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数日後。ピースとミヅホは帝都の中心に来ていた。 ラリーの仕事は公務員。とはいえ、公務の内容は多岐に渡り、究極的には公に関することならなんでもやらなければいけない。 特にラリーみたいな仕事のできる人間は、冒険者ギルドとの橋渡しもするし、住民サービスに関わることや町の整備に関わることだって顔を出す必要もある。 今日の仕事は公舎の中でしているらしい。公舎は帝都中央にある城に併設された建物で、かつては兵隊の詰め所に使われていたものだという。 世間が少々平和になり、冒険者が増えた現代となっては、兵隊の数もそれほど多くない。この詰め所だった建物も、現在は役割を変えているというわけだ。 「で、ここまで来るには来たわけだが」 建物の横にある茂み。そこに二人は隠れていた。 「なんで隠れなきゃならんのだ」 「見つかったら普段の姿が見られないじゃないですか」 「その理屈はわかるが……。じゃあその装備はなんだ?」 「たいしたものではありません」 リンが持っていたのは、水晶玉のはめこまれた箱だ。水晶には赤いラインが引かれており、青い光が点滅している。 「これは対となる水晶の居場所がわかるマジックアイテムです。こちらは対となる石の音を拾うアイテム、こちらは映像を転写する道具です。どれも近距離でないと使えませんので、このくらいの位置にいないと意味がないんですが……」 「それでも便利だな。それはそれとして、お前、そのアイテムはどこから持ってきたんだ」 「私物ですけど?」 「お前が錬金術で作ったのか?」 「ええ」 「今回のために?」 「いえ、それは違います。これは普段用です」 どこをどうしたら普段用になるのか。 ……とはいえ、これがあれば今回の任務は簡単になるし、そもそも迷宮ではぐれた時にも使えるものだし。 ピースは難しいことを考えるのはやめた。まあ恋人同士ならギリ犯罪にはならないだろう。 「あ、事務所を出ました」 どうもラリーの胸元あたりからの映像らしい。何かの装飾品に擬装してあるのだろう。音を出す石はリンの耳に入っているので、ピースには映像しか分からない。 公舎の廊下を歩いている。と、どこかで見た顔が映像に現れた。 「うん? こいつは……」 ぎしっ、と盗撮映像器が悲鳴をあげる。 そこにいたのは、どう見てもミヅホだった。しかも乙女の表情。どう考えてもガサツなアホではない。 ラリーの表情までは見えないが……。 「リ、リン? これは何かの偶然かもしれないしな」 「……」 「おーい、リンさーん?」 「移動します、ピースさん」 「え? あ、おい!」 茂みから出るリン。ピースは慌ててその後を追いかけることしかできなかった。 どうもラリーとミヅホは、公舎から少し離れたところにある商店街に来たようだ。その先回りをしたということだろう。 この通りは左右に露店が並び、様々な商品が売られている。冒険者ギルドにも近く、ピースもたびたび訪れる場所だ。 今日も人通りは多く、ここなら普通にまぎれることもできる。ピースたちは、そんな大通りのさなかにある休憩スペースに陣取っていた。 「お、おい、リン。何か言えよ」 「なんでもありません」 「なんでもじゃなくてだな……」 映像器を見る。 どうやら露店を冷やかして回っているようだ。見ている店は、装備やアクセサリーを取り扱っている店が多いように見える。 たまに写るミヅホは、常に何かを食べていた。まあ露店の多い場所には軽食も多いが……。 「いやこいつ、本当になんか食い続けてるな……。ラリーがおごってんのか?」 「まあ二人は幼馴染みですからね」 「……リン。表情と言動を合わせてくれないか」 「合っていますけども?」 「あ、はい」 迷宮でなくても鬼には出会うものらしい。 すでにピースは帰りたい気持ちが沸いていたものの、さすがにここで帰るというわけにもいかない。というか、リンが帰してくれる雰囲気じゃない。 それに、意外でもあったのだ。ラリーが恋人を差し置いて、他の女とデートするようなタイプとは思えない。だが、映像で見えるミヅホの表情はどう見ても恋愛のそれ。 「……あのラリーがねぇ」 「ピースさんは、冒険者学校でラリーと一緒だったんですよね」 「ああ。あいつが冒険者を引退するまでな」 「どうでしたか、ラリーは」 「堅物に近かったな。真面目で勉強熱心で、特に治療や防御の魔法が得意だった。結果的にあいつは維持になって、俺たちのパーティは討伐だけならそこそこ良い成績だったんだ」 「そういうこと、彼はあまり話してくれないんです。特に自分の自慢になるような話は」 「あー、まあそういうところはあるかもな」 「私、彼とは図書館で知り合ったんです。私はもともと錬金術に興味があって、それを調べるために通っていました。彼も図書館の常連で、話をするようになって……。惹かれたのは私の方です」 ラリーが図書館に通っていたことはピースも知っている。もっとも、彼の目的はおそらく医術書だったろうが。 「知的で、冷静で、そんな彼に魅力を感じました。恋心に気づいてからは猛アタックして、なんとか恋人という関係を手に入れたんです」 「よかったじゃねえか」 「でも、不安にもなるんです。彼、本当は私に恋愛感情なんか持っていないんじゃないか、とか。……私が無理を言ったから、大人の彼は子供の妄言に付き合ってくれているだけじゃないか、とか」 ふと気づけば、リンの手は震えていた。 「ミヅホは私の知らないラリーを知っています。そこに、致命的な何かがあるかもしれない、なんて思うと……。怖くてたまらないんです」 「……ラリーは俺に仕事を紹介する時、恋人って言ってたよ」 ピースに言えるのは、そんなことだけだった。 「あいつが何も考えず、他人に恋人なんて紹介するような男じゃない。それはお前も理解しているんじゃないのか」 「それは……」 「お前の気持ちは一方通行なんかじゃない。俺に言えるのは、それだけだ」 「でも、じゃあ、これは何なんでしょう」 「さあな。何かの勘違いだろうよ」 ぐっ、とリンの腕をつかむ。 「ピースさん……?」 「本人に聞くしかないだろ、そういうのは。不安に思っていることは全部口に出すしかない。他人の考えていることなんて、どうせわかりっこないんだからな」 「で、でも」 「フラれたら次の恋人でも探しゃいいだろ。そうやってウジウジ悩んでいる方が時間の無駄だよ」 「……嫌です。ラリーがいいです」 ピースはリンをじっと見つめ、 「それは、本人に言え」 |