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■爆発する怒り
「ラン!」 ショウはランに駆け寄った。かなりのダメージを受けたらしいが、まだ戦闘不能には陥っていない。 「くッ・・・!ミルたん、一気に決めてまえ!サイホーンに『ころがる』や!」 ミルタンクはまるで巨大なタイヤのように前転を始める。そしてそのままの勢いでサイホーンに体当たりした。サイホーンは壁に叩きつけられて“気 絶”し、ミルタンクの回転はどんどん増していく。 「そのままエアームドにもかましたれ!」 高速回転するミルタンクが、エアームドに向かう。 「・・・エアームド。上に弾き飛ばせ!」 エアームドは自らミルタンクに突っ込み、翼をその下に滑り込ませる。そして、そのままミルタンクを弾き上げた。だが、ミルタンクの回転は止まらな い。ただ弾いただけで止まるほど、遅い回転ではない。 「ミルたん!気にせんと叩き潰したれや!!」 「甘いな。空中では方向転換できまい?エアームド!『こうそくいどう』!横から狙え!」 エアームドは超高速でミルタンクの右手に回り込み、その鋭いくちばしを回転の中心に突き立てる。空中ではかわす事も反撃する事もできない。ま ともにダメージを受けたミルタンクは、自身が回転していたそのままの勢いで床に激突した。 「ミルたん!?」 慌ててアカネが近寄った。あまりの勢いに“気絶”している。これではもう戦えそうにない。つまりは、ショウがハザマを倒さなければいけない、という 事だ。ジムリーダーやリーグチャンピオンすらも敵わないほどの相手を。 「終わり、だな。そのモココではエアームドは倒せまい」 ハザマの言う通りだ。ポケモンの力量も、トレーナーの力量も、格が違う。一般標準と大差ない能力のショウとランでは、天地がひっくり返っても勝て るとは思えない。 「・・・・終わり?まだだよ」 しかし、ショウは敗北を認めない。それは負けず嫌いとか、そんな理由ではない。 負けられないのだ。誰もが思う、安っぽい想いとは違う。心の底から、絶対に、負けられないのだ。 今、負けてしまえば。ナミはどうなるだろう。アカネは、そして、自分自身は。ランは、カイは、ヒノは、どうなってしまうだろう。殺人すらためらわない集 団。死ぬかもしれない。 それだけは許せない。絶対に。 「ラン!『じゅうでん』!」 ランは自身の体内を巡る電気を、拳に集める。強く、強く。通常の倍の威力を持った、電撃を帯びた拳。 「・・・鳥ポケモンを相手に『かみなりパンチ』を使うつもりか?無謀だな。当たるはずがあるまい。もし当たったとしても、エアームドの身体はそれ自 体が強固な鎧。物理的な攻撃などさして効かん」 「そんな事は分かってるよ」 言いつつも、ショウは手でランに指示を下す。 「ふん、愚か者が。『こうそくいどう』!」 ミルタンクを弾いた超高速のスピードで、今度はランに襲い掛かった。鉄色の姿が視界から掻き消え、ランの背後に現れる。 「『はがねのつばさ』!」 硬質化した、それ自体が凶器である翼がランの背を打つ。それは鉄パイプで殴り飛ばされるよりも高いダメージ。あるいは背骨すらも折れてしまうか もしれない。ランが耐え切れたのは、どこからかはともかくとして、攻撃が来るタイミングだけは分かっていたから。不意打ちだったら、確実に倒され ていた。 だが、おかげで最高のチャンスが来た。攻撃の直後。それは、いかなる者も最大級の隙を生み出しやすい。たとえハザマのエアームドだろうとも。 「今だ!『かみなりパンチ』!!」 背後の絶対的な存在感に向かってランは拳を振るう。今のランにできる、最大級の攻撃。 それは確実にエアームドの顔を殴りつけた。圧倒的な電圧を帯びた一撃が、エアームドを壁に叩きつける。 「・・・で、それが何だと言うんだ?」 しかし、エアームドは立ち上がる。不敵な笑みを浮かべているような、そんな気すらする。全然・・・効いていないのだ。 「何しとるんや!パンチがあかんなら放電すりゃええやろ!?」 「・・・・理なんですよ」 「はぁ!?」 聞き取れず、感情的になったアカネは、ついキツイ問い返しをしてしまう。 「無理なんです。ランは、放電が出来ないんですよ」 「何やて・・・・!?」 驚くべき事実だ。電気タイプのポケモンが放電できないなんて、普通はありえない。つまりそれは・・・。 「悪い言い方をするなら、ランは出来損ない。生まれながらに体外に電気を放出するための器官が発達してないんです。ランには。そのせいで、ラン は身体の外に電気を出せない。唯一できるようになったのが『でんじは』なんです。それ以外、特に攻撃できるほどの威力は出せない。だから・・・ 無理なんですよ」 ランは申し訳なさそうにメ〜と声を絞り出す。別にランが悪いわけではない。あえて言うなら、運が悪かった。それだけの話。だが、その事実が現状 を悪くしていた。 「メ〜!!メ〜メ〜メ〜〜!!」 ランの悲痛な叫びがこだまする。絶対に埋まらない力の差。それが、悔しい。今まで力を欲した事はなかった。しかし、今は違う。 ――力が欲しい。勝ちたい。なのに、なのに・・・! 「ラン、投げやりになるなよ。道はあるさ」 ショウが慰めるように言う。だが、ランの想いは収まらない。 「・・・どこに?お前らの前には敗北まで伸びる下り坂しか残っていない」 ハザマは冷静に言う。淡々と、事実だけを。それは希望もない、優しさもない、ただの事実。変えることのできない存在。 「・・・・・メエエエエエエ!!!」 ランは、力を求める。ランにとって、今ほど勝ちたい刹那はなかった。 どうしようもない悲しみ。弱い己への怒り。倒せない壁が存在しているという絶望感。それら全てがランの小さな身体を駆け巡り、それら全てがラン に力を与えようとする。 「ラン・・・!?」 常に一緒にいたショウだから感じた。ランの中で渦巻く想い。その大きな感情の奔流が、ランの中で形を成していく。そして想いは光となり、ランの 身体を優しく包んでいく・・・。 「な・・・に!?」 ランの身体が光り始めて、ようやくハザマもアカネも、何が起きようとしているのかを理解する。これは、進化の光。 「エアームド!潰せ!!」 慌ててエアームドが飛び立つが、すでに・・・遅い。途切れた光の渦から黄色い手が伸び、エアームドの顔面を正確に撃ち抜く。 「メー!!」 光の中から現れたランは、眩しいほどの光を放っていた。出来損ないのモココは今、デンリュウへと“進化”したのだ――。 |