■博士の研究

登りきったところに大きな建物があり、扉にノッカーが付いている。ショウがそれを叩くと、ほどなく扉が開いた。

「はい。ショウさん、ですよね?」

扉を開いたのは若い女性だ。茶色い長い髪に、緑色の瞳。白衣を着ている。

「はい。あの、オーキド博士は・・・?」

「上にいますので、中へどうぞ」

女性に案内され、ショウは奥へと入っていった。

2階の研究室らしい広い部屋に初老の男性が立っていた。白髪に白衣。紛れもなく、あの有名なオーキド博士だ。

「君がウツギ君のところのショウ君か。ワシがオーキドじゃ」

博士はにこやかに挨拶をした。

「私はナナミ。お爺ちゃんのところで助手をしているの」

案内をしてくれた女性も自己紹介をしてくれた。お爺ちゃんって事は・・・?

「ナナミさんって、もしかして・・・オーキド博士のお孫さん?」

「ええ、そうよ」

微笑んで言う彼女。

――それってかなり凄い事なんですけど・・・。

オーキド博士は、世界的にも有名な博士である。昔はポケモントレーナーとして凄腕だったそうで、現役のトレーナーを引退してからは、世界中のト

レーナーが憧れる機器・ポケモン図鑑を作ったのである。このポケモン図鑑というのは、現在確認されているポケモンのデータや手持ちの技、状態

なんかをサーチできるアイテムである。

「ショウ君、君に持っていって欲しい研究資料なんじゃが・・・」

オーキド博士は机の上に置いてあった書類袋とボールを持ってきた。

「これじゃよ。最新のポケモンの卵に関する論文と、卵から生まれたスボミーというポケモンじゃ」

オーキド博士から、ショウは荷物を預かった。

「はい。確かにお預かりしました。では、俺はこれで・・・」

「いやいや。今日はもう夕方じゃ。今日はワシのところに泊まりなさい」

窓の外を見ると、空が真っ赤に燃えていた。確かに、今から戻ってもすぐに夜になってしまうだろう。

「では、お言葉に甘えて・・・」

そう言って、ショウはオーキド研究所に泊まる事にしたのであった。



翌日、ショウは博士とナナミに見送られてオーキド邸を後にした。

今日はランとカイ(エアームドのニックネーム)はボールの中。頭の上にヒノを乗せているだけである。

マサラタウンを出て、昨日通った道を戻る。センターの前を通り、山道を抜け、夕暮れ時にはワカバタウンの近くまで来られた。登り道の行きと違い、

帰りは降りだから早い。その道すがら、ショウは突然立ち止まった。ヒノが何事かと声を出す。

「・・・・誰?」

場所はワカバタウンと山道のちょうど中間辺り。左右は腰くらいまでの高さの草に覆われ、街道が一直線に伸びている。他に通る人影は見当たらな

い。

「来ないのならこっちから行くか。ヒノ、右の方に『えんまく』だ」

ヒノはとりあえず頷くと、右手の方向に煙を吐き出した。『えんまく』はその名の通り、黒い煙で相手の視界を阻む技である。

突如、右手の方から咳き込みながら数人の男が出てきた。皆が黒い服を着ており、あからさまに怪しい。胸には赤い文字でRと書かれている。

「ロケット・・・団?」

ロケット団とは、カントー地方を中心に活動していた組織である。ポケモンの生体実験、他のトレーナーからのポケモン強奪、果てはアイテムメーカ

ーのシルフカンパニー乗っ取り未遂まで。様々な悪事を働く連中である。彼らは真っ黒な団員服を着込み、昼間から活動している。警察が逮捕でき

ないのは、個々の事件において明確な証拠がなかったり、幹部クラスの居所が全くつかめないためらしい。

しかし、数年前にとあるポケモントレーナーの少年が組織のボスと直接対決・組織は壊滅した筈だ。

「バレてしまっては致し方ない!」

黒服の中からどうやらリーダーらしい男が前に出てきた。

――いや、その服着てれば子供でも知っていますが・・・。

どうにも抜けているような気がするショウであった。

