その頃、上に残った四人は洞窟の奥へと駆け足で進んでいた。
「ちょっと、ピースって言ったっけ!? なんでリンたちを助けに行かないのよ!」
「バカ、崩落した迷宮の縦穴なんて危なくて使えるか! この迷宮は下の階層が最近になって見つかっている、その侵入ルートに行くんだよ!」
「侵入ルートって言ったって……」
「お嬢様、ここは彼の判断に従いましょう」
 同じように駆けるイーが言う。
「お嬢様もこの迷宮は初めてでしょう。我々には土地勘がない。地図をいちいち確認しながら歩いていては行動が遅くなり、彼女たちの救援にも支障が出ます」
「それはそうかもしれないけど……。ああもう! ハルト、あんたが余計なことをするから!」
「それも後に置いておきましょう。彼だって地下フロアがあると知っていたわけではないのですから」
「んもう!」
 理解はできる。ミニャの饒舌っぷりは、不安の現れなのだ。
 迷宮内で想定外が発生し、はぐれてしまうということはないことでもない。そんな時に動揺してしまっては、パーティの生存率そのものが下がってしまう。
 冷静に、かつ迅速に。合流を果たすことが肝要なのだ。
「ピース殿、下の階層に向かった後はどうなさるのですか?」
「俺は簡単にだが探索サーチの心得もある。探し出す」
「承知しました。ハルト、荷物を」
「え? あ、はい、何が必要なんでしょう」
「ミスト草の粉を」
「わかりました」
 ハルトは大きなバックパックを開くと、すぐさま小瓶を取り出した。
 青白く光る粉が小瓶の中できらきらと光っている。
「目印に使ってください」
「助かる」
 侵入路が見えてきた。目印のミスト草を振り撒きつつ、ピースは穴蔵に飛び込んだ。

☆   ☆   ☆   ☆


 道の洞窟を進むと、少し開けた空間に出た。
 先の横穴は二つあり、どちらも同じ程度の大きさに見える。
「どっちが正解ルートかってわかる?」
「なんとも言えませんね。人が多い迷宮なら道の荒れ具合で判断もできますが、ここはほとんど前人未踏……。穴の大きさにも違いはないですし、他にヒントなんて……」
「そっかぁ。ま、なんかヒントでも見つかれば……」
 ふと。二人は動きを止めた。
 後ろを振り返る。自分達が通ってきた道にも、いくつかの横道はあった。あからさまに狭くなったりするので、あえてそちらは通らないで来たのだが……。
 その穴から出てきたのだろうか。ずるりと姿を見せたのは、巨大な蛇だった。
 体長は5メートルほどもあるだろうか。鎌首をもたげているだけでミヅホよりも大きい。
「こいつ、グリーンバシリスク!」
 牙にマヒ毒を持つ大蛇だ。通称は”石化蛇”。
「あいつの毒にやられると、まるで石になったみたいに体が動かなくなる、んだっけ」
「そうですね。しかも力も強い……!」
 ミヅホは剣を抜くと、バシリスクに対峙する。
「ちょっ、ミヅホ! 危ないです、あんなの勝てる相手では……!」
「勝てない相手だから逃げろって? リンの方が足遅いじゃん、一緒に逃げたらあんただけ食われるでしょ」
「それはそうかもしれませんけど、このままじゃ二人とも犠牲になります!」
「わかってるわそんくらい! でもあたしはアホなのよ!!」
 そうだ、頭が悪い。だから意地も張るし、それがろくでもない結果に繋がると理解していても止められない!
「リンにラリーを取られて、悔しかったもん! 嫉妬だってあるし、憎いとも思うわ! でもここでリンが死んだらあたしだって悲しいの!! だって友達なんだから!!」
「ミヅホ……」
「ほら、アーティファクト! あんたが神様の持ち物だってのなら、奇跡くらい起こしてみせなさい!!」
 気のせいだろうか。大剣の輝きが増したような気がした。
 地面を蹴飛ばし、蛇に斬りかかる。蛇もまた牙をむき出しにして襲いかかる!
「ッ!!」
 毒蛇の牙を剣で受け止める。がっつり剣に噛みつかれたが、ヒビのひとつも入らなかった。
「さすがアーティファクトだわ……!! どっ、せい!!」
 力任せに剣を振り回す。蛇の巨体を持ち上げ、壁に叩きつけた。
 蛇は全身が筋肉で作られたこん棒のような存在だ。そのパワーは大きさに比して強くなる。それを、気合いだけで投げ飛ばすとは。
「やっぱり馬鹿力ですね!」
「あんた応援してんの!? けなしてんの!?」
「褒めてるんですよ、支援します!!」
 アイテムがなくても、錬金術師アルケミーにだって魔法くらい扱える!
「ふッ!!」
 氷の銃弾。ハルトが使った爆炎の銃弾ほど威力はないが、尖った氷は蛇鱗をわずかに傷つける。
「ミヅホ、傷がついたところを優先的に斬りつけて! 削れれば痛みで逃げるかも!」
「りょーかいッ!!」
 氷と石が飛び交い、剣がぶんぶんと振り回される。蛇もまた大きく暴れまわった。
「ッ!?」
「ミヅホ!?」
 蛇が大きく尾を振るった。なんとか剣で受け止めるも、パワー負けして壁に叩きつけられる。
「がッ……!!」
「ミヅホ!!」
 リンが慌てて駆け寄る。ミヅホの息は荒くなっていた。
「くっ……!」
「に、逃げ……」
 リンは構わず、手に魔力をためて蛇に向ける。その直後、蛇の動きが止まった。
「……え?」
 いつの間にか、頭部がなくなっていた。
 ふらりと揺れた蛇の体は、ずしんと土煙をあげながら倒れる。すると、煙の中から見知った四人が現れた。
「こんなところにいたのか、じゃじゃ馬ども」
「先生、助かりました」
 ピースはごきりと首を鳴らし、安堵の笑みを浮かべた。