■偶然

アカネの向かった先はにあったのは、大きなモニター画面と、いくらかの計器類。ジムのコンピューターシステム・・・照明や施設の管理を行う部屋

である。専用の通信設備もあり、ポケモン協会や他のジムとの連絡が行える専用の電話線が引かれている。一応、ここから外線に電話をする事も

可能なのだ。

「ちょい待っててな。ええと、ここをポチポチ、と」

電話の呼び出し音が鳴り、画面に一人の少女が映し出された。

茶色いロングヘアに白いワンピース。

一見するとおっとりして頼りなく見えるが、彼女の名前はミカン。れっきとしたアサギシティのジムリーダーなのだ。

可愛い顔をして、今まで多くの挑戦者を退けてきた凄腕のトレーナーでもある。

「もしもし、聞こえてる?」

「はい、聞こえてます。アカネちゃんが電話してくるなんて珍しい・・・。しかも後ろにいるのは、ナミさん?何かあったの?」

「ちょっと聞きたい事があるんや。最近、ロケット団の噂を聞かへんか?」

「ロケット団?噂なら・・・聞いたけど。最近、黒服の男達を見かけたという話をいくつか・・・。あの、真相は・・・わからないんだけど・・・」

「ホンマか?ロケット団が動いてる、ってのは噂だけやあらへんかったんやなぁ。とりあえず新しい情報が入ったら教えてくれへんか?」

「うん、いいけど・・・。アカネちゃんの頼みだし・・・。何か、起きているの?」

「せやな・・・ショウ君、話したってくれへんか?あんたが一番わかってるやろ?」

ショウは頷き、画面の前に立った。

「ロケット団の幹部候補見習いとかいう奴にオーキド博士からウツギ博士への研究資料を奪われました。かなりの準備をした上での作戦だったよう

です」

「研究資料の内容は・・・聞いてもいいですか?」

「ええ。例によってポケモンのタマゴに関する論文とシンオウ地方のポケモンを一匹。目的は不明ですが・・・」

「・・・・そうなの。あたしの方でも、出来る限り・・・調べてみます。何か情報が入ったら、アカネちゃんに連絡すればいい?」

「頼むで」

アカネが締め、画面がブツリと切れた。電話が切れたようだ。

「なんや色々あるみたいやな。とりあえず今日は休みぃ。ウチが何とかしたるわ」

「お願いね。私達だけじゃ情報が足りなくって。それとわかってると思うけど、出来る限り内密に頼むわよ。誰が敵か、まだわからないんだから。相

手が全部、黒服を着ているとは限らないんだもの」

「だ〜いじょうぶや、ウチを信用しぃ。ミカンは信頼できるやろ?」

「まぁ、ね」

「ミカンはあれでなかなか頭ええ。ウチとちごうて危ない橋は渡らへんさかい」

「そうね」

さしあたって、ショウ達はミカンからの連絡を待ちつつ情報を集める事に決めた。

と言っても、今日はもう遅い。その日、ショウ達はジムで夕食をご馳走になり、泊まるのであった。



ミカンからの連絡があったのは5日後であった。それまでの間、ショウ達は何もしていなかったわけではない。連中の一人がここの町の近くにいた

事は間違いないのだ。しかも、サイドンの群れまで連れて。明らかに何かを画策していたに違いない。となれば、それだけの理由がこの周囲にある

はずだ。

コガネシティには名所と呼ばれる場所もかなり多い。ジョウト地方の各地に放送しているラジオ塔、カントー地方とジョウト地方を結ぶ交通機関であ

るリニアの駅、大きく広い地下街道、少し離れた場所には多くのポケモンが住む自然公園や、ポケモンを預かって代わりに育ててくれる育て屋夫

婦。他にも大きなデパートや自転車屋など、なんとも賑やかな場所だ。それだけに聞き込む場所も多い。アカネにも手伝ってもらって聞き込んだが、

芳しい成果は得られなかった。

誰も黒服の男など見かけてないと言う。まさに袋小路に入ったようなものである。

ミカンの情報だけが頼りという、なんとも情けない状況だった。

「アカネちゃん?聞き込みはしてきたんだけど・・・」

「すまんな。で、どうやった?」

