後日。ピースは二人の弟子を呼び出した。
 例の公園に向かうと、リンだけが先にきていた。
「よう、リン」
「先生。先日はお騒がせしました」
 ぺこりと頭を下げる。彼女の髪には、見覚えのない飾りがついていた。
「えへへ、わかります?」
「何も聞いていないし、どうでもいい。痴話喧嘩ならよそでやってくれ」
 ぱたぱたと手を振ったピースは、
「それよりも冒険の話だ。ミヅホにも話すが、お前の方が理解は早そうだな」
「役割を転向しろ、ということですね」
「その通りだ。お前は錬金術師アルケミー砲撃キャノンには向いていない。ところがお前は探索サーチの才能がある」
砲撃キャノンに向いていないというのは自覚もありますが、探索サーチに向いていますか?」
「先日の一件。ラリーの居場所を探したり、情報を集めたり。それらはまさに探索サーチの仕事だ」
 探索サーチはモンスターの存在をいちはやく見つけたり、罠を発見・解除したりする役目だ。
 盗撮もとい遠距離情報収集能力については、ピースよりも高いものを持っている。
「お前たちの目的である探索パーティなら索敵は必須だ。なるべく敵との戦闘を回避しろ」
「それは構いませんが、彼女が納得するでしょうか」
 リンが指し示す先。そこでは串焼きの肉を片手にした、なんとも女子力のない女が歩いていた。

☆   ☆   ☆   ☆


 公園で剣を振り回すわけにもいかない。
 三人が訪れたのは、帝都内にある訓練施設だ。冒険者なら格安で借りることができる公営の施設で、ここなら武器を振り回せる露天のスペースも存在する。
「ミヅホ、まずは剣を構えてみろ」
「はーい」
 ミヅホは背負った大剣を振り下ろした。
 改めて見てもかなり巨大だ。ピースの背丈と遜色ないサイズ感で、重量もとんでもないだろう。それを軽々と扱えるあたり、やはりミヅホのパワーは群を抜いている。
「パワーは問題ないな。だが、やはりお前も今の役割は向いていない」
突撃アサルトが?」
「ああ。突撃アサルトは本来、片手剣や格闘家が担う役割だ。敵陣に突っ込み、打撃で相手にダメージを与えつつ数を減らす。他の役割以上に速度が大事で、味方が強力な魔法を用意する時間を稼ぐって側面もあるが、それ以上に高速・低耐久の敵を蹴散らすことが求められる」
「攻撃魔法だと、スピードのある相手を倒しきれない場合も多いですからね」
「その通りだ。広範囲を薙ぎ払うタイプの魔法を扱ったとしても、高速タイプなら範囲外に逃げてしまうことも少なくない。一撃でも当てれば倒せるのに、そもそも一撃が当てられない相手、というのは往々にしているものだ」
「それを処理するのが本来の役割、ってことね」
 ミヅホの言葉に、ピースは頷く。
「お前のパワーは確かに強いが、スピードは並以下だ。パワーで相手を蹴散らす役割はむしろ砲撃キャノンに近い」
「剣なのに砲撃キャノンなの?」
「そういうパーティもいるぞ。前衛アタッカーをバリバリに強化して、相手の防御を打ち砕く型だ。役割っていうのはあくまでパーティ内での分担の問題、よくある課題に対して誰がどうやって処理するか決めておくっていうものだからな」
「なるほどー。そういう意味では、確かにアタッカーね」
「とにかく、お前の力戦では上位の迷宮に挑めない。そもそも、そんなでかい剣を振り回せる迷宮は限られるしな」
「それは……。そうだけど、思い入れもあるし、いい武器なのよ、これ」
「そりゃリザードの皮膚を切れるならいい剣だろうが……」
「それだけじゃないわ。これ、アーティファクトなのよ」
「アーティファクト!?」
 神の遺産アーティファクト。どういう経緯でそこに存在するのか、誰がどうやって作ったかも判然としないアイテムのことだ。
 一説によると神様同士の戦争で使う武器ともされており、実際に世間で出回る武具より遥かに高性能である場合が多い。
 もうひとつの大きな特徴は、道具が使い手を選ぶ・・・・・・・・・ということだ。
「お前、アーティファクトに選ばれたのか? なぜ?」
「それは聞かれてもわかんないんだけどね。学校に入学する年だったかな、誰かに呼ばれた気がして……。気づいたらこいつが手元にいたの」
 ミヅホは剣の表面をなでる。
「それ以来、たまーに声が聞こえるだけなんだけどね。声っていうか音? 何を言っているのかよくわからないんだけど、でも、何かを伝えたがっているのかなって思ってる。だから、冒険の時にも必ず持っていくようにしているの」
「なるほどな。そいつが本当にアーティファクトなら、確かに使いこなせれば圧倒的に有利だ」
 だが、とピースは続ける。
「もちろんアーティファクトという武器も重要だが、それに振り回されるのも問題だ。何より、冒険ってのは実利を取らなきゃならない。使いこなせればすごい武器ってのは、いつ使えるようになるかわからんってものでもある」
 アーティファクトはそこが重要だ。
 もともと道具が使い手を選ぶなどというオカルトめいた話。それが事実であるということは周知だし、上位の冒険者ならばアーティファクトを持っている者も珍しくはない。
 だが、それを使いこなせるかどうかは別の話。
 選ばれたからといって使いこなせるわけではないし、使いこなせたからといってどんなシーンでも役立つわけでもない。
 切り札のひとつにはなりうる。だが、無敵のジョーカーというわけではない。あくまで道具のひとつなのだ。
「ミヅホ、お前に覚えて欲しいのは防壁タンクの動きだ」
「たんく?」
「モンスターの攻撃から味方を守る盾役だな。これがしっかりしていれば、冒険の成功率が飛躍的に高まる。特にリンは錬金術の調合中、無防備になりがちだ。その間をカバーできるだけでも結果が大きく違ってくる」
「……それって、あたしにリンを守れってこと?」
「もちろんそうなる。嫌か?」
「嫌ってわけじゃないけど……」
 と。

 ぐるるるるるるるる……

 そんな三人の間で、ドラゴンの咆哮みたいな音がした。
「なんだ、今の音は」
「……ミヅホのお腹の音です」
「はぁ?」
 リンの答えに目を丸くしたピースだったが、ミヅホはすでに力なく座り込んでいた。
「おなか……、すいた……」