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スパイニー樹洞の入り口は、巨大な枯れ木にある。 その昔は天を突くほどの大きさだったと言われているが、枯れ木となった今はそこまでの大きさではない。それでも見上げるほどのサイズ感ではあるのだが。 幹の中央に大きな穴が空いており、そこから中に入っていく。絡み合った根を踏み分けながら進むと、少しだけ開けた場所に出てくる。 頭上は鬱蒼と生い茂る緑。足元は木の根がびっしりと絡み合い、小さなバッタがぴょこぴょこと逃げていく。 先頭はミヅホ、その後ろにピースが続き、ハルト、リンと並んでいく。 「なんだか陰気な場所ね」 「陽気な迷宮ってなんだよ」 「こう、キラキラピカピカしてるような?」 「鳥か、お前は」 「皆さん、ストップです」 と、索敵をしていたリンが合図した。 「前方、10メートルほど先。左右の樹上にモンスターがいます」 「ん、良い読みだ」 リンが告知する前に、ピースはすでに気づいていた。 顔をあげれば、そこに見えるのはただ生い茂っているだけの枝だ。だが、森に慣れた人間が見れば、枝が不自然に下がっていることがわかるだろう。 枝に重みが乗っている証拠だ。 「ミヅホ、こういう状況ではどうする?」 「えーと、戦いはできるだけ避けるのよね。じゃあ走って逃げる?」 「と、言いたいところだが、ここは一本道の場所だ。脇道から迂回できるわけじゃない」 「じゃあどうするの?」 「少し相手にダメージを与えるんだ。倒さなくていい、相手がいそうな場所に向かって攻撃を放つ。相手がひるんだ隙に駆け抜ける」 「そんなんでいいの?」 「待ち伏せするタイプのモンスターってことは、狩りの成果を求めているか、そもそも正面切った戦いが苦手ってことだ。こちらが反撃してくるようなら無傷で成果が得られないし、戦いにもなりかねない。慎重なモンスターなら逃げるだろうよ」 「そういうこと。でもあたし、遠距離攻撃って苦手なんだけど」 「リン、氷弾を打ち込んでみろ。拳大でいい」 「はい」 リンが魔力を集中させ、氷弾を解き放つ。木々の間に氷が打ち込まれると、ガサガサと木を揺らしてモンスターが飛び出した。 「ローズモンキー!」 気弱な猿のようなモンスターだ。猿たちは何かを騒ぎながら、さっさと逃げていく。 「うん、そんなところだろうな。ローズモンキーはスピードこそあるもののパワーが足りず、獲物を背後から狙う習性がある。こっちが先手を取ればだいたい逃げる相手だ」 「なるほど。ただ闇雲に剣を振ればいいってことじゃないのね」 「ただ闇雲に剣を振れなんて教えたことは一度もないぞアホ。この調子で進もう……。っと」 ピースは足を止め、木々の合間に生えていた草を摘む。 「それは?」 「ベータ草。錬金術の材料になるものだ。だろ、リン?」 「はい。いろんな素材に使えますね。でも、よく見つけられましたね……。私は気づきませんでした」 「なに、これは慣れの問題だ。ハルト、収納してくれるか」 「り、了解しました」 受け取った草を、ハルトは小分け用の袋に詰めてパッキングする。その様子を見ていたピースはうん、とひとつ頷き、 「よし、行こうか」 土を払って立ち上がった。 樹洞の奥まで来ると、少しだけ緑の屋根が薄くなる。 木漏れ日が落ちる中、きらきらと輝いている道が見えた。 「あれってもしかして……」 「ああ、白銀蜘蛛の糸だな」 「やった! 採取しようよ採取! ほら、ハルトも!」 「あ、ちょっ」 ミヅホに引っ張られながら、ハルトも採取に向かう。その後をリンとピースが続いた。 「特に問題も起きませんでしたね。彼、可もなく不可もなくって見えましたけど」 「いや、かなり優秀だよ」 「優秀? 言っては悪いですけど、それほどスゴくは見えませんでしたが……」 「運搬の良し悪しって何で判断すると思う?」 「……? 荷物持ちですよ、良し悪しなんてあります?」 「あるよ。第一に、きちんと荷物を破損せずに運べること。第二に、必要となった荷物をすぐに用意できること」 「あ、なるほど……」 「そのためには荷物を詰め込む時点、パッキングの上手さが左右する。適当に荷物を突っ込んでしまうと、どうしたって壊れやすいし、必要となった時にもなかなか取り出せなくなる。彼は丁寧なパッキングをしているな、あれならどこに何があるかもきちんと把握できているだろうし、壊れにくい」 「それで道中もちょこちょこ採取してはハルトに持たせていたんですか?」 「そういうことだ。加えて聖魔法。あれは一朝一夕で覚えられるものじゃない。本職ではないんだろうが、きちんと詠唱を覚えている証拠だ」 「それくらいなら、回復志望の冒険者ならだいたい覚えていると思いますけど」 「聖魔法は攻撃魔法と違って、味方にかけるものだ。攻撃魔法は雑でも発動さえすればいいが、聖魔法はミスるとかえって味方を害することもある。その点、あいつの詠唱はハッキリしていて間違えようがない。いい詠唱だよ」 「そういうこともあるんですか……」 「言うなれば、きっちり1グラムを計る料理ってところだな」 「慎重、かつ丁寧。けど敵を前にすると慌てがちでミスが多い。……落ち着いて仕事すれば成果を発揮できるタイプ、ってことでしょうか」 「そんな感じだな。ま、モンスターとの戦闘を積極的にする必要がないお前たちとは相性もいい……」 その時。ぐらりと木々が揺れた。 メキメキと大樹がへし折れ、合間からモンスターが顔を出す。 「おっと、こいつは……」 見上げるほどの巨体、太い腕と一つしかない瞳。オリーブサイクロプスーー単眼巨人の亜種だ。主に森林地帯に生息し、樹木をこん棒にして振り回す習性がある。 「う、わああああああ!?」 「ちょっ、ハルト! 落ち着いて!」 すぐさまミヅホは剣を抜き、サイクロプスと相対する。 「リン、索敵しろ」 「えっ?」 「オリーブサイクロプスの厄介なところは、あいつ自身の強さじゃない。あいつが共生する小動物の方だ!」 「わ、わかりました!」 リンの索敵魔法。周囲の敵を探し出す。 「さ、左右方向! 小型のモンスターが6、7……8体!」 「ちっ、やはりか」 巨体を誇るサイクロプスは、特に樹林では動きを制限されることも多い。そんな彼らが共生する相手がジェントルバグと呼ばれる虫だ。 ジェントルバグは毒針を持ち、サイクロプスに集中している敵の動きを止める役割を担う。また、サイクロプスにエサを運ぶ代わり、彼らに自分たちの巣を守ってもらう行動も取る。 腕力が強いだけのサイクロプスは、剛力を持つミヅホならさほど恐ろしくはない。厄介なのは、ジェントルバグの方だ。 「ハルト、下がれッ!!」 ピースは叫びつつ、自分のナイフを引き抜いた。 |