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迷宮から脱出した三人は、洞窟の近くで火起こしを始めた。 焚き火ができると、ピースは鍋で湯を沸かし、お茶を淹れ始める。 「わざわざ冒険中にお茶なの?」 ミヅホが首をかしげるが、ピースはごく当たり前のように言う。 「茶にすれば少しばかり蒸留の甘い水でも飲めるし、ハチミツでも混ぜれば冒険に必要なエネルギーも摂取できる。効率がいいんだよ」 「へえ、そうなんだ」 「それより。お前たちは探索型パーティ、そうだな?」 「はい、そうです」 リンが頷く。 「なぜ探索パーティがロックリザードなんか相手にした」 「え? だってモンスターが出たら戦うもんでしょ?」 「ロックリザードは足が遅い。普通に走って逃げられる相手だ。さっき戦ってわかったと思うが、あいつらは再現なく現れる。そんなものをいちいち相手にしてどうする」 「それは……」 「採取型ならそういうこともあるだろう。討伐型がロックリザード討伐というのもない話じゃない。でも探索型パーティにとって一番大事なのは、なるべく戦わずに情報を持ち帰ることだ。迷宮のマップ、出現するモンスター、採取できるアイテムの種類。そういう情報を持ち帰るのが仕事だぞ」 もちろん、未踏の地域に繰り出すことも探索パーティの仕事ではあるが、そんなのは最前線の一握りだけだ。本来は、発見されてはいるものの情報が少ない場所に向かい、必要な情報を売り買いすることが求められる。 帝都で生産できないアイテムを集めてくる採取型、強力な魔物を討伐することが目的の討伐型と違い、探索型は戦わないことが仕事のひとつ。 ピースは二人をじろりとにらむ。 「それなのにお前らは、突撃と砲撃だと? 役割配分がおかしすぎる。それは討伐型パーティの配分だろう」 「それは、まあ、おっしゃる通りです」 「討伐型に転向するにしても、二人きりじゃ無理だ。地力を上げることもそうだが、その前に意識改革をしないと話が始まらん」 「はい……」 「まったく。お前たちのレベルアップは時間がかかりそうだな」 ピースがそう言いながらお茶をすすると、リンは目をパチパチとしばたく。 「え? 指導をやめる、って話じゃ……」 「いや。お前ら、俺が指導しなくても無茶して迷宮にもぐるだろ。お前らの実力じゃ早晩死ぬぞ。そんなのほっておけるか」 「……!!」 リンとミヅホは互いに顔を見合わせ、同時に言った。 「よろしくお願いします!! 先生!!」 帝都に戻ったピースは、リンたちと分かれ、一人で酒場に向かった。 行きつけの酒場は裏通りにある。あまり繁盛している店ではないが、そのぶん落ち着いた雰囲気があり、ピースは昔馴染みと話す時はこの店を使っていた。 酒場の店内はテーブル席が四つと、カウンター前にスツールがいくつか。そんなスツールのひとつに、知り合いが座っていた。 「よう、ラリー」 隣に座り、ピースはマスターに薄めの酒を頼む。 「ラリー、お前の恋人たちだが……。なんだんだありゃ。新人にしたってもう少しまともに冒険者やれなかったのか」 「いやあ。僕も引退して長いしね、そこまでのアドバイスはちょっと」 「問題点は別にありそうだがな……」 ピースはラリーの顔をじっと眺める。 確かにラリーは顔がいい。そのうえ面倒見もよく、人当たりもいい人物だ。仕事も安定しており、無駄遣いなどもしない。 恋人とするには理想的な人物ではある、だろう。 「……お前、わかっててあの二人を預けたんだよな?」 「わかってて?」 「いや、いい……」 彼が恋人として欠点を持っているとすれば、他人の好意に鈍感なことだろうか。 ーーこいつならば、ミヅホの気持ちにはまっっったく気づいてなくてもおかしくない。 「あの二人、なんでパーティ組んでるんだ」 「ああ、冒険者学校の同期でね。好みが同じとかで親しくなったと聞いているよ?」 