場所を移動し、三人で少し小綺麗な食事処へとやって来た。
 ハルトが合流してからミリアはご機嫌ナナメであったが、デートの最中とはいえ用事があってやって来た少年を無下にもできない。
 三人に昼食をする間、ハルトは何も言わなかった。黙って食事を終えたところで、ピースは口火を切る。
「んで、俺に何の用事だ」
「その……」
 ハルトはもじもじしながら、
「お願いと、いうのは。僕も、ピースさんの弟子にしていただけないか、と」
「俺の弟子? だってお前、ミニャって子の従者なんだろ」
「そこはやめてきました。お邪魔になるといけないので……」
「ああ」
 まあ、冒険とはいえ主を危機に晒すようでは、従者としては失格だろう。
「でも、このままではいけないとも思っていました。その時、イーさんに言われて……。ピースさんなら、僕を鍛えてくれるんじゃないか、と」
「ふうん」
 改めてハルトのことを見つめる。
 小柄だし、筋肉の付き方も甘い。生まれながらに向いていないのだろう。にじみ出る魔力もそう多いものではなく、全体的にパッとしないところはある。
「なんでお前さん、冒険者なんてやってるんだ。むしろ他の仕事の方が向いてそうだが」
「……たぶん、あなたと同じです。だから、あなたに弟子入りしろって言ったんだと思います」
「俺と同じ?」
 ハルトは頷き、
「冒険者に憧れたからです。誰も行ったことのない場所に行き、誰も見たことのないものを見て、誰も手にしたことのないものを持ち帰る。そういう存在にです」
「そいつは……」
 ピースは首を振り、
「俺はそんな立派なもんじゃないさ。でも、言いたいことはわかった」
「じゃあ」
「その前に、お前さん、ミニャのところでは運搬ポーターを担っていたようだが、本来の役割は何なんだ」
「特にこれっていうことはありませんが、ひととおり経験はあります。どれもパッとしなくて、基本を覚えたところで解雇されちゃうんですが……。ミニャ様のところに雇って頂けたのも、本当に偶然でしたから」
「ひととおり? 7つの役割を全部経験したのか?」
「あ、はい。僕、もともと出来が悪いうえにコミュニケーションが下手で、冒険者学校も二年留年しちゃってて……。そのぶん、いろんな経験は積ませていただきました。ソロで潜ったことも何度か」
「ほう」
 ピースはニヤリと笑う。これは、思ったより掘り出し物かもしれない。
「で? お話終わった?」
 その時、頭の上にのっしりと重量が降ってきた。ミリアの胸だ。
「おい。俺の頭を支えに使うな」
「いいでしょ別に。だいたい今日はミリアとのデートなのに」
「退院祝いな?」
「同じだもん」
「違うっての。でも、そうだな。ハルト、明後日の朝に砦跡公園に来な。俺たちはそこにいるから」
「あ、はい。わかりました」
「じゃあ行くよー!!」
「あっ、おい!」
 人を抱えて歩き出すミリアに、ピースの抗議は聞き入れて貰えなかった。
「なんだか……。すごい人たち……」

☆   ☆   ☆   ☆


 そんなこんなで翌翌日。
 砦跡公園に、四人の冒険者が集まっていた。
「ということで、こいつを冒険に同行させようと思うんだが」
 ピースはハルトの肩を叩く。リンとミヅホは顔を見合わせ、
「先生がそうおっしゃるのなら」
「ま、実際防壁タンク探索サーチだけじゃ色々と不安あるしね」
「そうだ。特にリンは錬金術を多用する、これは素材になるアイテムが必要条件だ。いろんな状況に対応できる反面、素材がなければ何もできない。そこで、ハルトに運搬ポーターを担ってもらう」
「は、はい。了解しました」
「そして、それだけじゃない。基本的にお前たちはモンスターとの戦闘は避ける前提のパーティだ。けど、それでもノーダメージってわけにはいかない。長く迷宮を探索するなら維持キーパーが絶対的に必要となる」
 維持キーパー。聖魔法による回復と、炎や毒といった特殊攻撃から味方を守る結界を作る役割だ。
 防壁タンクがモンスターと接触しながら味方を守る盾であるのに対し、維持キーパーは盾が壊されないよう努める係となる。
「もともと維持キーパーは万能魔法が使えるリンに頼もうと思っていたんだが、本職が入るならそれに越したことはない。前線に出ないから荷物を持ちながらでも支障ないしな」
「それはいいんですけど、彼、聖魔法なんて使えるんですか?」
「え、えっと、その、基本的なことなら。治癒、解毒、毒結界、炎結界、冷結界……」
「へえ? そうなんですか、ちょっと誤解していました」
「ま、そんだけできんなら問題ないっしょ。で、先生、今日はどこに行くの?」
「ああ。ちょっと行ってみたい迷宮があってな。翠の洞窟だ」
「スパイニー樹洞ですか?」
「その通り」
 スパイニー樹洞、通称を【翠の洞窟】。
 帝都から馬車で一日ほどの場所にある森林風の迷宮で、巨大な樹木の中に森があるという不思議な構造をしている。
 生い茂った木々が緑色の洞窟にも見えることから、翠の洞窟というあだ名がついている場所だ。
「目標は、樹洞の奥に生息する白銀蜘蛛の巣を採取すること。こいつは軽くて丈夫、しかも魔力の通りがいいから魔法タイプの冒険者にとっちゃ良い防具の材料になる」
「はーい。じゃ、行きましょ」
 それぞれ荷物を担ぎ、ミヅホを先頭に、ハルトとリンが続く。
 と、ピースはそっとリンに耳打ちした。
「リン、頼みがある」
「なんでしょうか」
「ハルトはおそらく、パニック癖がある。だが、冒険の経験ならきっとお前たちよりレベルが高い。何が起きたとしても、あいつを最後まで信じてやってくれ」
「先生がそうおっしゃるなら」
「ああ、頼むよ」
 大きなリュックを背負ったハルト。その背中は、心なしか小さく見えていた。