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「えっ、え!?」 「いいから下がれ、ハルト!!」 ハルトを後ろに下げつつ、ピースは少し前に出る。 「ハルト、俺たち全員に結界だ! 耐毒!!」 「ど、毒!? わ、わかりました!」 ハルトは慌てて詠唱を開始する。何をすればいいのか分からない状況では硬直する癖のある彼も、こうして明確な指示があればその通りに動けるということか。 「リン、雑魚は任せるぞ。動きを止めろ」 「了解しました」 「ミヅホ、戦うことは考えるなよ、あいつはお前らが倒せる相手じゃない。じゃあ、サイクロプスから逃げるにはどうすればいいと思う?」 「……走って逃げる?」 「バカ、あんなでかい相手にかけっこで勝負するつもりか? 歩幅がどれだけ違うと思ってるんだ」 「えー、でも戦うなって……」 「相手に少しダメージを与えりゃいいんだ。特に足を狙え、走れなくなる」 「あ、なるほど。りょーかいっ!!」 大剣を振り回し、ミヅホは木々の間を駆け抜ける。決してよい足場ではないが、運動神経のよい彼女には問題ないようだ。 「どっせぇ!!」 「ぐるぉぉぉぉぉ!!」 サイクロプスが振り回すこん棒と、ミヅホの振り回す剣が激突する。 断ち切るというのは難しいようだが、こん棒に剣が深々と突き刺さった。 「え? ぬわああああああ!?」 ーーが、そんなことをすれば振り回されるのはむしろ当然。こん棒に剣を刺したまま、ぶんぶんと宙を舞う。 「ミヅホー!?」 「このアホー!!」 「わたたた!?」 とうとう剣がこん棒から抜けた。ふわりと浮き上がったミヅホは反転、重力につかまる。 「いやあああああああ!?」 ズドン、と根の上に落ちた。そのままゴロゴロと転がる。 「びっくりしたー!」 「びっくりって、お前ケガは?」 「あ、それは大丈夫みたい。根がクッションになったのかな?」 「いや……」 ピースは理解していた。 探索の間から妙に魔力を感じていたが、どうやらハルトが防御結界を常にかけ直していたらしい。いつモンスターに襲われてもいいようにという用心だろう。 臆病に起因するものかもしれないが、何が起こるか分からない冒険中であると考えればーー。 「思いのほか優秀だ……! というかミヅホ、足を狙えって言ってんだろうが! 上から斬りつけてどうするんだ!」 「あ、そっか! 下だね!」 今度は剣を下段に構え、突撃する。サイクロプスが武器を振り上げるよりミヅホの攻撃が早い! 「ふっ!」 ミヅホの剣がサイクロプスの足に吸い込まれーーかわされる。 「ッ!?」 ひょい、と足を振り上げたのだ。 「ミヅホ、逃げろ!!」 「でえええええええ!?」 そのまま降り注ぐ巨足。剣を盾に受け止める。 「ミヅホ!!」 「わわわわ……!!」 サイクロプスの全体重を受け止めているようなものだ。いくらミヅホが剛力とはいえ、これはさすがに厳しい。 「ハルト、支援魔法いけるか!?」 「わぇ、うっ、あの!?」 「ちっ、なら俺が……」 ピースが慌てて援護しようとした直後、周囲が霧に包まれる。 「これは……錬金魔法?」 「ハルト、落ち着いて自分の腕だけ見てください。さあ、強化魔法を詠唱!」 「あっ、は、はい!」 すぐさまハルトの詠唱が始まる。一度始まってしまえば、淀みもなく、それでいて複雑な術式を正確にこなしている。 これは才能やテクニックではない。単純な経験の差ーーそれだけの経験を積んでいるという証だ。 「発動いけます!」 「そのままこちらに!!」 ハルトの強化魔法がリンをカバーする。そのまま駆け出し、あろうことかリンはサイクロプスに飛び蹴りをかました。 「ぐるっ!?」 もともと腕力に優れているわけではないが、それでも強化した人間が全体重をかけて突っ込んだのだ。いかにサイクロプスといえども片足で受け止めることはできない。 結果、ミヅホをかわした場所で足を落とす。 