その好み、超問題あるやつじゃないか。 「ま、素質は悪くないな。錬金術師は取り扱いの難しい職業だが、彼女の錬金は見事なものだ。ミヅホも女性ながらあのパワー、強化術を使っているにしても非常に強力だ」 「リンは頭がいいからね。僕と付き合うようになったのも、図書館に通いつめていた彼女と知り合ったことがきっかけだから」 錬金術は知識と判断力を要求される職業だ。知識という一点において、彼女にはなんら問題なさそうだ。 「ミヅホはね、トールマンとリザードマンのハーフだからね。パワーは折り紙つきだよ」 「ハーフリザード? そうだったのか」 思えば、人間の女性にしては力が強すぎたか。見た目でハーフを判断しにくいタイプなのだろう。 「とにかく、二人を頼むよ。お前が鍛えてくれれば、きっといい冒険者になると思う」 「努力はするけどよ」 「それに……。あの二人が強くならないと、今後は冒険も危ないかもしれないから」 「冒険が危ないのは今に始まったことじゃないだろう?」 ラリーは酒の入ったグラスを揺らす。琥珀色の液体がゆらゆらと揺れている。 「ピース、他言無用で頼む」 「なんの話だ」 「お前が評決を受けるきっかけになった迷宮での事件。目撃情報が出てきた」 「……!!」 「その人物が関わっているという証拠はない。そもそも迷宮内には他のパーティもいたんだし、人物が目撃されること自体はおかしな話でもない」 「それでもわざわざお前が気にしたってことは、何かあるんだろう」 「……その人物は、冒険者ギルドに登録されていないと見られている」 「未登録冒険者だと?」 冒険者ギルドに登録せず、冒険者資格を手に入れることはできない。 資格なしでも潜れる迷宮はいくつかあるが、それらは危険性がないと判断された場所に限られており、ピースたちが事件に巻き込まれた迷宮は該当しない。 もちろん入り口に番兵がいるわけではないので、資格なしでも入ろうと思えば入れるだろう。だが、そのためには帝都の番兵や他の冒険者から隠れる必要もある。 そもそも未登録冒険者なんて、なんらメリットがない。迷宮に入りたいなら、素直に資格を手に入れればいいだけだ。冒険者資格は試験を受ける必要もあるものの、迷宮に潜るだけの実力がある人物なら落ちることはまずありえない。 「まずは経緯だな。当日、お前たちが救出される数時間前に目撃されている。身長はかなり高め、ガタイの良い男だ。年齢は30代から40代、冒険者としては高齢に近いな」 一般的なトールマンの冒険者は50歳までに引退するので、30代はそこそこ高齢だ。 「目撃者は?」 「一般冒険者。そちらの素性はわかっているが、今回の件とは一切関係がないと判明している。他の迷宮に行った帰り道、偶然に目撃したようだ」 「なんでこいつのことを覚えていたんだ? いくら高齢でガタイの良い男と言っても、それほど珍しいことじゃないだろう」 「最初に、見覚えのない男だったということがひとつ。もうひとつは、こいつがソロだったということだ」 「ソロか」 ソロで冒険に向かう者も確かに存在する。討伐型は腕試しに、あるいは身軽になるため、ソロで向かう者もいないわけではない。だが、珍しいことは確かだ。 ギルドに登録がない。ソロである。高齢。 いずれもありえない話ではない。だが、冒険者としては珍しい要素がいくつも重なる。 要素というのはふるいのようなものだ。ひとつひとつで仕分けた先、それでも残っている要素というのはーーより純度が高まっている。 この場合はさしずめ、怪しい、という要素か。 「……調べられるか? ラリー」 「もちろん調査は続ける。お前の冤罪を晴らすことにも繋がるかもしれないからな。ただ、そういう人物が迷宮にいるかもしれないってことは心にとめておいてくれ」 「わかった」 謎の人物。 その男が、果たして何かの鍵を握っているのだろうか。 ピースは残った薄い酒をあおりながら、なんとも言えない気分に陥っていた。 |