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ーー王立学校歴史科教科書より抜粋。 オーサの乱 カルロス歴32年に発生した、亜人オーサ・メイザーによる大規模な魔物召喚事件。 主犯オーサ・メイザーは、亜人に対する差別的風潮や歴史的認識について異義を唱え、魔術師ブライト・フェルカが作り上げた術式を悪用し、大量の魔物を召喚するに至った。 魔物や崩壊した建物により53名が死亡し、カルロス歴において最大の被害者を出す大事件となった。 この事件を機会に王に即位なされたソフィア女王は、亜人による差別的風潮の撤廃を宣言。各都市に亜人特区を作ることを命じ、また、亜人に対して差別を行った者に厳罰を処する新たな法律(亜人保護法)が設立された。 主犯オーサ・メイザーはソフィア歴17年、死刑となったが、彼女の唱えた主張は、人間たちに広く浸透することになったと言える。 ーー軍部退役隊員名簿より抜粋。 リト・コーツ中将 防衛線において、夜襲を仕掛けた特異種『ルブルムドラゴン』を1名で撃破。 オーサの乱にて、大量の魔物を討伐し、事件解決に貢献。 セントラル山にて魔物を発生させる魔方陣を発見、破壊。以降、魔物の激減に貢献する。 ソフィア歴28年、定年にて退役。 アレン・リベット少佐 オーサの乱にて、犯人オーサ・メイザーを逮捕、事件解決に貢献。 ソフィア歴4年、自己都合により退役。 『退役後の活躍に関する備考欄』リベット領にて辣腕を振るい、亜人特区設立に貢献する。 シン・ディレク特務大尉 オーサの乱にて、ソフィア・マリ・ジェルニアン姫殿下の護衛に努める。 ソフィア女王専属護衛として、敵の多かった女王陛下が退位なされるまで、彼女の身を守り続けた。件数が多いため、個別の案件については省略する。 ソフィア歴60年、自己都合により退役。 クレア・ウィルジーヌ中佐 オーサの乱にて、新しい術式(割り込み術式)を作り上げ、事件解決に導いた。 ソフィア女王命により、亜人部隊設立に貢献。 ソフィア歴10年、結婚を機に退役。 リオン・テイラー少将 オーサの乱にて、事件発生のきっかけとなった術式を破壊し、事件を解決した。 ソフィア女王命により、亜人部隊設立に貢献。 ヒママス領にて発生した、亜人反対運動に際し、交渉のみで事件解決に導く。 ブルート領にて発生した、亜人解放戦線と抗戦。死者0名での事件解決に貢献。 ソフィア歴36年、定年にて退役。 明るい日差しが差し込んでいるバルコニー。 そこで、お茶を飲んでいると、空からふわりと孫娘が降りてきた。 「おじいちゃん! どうどう、上手に飛べるようになったでしょ!」 「うん、そうだね。けどアリア、スカートで飛ぶのはやめようね」 「はーい!」 そう元気に返事をし、孫娘は2階のバルコニーから飛び降りて行った。 「……まあ元気なのはいいことだし」 「あなたが甘やかすから、アリアはわがままになるのよ」 と、向かい側に妻が座る。初老の男は、くすりと笑った。 「まあ、僕はそういう性格だから」 「もう」 鼻を鳴らした妻は、バルコニーから町を見下ろす。 表の通りには、角が生えた少年や、狼のような少女が走り回っている。 「本当に、夢みたいな光景よね」 「いまさら?」 「だってそうじゃない。こうなるまで、どれだけ頑張ったのよ」 「そうだね。でも、そうなったじゃない」 「あなたが頑張ったからでしょ」 「ううん。みんなが、だよ」 そう言って、夫は優しく微笑む。 「僕も頑張った。君も、頑張ってくれた。でしょ?」 「当たり前でしょ。自分の夫が頑張ってるのに、頑張らない妻がいるの?」 「妻だからなの?」 「……」 「……」 「……愛してるから。それでいい?」 「うん」 にこりと微笑み、夫はお茶を啜る。 妻は顔を赤くしながら、 「本当に。いくつになっても、子供みたいな人ね」 「そうだよ。男ってそういうものじゃないかな」 「……ねえ、わたしばかり言って、不公平だと思うんだけど」 そう言われ、夫は立ち上がると、妻のそばに屈み込んだ。 妻に口づけし、夫は言う。 「愛してるよ」 「ずるい」 「言ったのに」 「うるさい」 くすくすと、笑い声が風に流れる。 そんな、平和な日が、今日も過ぎていく。 |