るだろう。 全てを洗い流すような、激しい雨が――。 数日が過ぎ、ショウはようやくナミたちと逢った。 驚いたのは、ウツギ博士とオーキド博士まで尋ねてきた事だ。 「私が連絡しといたの。一応、色々と報告しなきゃいけないしね」 包帯を頭に巻き、ナミはごく当然という風に言っていた。 博士たちも揃ったところで、ナミが事情のほとんどを報告した。ミカンが実はロケット団に加担していた事、サカキがルギアを連れて現れキメラと戦っ た事、四天王のキクコとカンナもハザマに従っていた事。 最後のところだけは、ショウが報告した。ハザマの手持ちを全て倒した事、おそらくはキメラが自らの意思で・・・死を、選んだ事。そして、それに博士 が同伴した事。 全てを聞き終わったところで、ウツギ博士が口を開いた。 「ショウ君、やっぱり無茶したね」 「はは・・・、すいません」 ウツギ博士も笑っていた。笑えるような、状況だった。 「まあ、生きていれば何でもできる。無事とは言いがたいけど、無事でよかったよ」 「・・・ええ、本当に」 ちなみにショウはまだベッドから起き上がれない。普通の人よりは回復力の高いショウでも、数日で治るような怪我ではない。 「ハザマと博士以外は全員、救助されているわ。カンナやキクコも、それに・・・ミカンもね」 ミカンはサラの攻撃が命中していた。が、ボスゴドラが壁となって致命傷は受けていない。どちらかと言えば、ショウの方が重傷だ。 「みんな無事。重傷なのはあんたくらいね」 はは、とショウは小さく笑った。 「ただ、サカキだけは・・・どっかに行っちゃったみたい。ルギアも見つからなかったし、たぶん連れて行ったんだと思う」 「そうでしょうね。ジョーイさんが珍しいポケモンは見当たらなかったって言っていましたし」 サカキとて軽傷ではなかっただろう。だが、ポケモンセンターで過ごせるような身分でもない。彼は彼で、悪事を働きすぎた。 「それでも、いいじゃないですか。サカキさんは戦ってくれたんでしょう?前には悪い事をしたとしても、今回は協力してくれたんですから。そのおかげ でナミさんが生きているなら、俺はサカキさんに感謝しなきゃ」 「・・・でも、捕まえられなかったのは残念よ。それに、あいつだって無事じゃなかったはずなのに」 沈黙が部屋を支配した。 一度に理解し、想うためには、あまりにも色々な事がありすぎた。 「まあ、無事で何よりという事じゃ。まずは体を直す事。それ以外はその後に考えればいいんじゃよ。起きた事件は起きた時に対処するものじゃ。あ れこれ考えても、何も起きていない間は何もできんものじゃ」 オーキド博士は努めて明るく言う。体の傷を癒し、事後処理を行い。これからは、とても忙しい。 「そうそう。ひとつだけ言い忘れていた事があったよ」 ウツギ博士は思い出したようにぽんと手を打った。 「“いかりのみずうみ”の中に研究所があったという話なんだけど、改めてポケモン協会の人が見に行ったら、建物が崩れていたと言うんだ。ショウ 君が持ち帰ったいくらかの研究資料も、全てオーキド博士が燃やしてくれたそうだ」 「あれは・・・人が行うべき研究ではないものじゃ」 命をもてあそぶ技術。 悪魔的とすら言えるその技術のせいで、多くの命が傷ついた。多くの心が傷ついた。 最初は小さな疑問に過ぎなかったのに。ポケモンを想う気持ちは、逆にポケモンを苦しめてしまった。 「・・・ありがとうございます。博士」 短く礼を言い、ショウは頭を下げた。 もう、あんな命とは出逢いたくはない。作られた命など、あっていいものではない。 ポケモンであろうと人間であろうと、命である以上は・・・生きているのだから。 |