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一方その頃、ピースはミリア・コーナを引き連れて樹洞を訪れていた。 樹洞のモンスターを蹴散らすにはミリアに任せ、ピースはひたすらに痕跡を探し続ける。 今回の目的は採取でも討伐でもないので、二人とも軽装だ。ピースはいつものベストにナイフのみ。ミリアはメインウエポンのハンマーに、スリットの深い紅色ドレスで着飾っている。 「ねーえ、何を探してるのー?」 巨大なハンマーを担ぎ、ミリアは首をかしげた。 身の丈すら越えるハンマーは、彼女愛用の武器だ。重量は馬3頭分にも匹敵し、当然ながらまともな人間が扱えるものではない。 柄は特別な金属を用いて作られており、それほどの重量をぶんぶん振り回してもへし折れない特別製だ。 ピースは草地に残る足跡を調べながら、 「誰がここに来たのかを知りたいんだよ」 「誰がって、冒険者の履歴なんか国で管理してるんじゃないの? まあピースは閲覧権限ないかもしれないけど」 「冒険者なら、な」 冒険者はギルドに所属し、迷宮に向かう際には届け出も用意している。都を出る際にもチェックされ、帰還しなければ捜索願いなども出されることになっている。 これらは根無し草の冒険者を守るためのチェック機構として、今も機能している仕組みだ。 だが、この中でチェックできない人間もいる。冒険者ギルドに登録せず、国に届け出もしないまま迷宮へ出入りしている人物だ。 当然、普通の冒険者ならばギルド所属を拒否する理由がないし、面倒ながら届け出は自分を守ることにも繋がるので、大半の冒険者は手続きを怠らない。 そうしないのは、そうすることが出来ない人物だけ。 「……ありていに言って、ここに来ているヤツは何か後ろ暗いことがあるヤツだと見ているんだ」 「後ろ暗い? 犯罪者ってこと?」 「ま、そうだな。それも相当にヤバい人物がいるんじゃないかと見ている」 「ふうん。なんでそんなことを思うの?」 「先日の冒険は話したろ」 「サイクロプスに襲われたってやつ?」 「それだ。サイクロプスそのものは、この迷宮なら目撃例もあるモンスターだ。定期的に発生しているし、その周期も判明している。最初は俺が周期を間違えたかと思ったが……」 「違うの?」 「ああ。周期的に言えばあと3ヶ月は先のはずなんだ。今までサイクロプスの出現が変動したことは一度もない」 「ふうん。それって大変なの? モンスターのことなんて全部が分かっているわけじゃないんでしょ?」 「そうだけどな……」 何かを考えながら、ピースは森の中を進んでいく。 先日サイクロプスと遭遇した最奥まで来ると、ピースはさらに先へ進んだ。大きな樹木の裏側に空間があり、そこがサイクロプスの巣と言われている。 「ふむ」 モンスターは闇の中から生まれる。なぜかはともかく、事実としてそうなのだ。 この空間は森の中でも特に薄暗く、闇が濃いようだ。だからだろうか、定期的にサイクロプスが産み出されるのは。 問題はーーなぜ今回、サイクロプス出現の時期が早まったのか。 草地に足跡はない。人が立ち入ったと書かれているわけでもない。だが、ピースは人間がここにいたと確信していた。 「ミリア、これが何かわかるか」 「草」 「バジェルミント。薬草だよ」 それは、小さな若葉だった。ピースはミントの葉を摘み、 「バジェルミントは野生じゃ存在しない。人間が品種改良で作った種類だからな。一方で、強い繁殖力があり、種が靴なんかに付着していると迷宮内でも繁殖することがある」 「じゃああの子、ローズとかいう? その子じゃないの?」 「ローズ・キックオールがここに踏み入ったなら、道はもっと荒れている。彼女は道を破壊するタイプだし、そもそも痕跡を隠す理由がない」 そう、これは矛盾なのだ。 バジェルミントがあるということは人間、少なくても文化圏に出入りしている人物がここに立ち入ったということ。 一方で、人間が立ち入った痕跡がないーーこれはすなわち、わざわざ痕跡を消した人物がいるということだ。 「痕跡を隠しながら立ち入ってる……。やっぱ後ろ暗いヤツがいるってことは確定的だな」 「ふうん。そうなん、だッ!」 その時、ミリアはぶぅんとハンマーを振り回した。空気と共に敵をぶっ飛ばし、大樹に叩きつける。 肉塊となったそれは、明らかに腐肉だった。 「敵襲か」 「任せて」 二人の前にいたのは狼のようなモンスターだった。しかしその体は腐っており、目玉はあらぬ方向を向いている。 リビングウルフ。死霊のモンスターだ。それが3体も。いやーーすでにミリアが一匹潰したから、本来は4体か。 「ミリアとピースのデートを、邪魔すんなッ!」 巨大なハンマーがリビングウルフを叩き潰す。獣の敏捷さで2匹は襲いかかるが、 「甘い!!」 ミリアには通じない。深紅のドレスをなびかせ、ハンマーを振り回す。その一撃一撃が致命傷となる。 一瞬にして4匹のモンスターを屠ったミリアは、ハンマーを地面に下ろして一息ついた。 「ふう。まったくもう、無粋ね!」 「いや。出てきてくれて助かった」 ピースはミリアが粉砕したリビングウルフの欠片を調べる。 普通の死霊系モンスターだ。この迷宮で出現してもおかしい相手ではないが、群れで出現している。 ーー死霊モンスターは群れない。 これはかつて、ラリーと話していた時にも言ったことだ。もちろん今回も偶然と割り切ることはできるだろう、だが。 「後ろ暗い人物がいたと推測できる痕跡、アンデッドの出現、ついでにサイクロプス出現時期の変化か。どれもこれも、胡散臭いったらありゃしねえ」 「臭い? まあ死霊だもんねぇ」 「そうじゃねえっての。やっぱりと言うべきか、ここにいやがったのは……」 迷宮をうろつく後ろ暗い人物なんて、そう多くない。 ましてや死霊モンスターと関わりのある人物。 「ネクロマンサー、か」 ラリーと話してから少し調べてみた。ネクロマンサー、今は禁術となった死霊術を操る魔法使いのことだ。 死体をモンスター化させ、自分の意のままに操ることができる能力者。禁忌の術式であるため、学校では存在さえ教えておらず、もちろん技術は失われたものとされている。 だが、それを蘇らせた人物がいるとしたら。 あらゆるモンスターは人類の天敵だ。帝都は結界に守られ、モンスターの出入りはできないが……。 もしも、帝都内でモンスターを操る人物が現れたとしたら。帝都には戦闘のできない子供や老人も多くいる。 未曾有の大災害が発生する。ちょうど500年前、まだ帝都が結界に覆いきれておらず、モンスターと争っていた時代に戻ることになる。 歴史書によれば、当時は出現した大量のモンスターによって、およそ数百万人が犠牲になったとされている。 ピースはミントの葉を握りしめ、ひとりで呟く。 「絶対に捕まえてやるぜ。ネクロマンサー」 |