「うん、やっぱり全然・・・。関係する話って言ったら、警察が捜査してるとか、そういうのしかなかったの・・・・。アカネちゃんの方は?」

「ウチの方もあかんわ。何も聞けへんかった」

「そう・・・。ごめんね、何も出来なくて・・・」

「ああ、かめへんかめへん!」

アカネが顔の前でぶんぶんと手を振った。

「引き続いて調査してみるね。何か情報が入ったら連絡するから・・・」

プツリと通信が切れた。誰からともなくため息が出る。

「どないしたらええんやろな?」

「どーしようもないってカンジ?」

まさに手詰まり状態である。バトルになればアカネもナミも活躍できるのだが、相手の居場所も目的も不明では手の出しようがない。

とりあえず、様子見するしかなかった。



「手掛かりなし、ね・・・」

ナミはひとりで夜のコガネを歩いていた。夜風に当たると考え事にちょうどよいというのが彼女の持論だ。

「手掛かり・・・ホントにないの?」

今までR団が目撃された場所は、マサラタウン・ワカバタウン・コガネシティ。他で全く見かけないという事は何かしらの目的があり、それを知られた

くないか、潜伏してこっそり行っているという事。つまりどちらにしろ、かなり大がかりなものという事になる。

マサラやワカバには博士の研究資料が目的だったと考えて間違いはなさそうだ。では、コガネには・・・?

「そっか・・・。もしかしたら・・・?」

ナミがある考えに至った時、彼女は考え事に夢中で気付いていなかった。背後に迫る黒い影に―――。



「ナミが居ぃへん?」

「ええ。アカネさんなら何かご存じかと思いまして」

朝になってみると、ナミが起きてこなかった。朝食の時間になったのでショウが呼びに行ったところ、そういう事実が発覚したのだ。

「散歩ですかね?」

「せやな。ま、そのうち帰って来るやろ。迷子になる事もないやろうし。先にご飯にしとこか」

この時はまだ事態を軽く考えていた。おかしいと思ったのは、昼になってもまだ帰って来なかった時だ。

さすがに何かあったかもしれない。まさか彼女が暴漢に遭ったとは思えないが(それほど勇気のある奴はいないし、いても暴漢が無事である可能性

はかなり低い)、事故に巻き込まれたという可能性もなくはない。念のため、コガネ警察に連絡した。

すぐに警察が来て事情聴取をしていったが、残念ながら手掛かりゼロ。警察にも何も連絡が入っていないとの話だった。

その日の夜の事。

「おかしい。まさかとは思うんやけど・・・多分、間違いあらへんな」

「・・・R団、ですね」

ナミに恨みを抱く人間がいないとは言えない。だが、このタイミング。偶然にしては出来過ぎだ。

「どないする?」

「ナミさんがやられたって事は相当の事態です。ナミさんは俺より遥かに強い。つまり、相手はかなりの強さがあるか、何かしら罠を使ったと考える

べきでしょう。この間のコートの男ならナミさんをバトルで倒せるかもしれないけど、そうしたらどうやってもすごい音がします。昨日の晩から今朝にか

けてはそんな気配はありませんでした。つまり、何か・・・奇襲や罠を使ったという事になる」

「せやけどナミは阿呆やない。簡単な罠にはひっかからへんで」

「ええ。ですから、それほどの知略に満ちた相手って事です。多分、こちらが下手に動いたところで読まれてしまうでしょうね」

「せめてナミの居場所さえわかれば動きようもあるんやけど・・・・」

ナミの居場所。それはすなわち、敵の本拠地でもあるだろう。恐らく、容易には見つけられまい。

「・・・可能性は低いですが、ない事もないですね。ひとつ、だけ」

「あるんか?方法が?」

ショウは黙って頷いた。

「方法がそれしかあらへんならそれでええんや。悩む必要はあらへんやろ?大丈夫や、ウチも一緒やさかい!」

アカネが胸をドン、と叩いた。その姿は、頼もしかった。



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