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ミヅホを先頭に向かったのは、安くて旨いと評判の食事処だ。 四人掛けのテーブル席に落ち着く。微妙に外れた時間であるせいか、店内は半分ほど埋まった状態だ。 注文を取りに来た獣人の店員に、ミヅホはメニューを見ながら次々と注文していく。 「ガラル鳥の唐揚げと、にんにく炒めもいいね、あとコベル牛の串焼き10本と甘辛煮込み、あとトースト! とりあえずそれで」 「……とりあえず?」 6人前くらいの分量だと思うが。3人しかいないのに。 「で、二人は何も頼まないの?」 「今のを1人で食うつもりか!?」 「そりゃそうでしょ、あたしは人のぶんまで勝手に頼まないわよ」 「……じゃあ俺はチーズの盛り合わせで」 「私は冷製パスタを」 注文を終えたところで、ピースはジト目でミヅホをにらむ。 「本当にお前さんは燃費が悪いな」 「まあ、それは自覚あるけどー」 「冒険中とかどうしてんだ」 「なるべくご飯は持ってくよ。あとは現地調達」 まあ迷宮で狩った獲物を食べるタイプの冒険者もいるが。 「まあ、その食事量があのパワーを生み出すってのなら、それはそれで悪くない。お前さんの力は他の冒険者と比べても圧倒的に高いからな。だが……」 「先生、もう聞いていませんよ」 「……」 腹が減りすぎて難しい話が入らないようだ。 少し待っていると、料理が次々と運ばれてきた。テーブルがいっぱいになったところで、ミヅホの顔つきが変わった。 「ふっ!」 さながら魔王と戦う勇者のような顔つきで、肉をかっ食らい、煮物をスープごと飲み干し、串焼きを一気にすする。 「……煮物をスープと捉えるやつを初めて見たよ」 「ちっちっち、甘いよ甘い。汁物は全てスープだよ」 「なんなんだこいつ……」 もとい。 チーズを齧りながら、ピースは続ける。 「それより役割転向の話だよ。ミヅホ、お前はパワーだけなら一級品なんだ。でっかい盾を持っても支障がないし、もともとスピードは早くないから重武装で速度を落としても問題ない。リンが索敵をしつつ戦闘を避ける役割だとすれば、お前は万が一にも戦闘になった際に逃げ道を確保する役割だ」 「それはわかるけど……。守りかぁ」 「性分に合わないか? それとも……。リンを守るのは嫌か?」 ピースの歯に衣着せぬ問いかけに、ミヅホは押し黙った。 「意地悪なことを言って悪いな。だが、これはお前たちがパーティを組むうえで外せない問題なんだ。パーティは決して結果を競い合う関係じゃない。協力する関係なんだ」 「理解はしてるよ。リンを守りたくないってわけでもない。ただ……」 ミヅホはちらりとリンを横目に見やる。 「防御はパーティの要だもんね。その理屈はわかっているけど……。防御じゃ成果は出せないもん」 「成果はパーティで等分に得られる。どの役割だから損とか、そういうことはないぞ」 「むう」 「まあ、お前の気持ちもわからんでもない。恋敵を守れって話だからな」 「……」 リンとミヅホは顔を見合わせる。だが、お互い何も言わない。言えない。 ラリーという男が選んだのはリンなのだ。それはお互いに納得しているし、ちょろちょろ浮気心を持つような男じゃないということは、この二人が最も理解していることだろう。 勝負はすでに決まっている。ただ、その事実と納得できるかどうかという問題は関係がない。 心の問題は、実戦の問題よりずっと厄介だ。答えがなく、簡単な答えを出せない。 「まあ、まずは迷宮で実際にやってみればいい。心の問題があったとしても、仕事だからと整理できるやつもいる」 「それもそうね。やりもせずに悩んでいるなんて性に合わないわ」 リンとピースが食べ終える間に、ミヅホはすでに6人前の食事を食べ終えていた。 「よし、じゃあそろそろ」 「デザート食べましょうか」 「……まだ食うのか?」 「何を言ってるの、デザートは別腹って言うでしょ」 ピースは、こいつ胃が4つくらいあるんじゃないかな、なんて思っていた。 食事処を出て迷宮に向かう。 ちょうど帝都の門は門番と他の冒険者がやり取りをしている最中だった。 迷宮に向かうため、一時的に門を出るにも門番に申請が必要となる。その手続きをしているようだ。 三人連れのパーティで、男が二人に女が一人。 女は腰に細剣を差しているものの、縦ロールを巻いた金髪や精緻な模様の入ったブレストメイルからして、かなりのお嬢様に見える。 二人の男は、どちらかというと従者といった風情だ。落ち着いた男はシックで落ち着いた色合いの服をまとっており、若い男は大きなリュックを背負いながら門番の差し出す紙に何かを記入している。 「あれ、あの二人」 「知り合いか?」 「知ってるって言えば知ってるけど。冒険者学校の同期だから」 帝都が広いと言っても、冒険者学校はいくつもない。そのせいか、普段は生活層が極端に違う相手とも接点を得ることはある。 「あら?」 縦ロールのお嬢様がこちらに気づいたらしい。その顔に嫌味な笑顔を浮かべる。 「あーら、これはこれは、リンさんにミヅホさんではありませんの! 相変わらず、みすぼらしい装備ですわねぇ!」 「……お前らあいつに何かしたのか?」 「いつも突っかかって来るんですよ」 つかつかと寄ってきたお嬢様はピースと並ぶ。 こうして近くに寄ると、お嬢様はピースよりも背が高い。スタイルもよく顔つきも美人なのだが、いかんせん表情が嫌味すぎて全てが台無しだ。 「あら、あなたは? お二人の運搬かしら?」 「んなわけあるか。俺はピース、二人に冒険を教えている教師だよ。ま、パーティで言えば司令だな」 「あら、そうでしたの。ポンコツパーティが教師を雇うなんて、いよいよご自分の立場が理解できたようですわね?」 「それより失礼なお前さんは誰なんだ」 「これは失礼しましたわ。わたくしはミニャ・カネチャ。カネチャ財閥の跡取り娘ですわ」 カネチャ財閥。冒険で手に入れた財産をもとに商売を始め、大成功を起こした一族だ。 現在は冒険者御用達のアイテムをいくつも販売しており、飲食業や冒険者向けの長期滞在宿なども経営している。 「イー、ハルト、挨拶なさい」 二人が並ぶ。上背のある年嵩の男はイー、荷物を背負った少年がハルトのようだ。 「イーです」 「ハルト・ファイルです。お嬢様がお世話になっております」 「お世話しているのはわたくしですわよ、ハルト」 「あ、はい、申し訳ありません……」 荷物持ちの少年はぺこぺこと頭を下げる。 「あなたがたはどこへ?」 「シーニー洞窟だが」 「あら! ちょうどわたくしたちもそこへ向かう予定でしたわ。クエストで、シーニー蟹の甲羅が必要ですの」 すると、ミニャはにやりと笑う。 「ちょうどいいですわ、勝負しましょう、リンさん! わたくしたちと、どちらが早くシーニー蟹の甲羅を手に入れるか!」 「私たちは採取パーティではないのだけれど」 「怖じ気づいたのかしら?」 「なんとでも言いなさい。先生、行きましょう」 「……いや」 ピースもまた、何かを思いついたように笑った。 「面白いな。その提案、乗った」 |