|
その頃、上に残った四人は洞窟の奥へと駆け足で進んでいた。 「ちょっと、ピースって言ったっけ!? なんでリンたちを助けに行かないのよ!」 「バカ、崩落した迷宮の縦穴なんて危なくて使えるか! この迷宮は下の階層が最近になって見つかっている、その侵入ルートに行くんだよ!」 「侵入ルートって言ったって……」 「お嬢様、ここは彼の判断に従いましょう」 同じように駆けるイーが言う。 「お嬢様もこの迷宮は初めてでしょう。我々には土地勘がない。地図をいちいち確認しながら歩いていては行動が遅くなり、彼女たちの救援にも支障が出ます」 「それはそうかもしれないけど……。ああもう! ハルト、あんたが余計なことをするから!」 「それも後に置いておきましょう。彼だって地下フロアがあると知っていたわけではないのですから」 「んもう!」 理解はできる。ミニャの饒舌っぷりは、不安の現れなのだ。 迷宮内で想定外が発生し、はぐれてしまうということはないことでもない。そんな時に動揺してしまっては、パーティの生存率そのものが下がってしまう。 冷静に、かつ迅速に。合流を果たすことが肝要なのだ。 「ピース殿、下の階層に向かった後はどうなさるのですか?」 「俺は簡単にだが探索の心得もある。探し出す」 「承知しました。ハルト、荷物を」 「え? あ、はい、何が必要なんでしょう」 「ミスト草の粉を」 「わかりました」 ハルトは大きなバックパックを開くと、すぐさま小瓶を取り出した。 青白く光る粉が小瓶の中できらきらと光っている。 「目印に使ってください」 「助かる」 侵入路が見えてきた。目印のミスト草を振り撒きつつ、ピースは穴蔵に飛び込んだ。 道の洞窟を進むと、少し開けた空間に出た。 先の横穴は二つあり、どちらも同じ程度の大きさに見える。 「どっちが正解ルートかってわかる?」 「なんとも言えませんね。人が多い迷宮なら道の荒れ具合で判断もできますが、ここはほとんど前人未踏……。穴の大きさにも違いはないですし、他にヒントなんて……」 「そっかぁ。ま、なんかヒントでも見つかれば……」 ふと。二人は動きを止めた。 後ろを振り返る。自分達が通ってきた道にも、いくつかの横道はあった。あからさまに狭くなったりするので、あえてそちらは通らないで来たのだが……。 その穴から出てきたのだろうか。ずるりと姿を見せたのは、巨大な蛇だった。 体長は5メートルほどもあるだろうか。鎌首をもたげているだけでミヅホよりも大きい。 「こいつ、グリーンバシリスク!」 牙にマヒ毒を持つ大蛇だ。通称は”石化蛇”。 「あいつの毒にやられると、まるで石になったみたいに体が動かなくなる、んだっけ」 「そうですね。しかも力も強い……!」 ミヅホは剣を抜くと、バシリスクに対峙する。 「ちょっ、ミヅホ! 危ないです、あんなの勝てる相手では……!」 「勝てない相手だから逃げろって? リンの方が足遅いじゃん、一緒に逃げたらあんただけ食われるでしょ」 「それはそうかもしれませんけど、このままじゃ二人とも犠牲になります!」 「わかってるわそんくらい! でもあたしはアホなのよ!!」 そうだ、頭が悪い。だから意地も張るし、それがろくでもない結果に繋がると理解していても止められない! 「リンにラリーを取られて、悔しかったもん! 嫉妬だってあるし、憎いとも思うわ! でもここでリンが死んだらあたしだって悲しいの!! だって友達なんだから!!」 「ミヅホ……」 「ほら、アーティファクト! あんたが神様の持ち物だってのなら、奇跡くらい起こしてみせなさい!!」 気のせいだろうか。大剣の輝きが増したような気がした。 地面を蹴飛ばし、蛇に斬りかかる。蛇もまた牙をむき出しにして襲いかかる! 「ッ!!」 毒蛇の牙を剣で受け止める。がっつり剣に噛みつかれたが、ヒビのひとつも入らなかった。 「さすがアーティファクトだわ……!! どっ、せい!!」 力任せに剣を振り回す。蛇の巨体を持ち上げ、壁に叩きつけた。 蛇は全身が筋肉で作られたこん棒のような存在だ。そのパワーは大きさに比して強くなる。それを、気合いだけで投げ飛ばすとは。 「やっぱり馬鹿力ですね!」 「あんた応援してんの!? けなしてんの!?」 「褒めてるんですよ、支援します!!」 アイテムがなくても、錬金術師にだって魔法くらい扱える! 「ふッ!!」 氷の銃弾。ハルトが使った爆炎の銃弾ほど威力はないが、尖った氷は蛇鱗をわずかに傷つける。 「ミヅホ、傷がついたところを優先的に斬りつけて! 削れれば痛みで逃げるかも!」 「りょーかいッ!!」 氷と石が飛び交い、剣がぶんぶんと振り回される。蛇もまた大きく暴れまわった。 「ッ!?」 「ミヅホ!?」 蛇が大きく尾を振るった。なんとか剣で受け止めるも、パワー負けして壁に叩きつけられる。 「がッ……!!」 「ミヅホ!!」 リンが慌てて駆け寄る。ミヅホの息は荒くなっていた。 「くっ……!」 「に、逃げ……」 リンは構わず、手に魔力をためて蛇に向ける。その直後、蛇の動きが止まった。 「……え?」 いつの間にか、頭部がなくなっていた。 ふらりと揺れた蛇の体は、ずしんと土煙をあげながら倒れる。すると、煙の中から見知った四人が現れた。 「こんなところにいたのか、じゃじゃ馬ども」 「先生、助かりました」 ピースはごきりと首を鳴らし、安堵の笑みを浮かべた。 |