「私はR団幹部候補見習い!旋風のマイトだ!そして後ろに控えるのは私を支持するR団下っ端!」

リーダー格らしい男が名乗りだした。青っぽい紺色の短髪に、真っ黒な服を着ている。

――後ろの方でなにやら皆様偉そうな顔しておりますが、候補見習いに付き従う下っ端って・・・。気が長いと言うか何と言うか・・・・。しかも下っ端と

か言われて怒らないし。

「お前がオーキド博士から研究資料を預かっている事はわかっている!なにせ一昨日の夜からずっと待っていたからな!おかげで風邪を引きかけ

たぞ!」

――ああ。実は涙ぐましい努力してたんですね。

「大人しく差し出せば手荒なマネは・・・・!」

「ヒノ、『ひのこ』」

ヒノは地面に降り立ち、背の炎を燃やして口から火弾を撃ち放った。

「ぬおおおおおえええええ!?」

R団の連中は突然の攻撃に隊列を乱しまくり。誰が素直に悪役のセリフを最後まで聞くと言うのだろうか。

「カイ!飛んでくれ!」

ボールからエアームドを繰り出し、ショウはその背に乗った。カイは大きく翼を広げると、空に飛び上がる。ついでにぴょこんとヒノが飛び乗った。

「あ!こら!待て!」

「誰が待つか!ヒノ!もう一発『ひのこ』だ!」

今度は上から落ちてきた火弾にR団は慌てている。その隙に、ショウはカイを促してワカバタウンへと向かうのであった。



ワカバタウンに到着する頃には日が暮れてしまった。ウツギ博士はもう帰ってしまっている可能性もあったが、ショウはそのままウツギ研究所に直

行する。

「あれ?ショウ君じゃないか」

ちょうどショウが研究所に到着する頃、ウツギ博士は研究所を出るところだった。

「博士!カイ、降りてくれ」

カイに地上に降りてもらい、ボールに戻す。

「博士、研究資料をロケット団が狙っているみたいなんです。警察に連絡して下さい」

「ロケット団?ロケット団って、あのカントー事件の?」

ウツギ博士は驚くよりも実感が沸かないらしい。もっとも、ここ何年かロケットのRすら見ない日々が続いたのだから無理もない。

「はい。本当かどうかわかりませんが、黒服にRの文字はロケット団でしょう。多分、研究資料が届かなかったのもあいつらのせいだと思います」

ショウの真剣な表情から何か伝わったのか、ウツギ博士は頷くと研究所の中に入っていった。ショウも後に続く。

博士が警察に電話をしてくれた。どうやら警察も少し戸惑っているようだが、博士の名前が利いたのか、急行してくれる事になった。

博士が電話をし終わったところで、ショウはウツギ博士にオーキド博士からの荷物を手渡した。

「これがオーキド博士からの?」

「はい。最新のポケモンの卵に関する論文と、卵から生まれたスボミーというポケモンだそうです」

「なるほどなるほど・・・」

博士がつい研究に没頭しそうになるのを、ショウはいつも通りに止める。

「博士。今はそれどころではないのでは?」

「え?あ、ああ、そうだったね」

――やっぱり忘れていたのか・・・。

ウツギ博士はつい研究に夢中になるあまり、まわりが見えなくなる癖がある。そのせいで以前、ポケモンが盗まれたのに気付かなかったというとん

でもない話もある。

ピンポーン・・・!

その時、チャイムが鳴った。ショウが出ると、警官が2人立っていた。

「警察の方・・・ですか?」

「ええ、こちらの研究所からお電話頂いたのですが?」

ショウは僅かに迷ったが、自分の勘を信じる事にした。

「外にロケット団が狙っているものがあるんです。庭へどうぞ」

「ショウ君?」

後ろに立っていたウツギ博士が疑問の声をあげる。当たり前だ。研究資料は部屋の中にあるのだから。ショウは小声で博士に「信じて下さい」とだ

け言い、庭へまわった。



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