以前も待ち合わせに使用した砦跡公園ーーその近くにある、軽食を出す店。
 そこで、ピース・チャックは弟子の一人と会うことにした。店内は満席で、二人でテラス席に座る。外は抜けるような青空で、そよ風が気持ちいい時期だ。テラスも悪くない。
 ピースが新たに迎えた弟子ーーリンは、いつも通り革コートに錬金術装備だ。
 ピースは紅茶を一口すすり、
「さて、まずはお前たちを鍛えるのに際して、最初に直さなきゃいけないものがある。役割だ」
「まあ、それは理解しています」
 役割。冒険における分担だ。
 モンスターとの戦闘を担う【突撃アサルト】【砲撃キャノン】。
 味方を守る【防壁タンク】【維持キーパー】。
 冒険をサポートする【探索サーチ】【運搬ポーター】。
 そして、パーティ全体を指揮する【指令センター】。
 7つの役割は全ていなければ冒険ができないということではなく、目的に応じて割り振られる。リンたちが目指す探索型パーティならば、探索サーチが必須となる。
探索サーチは誰かが担わなければいけない役目です。ですけど、どう考えてもミヅホには向いていない」
「そういうことだ。お前が探索サーチを担うしかない。もともと錬金術は探索サーチに向いているしな」
 探索サーチは、一般的には盗賊が担う。罠の解錠や索敵、通路の発見やルートの確保など。パーティ全体におけるマップの役割だ。
 とはいえ、盗賊にしかできないというわけでもない。錬金術が使えればその場で有用なアイテムを作り出すことができるため、状況に応じて装備を変えることができる。これは他の職業では不可能な戦法だ。
「探索型パーティは基本的に未開の土地を進むことが目的になる。もちろん誰も行ったことのないっていう最前線を進むだけじゃなく、既知の迷宮でもモンスターの種類や採取できるアイテムの調査をするだけで仕事にはなるだろう。ただ、いずれもモンスターとの戦闘は最低限で済ませる必要がある」
「私が攻撃魔法を使っても、かえってモンスターを引き寄せてしまう……。確かに無意味です」
「それだけじゃない。錬金術は効果の範囲が広いぶん、一撃の能力は他の魔術師に劣る。そもそもが一撃必殺を狙う砲撃キャノンとは相性が良くないんだ」
「広範囲をなぎ払ったり、硬い敵を吹き飛ばすだけの威力が必要ですからね。向いていないことも承知しています。そのうえで、意味がないことも」
「じゃあなぜ砲撃キャノンにこだわっている? お前さん、そんなにアホじゃないだろ。やる必要がないことをわざわざやるタイプじゃない」
「それは……」
 リンは手元に視線を落とす。
「言いたいことは、わかっているつもりです」
「じゃあ言葉にしてやろうか。あのアホに対抗心を抱いているのか?」
「……」
 リンは静かに頷いた。
「彼女はラリーの幼馴染みなんだってな。まあ、子供の頃から見ていたんだろうし、ラリーに恋愛感情はないだろが」
「そんなことは理解しています! でも……。ミヅホは、私の知らないラリーを知っているんです」
「そりゃそうだな。でも、それなら俺もそうだぞ」
「え?」
「当たり前だろ。あいつが付き合ってるなんて気づきもしなかったが、そもそも俺とあいつは同期で、ずっと一緒に冒険をしていたんだ。冒険中、あいつに助けられたことは一度や二度じゃない。もちろん、お前が知らないであろうこともたくさん知っている」
「それはそうですけど、でも、ピースさんは男性じゃないですか」
「男同士で付き合ってるやつもいるぞ」
「そうですけど!」
 ぐっ、とリンは拳を握る。
「すみません。理屈は全部理解しています。そのうえで、感情が追いついてこないんです」
「感情ね」
 厄介なものだ。
 制御しようにも目に見えず、とらえようにもすぐ形を変えてしまう。
 同じ見えないものでも、魔力はこんなにも簡単に扱うことができてしまうのに。
「ミヅホに悪気がないことは理解しています。でも、彼女は幼馴染みだから、ラリーの知らない顔をたくさん知っていて……。嫉妬しているだけです、彼女に」
「じゃあなんで一緒にパーティ組んでるんだ」
「嫉妬はしていますけど、親友なんです。冒険者学校で、ほとんど唯一と言っていい友人だったんです。彼女以外と冒険に出るなんて考えられません」
「それならもう答えは出ているだろう」
「え?」
 ピースはぱちんと指を鳴らす。
「ミヅホとパーティを組むなら、お前は転向するしかない。もちろん嫉妬はあるだろうし、彼女がモンスターを倒していたらお前も対抗心が芽生えるだろう。でも、ラリーの恋人はお前だ。もっと余裕をもって構えていればいいんじゃないのか」
「それは……」
「それとも、あいつが浮気するような男だと思ってるのか」
「疑ってるつもりは、ないんですけど。最近、少しだけ挙動がおかしい気がして」
「挙動が?」
「私になにかを隠している気がするんです。最初はピースさんの評決のことかとも思いましたけど、そんな感じでもありませんし」
「あいつが隠し事ねぇ」
 まあ、ミヅホと違って彼は人が悪そうに見えるところがある。本心を素直に口には出さないタイプとでも言うのか。
 それはそれとして、誠実な人間でもある。浮気などする人間ではないがーー理解していたとしても、不安は無理もないか。
「じゃあ、調べてみればいいんじゃないのか」
「調べる?」
「お前といないところで、あいつが何をしているか、だ。そうすれば安心できるんじゃないのか」