フンババの角。
 それがどれほどの武器なのか、アディーは知るよしもない。だが、衝突した時の感覚では何となくわかる。
 少なくても、アディーの素手よりは強度がある。おまけに、元は魔獣の一部。アディーが扱う闇の魔力とも相性がいい。
「……」
 じり、とフンババとの距離を測るアディー。次の瞬間、一気に駆け出す。
「ルゥァ!!」
 フンババが吐き出す炎をかわし、落ちていた角の欠片を拾う。反転、突撃!
「ふッ!!」
 回転をかけた蹴りの一撃。当然、鱗に阻まれ、ダメージは通らない。だが、そこを起点にアディーはさらなる跳躍。
「ここからなら……!」
 高く跳んだアディーは、そのまま洞窟の天井に足をつける。ぐっ、と力を込め、一気に突撃!
 フンババの角を手に、拳を突き出す!!
「喰らえッ!!」
 全力の拳。鱗と角を挟んだ拳が衝突し、火花を散らす。
「くッ……。うっ!?」
 拳を振り回すフンババ。かろうじて回避し、地面を転がりながら距離を置いた。
 手に握った角を見やる。先端が欠け落ちていた。
「……」
 手応えで分かる。これほどの一撃をもってしても、フンババの鱗は砕けなかった。
 おそらくは、傷をつけるくらいはできた。先ほどまでの拳だけよりは幾分マシだが、それでも痛打にすらなっていない。
 信じられないほどの防御力だ。
「ここまで、ですか」
 もう打つ手が思いつかない。
「……もう」
 死ぬしかない。そう思いかけた時、
「諦めてんじゃないですッ!!」
 流星が飛び降りた。
 槍の先から落下する無茶苦茶な突撃チャージ。フンババの欠けた角と激突し、弾かれ、地面に転がる。勢い殺さず、そのまま一転して立ち上がった。
「サ、サフィ!?」
「アディー! 助けに来ましたよ!」
「わたしもね!」
 同じく飛び降りてきたのは、先ほど出会った料理人・エメルだった。
「エメルさん!? なんで!?」
「せっかく上等な獲物だもの。こんなの手に入れたら、わたし、すぐさま昇進だわ!」
「そんなバカな……!」
「アディー!」
 サフィは首を横に振り、
「大丈夫です。こいつは、ボクらに任せてください」
「任せるって言っても……。こいつの強さは並じゃありません!」
「わかってますよ。トリアイナ! 魔力鎚!」
「NAI」
 魔力を大幅に削るハンマー攻撃。その先端は尖っており、さながら杭打ち機だ。
「ぶちかまします!!」
「無茶なっ……!!」
 サフィの全力打撃。振り上げたハンマーに、フンババもすぐさま反応する。
 振り上げた柱がハンマーと激突する、その瞬間。
「散開!」
 魔力を散らした。当たるはずだった衝撃はなく、すかされたフンババは勢いそのままよろめく。
 その隙を、エメルは待っていた。
点火イグニス! 爆進一刀テルマ・ラーミナ!!」
 爆破によって飛び出すエメル。その勢いは、瞬間的だが、アディーを越えている。
 極太の刃が爆発の勢いそのままに鱗へと叩き込まれ、
「せいッ!!」
 振り抜く。アディーがあれほど苦戦した鱗をなんとか削り取り、その下にある地肌が覗いた。
「っ!!」
 アディーは、声をかけられなくても体が動いていた。
 走り、拳を握り、叩き込む!!
「崩拳!!!」
 今度こそ、拳が通じた。
 数枚の鱗が欠けた箇所。フンババの地肌に腕が直接、突き刺さる。深く肉をえぐり取り、アディーはそのままバックステップで引き下がった。
「ルァァァァァァ!!」
 吼えたフンババは、黒い煙を吐き出すと、そのまま大きくジャンプした。ぐらぐらと洞窟が揺れる。
 煙が晴れると、そこにフンババの姿はなかった。
「痛みで、逃げ出した……?」
「なんとか、生き延びましたね」
 サフィが言って、全員がへたりこんだ。

☆   ☆   ☆   ☆


 振動で、アレッサ・マウルは気づいていた。
「へえ、なんとか生き延びたんだ」
 ぐらぐらと近づくフンババの進撃音。アレッサにとって、それは勝利のファンファーレだ。
「ふふ。うふふ。うふふふふふ。いいじゃん、最高じゃん? まさかまさか、本当にフンババと戦っても生き残るなんて! とっても強いじゃないの!」
 べろりと舌なめずりしたアレッサは、
「面白い」
 そうつぶやき、足を止めた。
 洞窟を出てすぐ。周囲は背の高い草に囲まれた草原だ。
 そんな開けた空間で、アレッサは剣を抜く。
 振り返ると、ドスドスと地面を揺らしながらフンババが走ってくる姿が見えた。
「そんなにワタシと会いたかったの?」
 最初から仕向けておいたが・・・・・・・・、こうも好かれるとそれはそれで悪い気はしない。
「おいで。愛してあげるよ」
「ルァァァァ!!」
 石柱を振り回しながら突撃するフンババ。アレッサはそんな魔獣を、
幻陽一閃ネーベン・ゾンネ
 ただ、斬り伏せた。
 あれほど硬かった鱗ごとまっぷたつにされ、フンババは倒れる。だくだくと切断面から流れる青い血を眺めながら、アレッサはくすりと笑った。
 アレッサは剣についた血を振り払うと、鞘に納め、顔を上げる。
「おーい。誰かついて来てる?」
 アレッサが声をかけると、草が揺れ、黒ずくめの服装をした人物が数人、現れる。
「あれ。運んでおいて。ワタシはどうでもいいんだけど、親分は使うかもしれないからさ」
「御意に」
 荷物持ちたちは素直にフンババの遺体を担ぐと、アレッサと共に行軍を開始した。