「ミヅホ、逃げて!」 「りょーかい!!」 ミヅホがバックステップで戻る中、リンもまた逃げる。その後に、怒った巨人が迫り来る。 「るぅぁああああああああああ!!」 叫ぶサイクロプスーーその姿が、吹き飛ばされた。 「何!?」 魔法ではない。ただ力任せにぶん殴ったのだ。 サイクロプスの背後、樹林の中から現れたのは、一人の女だった。片刃の斧を持ち、燃えるように赤い髪を頭の両サイドでくくっている。 「お、応援?」 「そのようだな」 その姿を見たピースは力を抜く。後ろから攻撃されたサイクロプスは、激昂しながら振り返った。 「ぐるあああああああああ!!」 ーーズドン!!! こん棒を振り上げ、襲いかかるサイクロプス。その一撃を、あろうことか、赤髪の女は片腕で受け止めた。 とんでもない爆音が響き、木々の根がひび割れる。それでも女は平然としていた。 女は斧を持ち上げると、受け止めたこん棒を打ち砕く。 「っ!?」 「せぇ、のッ!!」 そのまま斧を振り回す。斧が電撃をまとい、さながら独楽のようにぐんぐんと回転していく。 「ぶっ飛べ!!」 無理やり勢いをつけた斧のスイング。サイクロプスの巨体がへし折れ、木々をなぎ倒しながら三回転して打ち捨てられた。 サイクロプスが倒れたことで、取り巻きとしてうろついていたジェントルバグも慌てて逃げていく。 「ふう。邪魔したわね」 「助かったっていうか、お前の討ち漏らしじゃねえのか、最強」 「ふん。あいつが勝手に逃げたのよ」 「ぜー、はー……、せ、先生の知り合い?」 尻餅を突いたミヅホに手を貸しながら、ピースは言う。 「知り合いって言うかね。こいつを知らない冒険者がいるのか」 「あたし知らないけど」 「お前はものを知らなさすぎなんだよ。こいつは当代最強、討伐型の頂点。”迅雷”のローズだ」 「そういうあんたは、もしかしてピース・チャック? あの”神楽”のピースね」 「はん、そんなん言われたのは久しぶりだよ。ま、なんにしても助かった。俺にはサイクロプスって相性がよくないしな」 「アタシも、オリーブサイクロプスは雑魚なんだけど、周囲の取り巻きがうざったくてね。あんたたちが取り巻きを引き付けてくれたから楽に殺せたわ」 「人を露払いに使わないで下さい」 ジェントルバグの追撃を警戒していたリンが合流する。パンパンと手の埃を払いながら、 「それにしても、どうしてこんなところに最強様が? それほどレベルの高い迷宮でもなさそうですけど」 「今のオリーブサイクロプスのせいよ。あいつがこの迷宮に現れるのは一年に一度くらいなんだけど、討伐レベルとしちゃ迷宮の難易度を越えてるからね。アタシにお鉢が回ってきたのよ」 「なるほどな」 迷宮にはそれぞれ難易度が設定されており、おおむねそのレベルでしかモンスターも出現しない。だが、迷宮によっては特定の時期だけ危険なモンスターが出現する場所もある。 うっかりしていたが、今の樹洞がちょうどその時期だった、ということだろう。 「ま、アタシの仕事は終わったし、退散させてもらうわ。もうサイクロプスはいないと思うけど、あんたらはまだ探索するの?」 「ああ、白銀蜘蛛の糸を採取したらな」 「ああ、あれ。いいけど、今のサイクロプスが踏み荒らしたんじゃない?」 「あ……」 見れば、先ほどの巣もどこにあったのか分からないほどになっている。 「……ま、また探すさ」 「あっそ。じゃあね」 ローズは巨斧を担ぎ直すと、そのまま出口に向かって行った。 「あの人、もしかしてソロなんですか?」 「ああ。最強にして孤高、ローズ・キックオール。常に一人で迷宮にもぐり、どんな強敵も斧でぶちのめすっていう恐ろしい女だ。お前らも迷宮にもぐってりゃ遭遇することもあるかもしれん、気を付けろよ」 「なんで同じ冒険者に気を付ける必要性が……」 「あいつが周囲の影響とかお構い無しのバケモンだからだよ」 怪力女にへし折られた木々を見ながら、ピースはそう言った。 |