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ピース・チャックは大通りを歩いていた。 いつものベストに、今日は小金の入った麻袋を提げている。 そんなピースの後ろをついて回るのは、ミリアだった。 「ミリア……。暑苦しいんだが」 「いいでしょ別に」 ついて回るとは言っても本当に付着している。それはもうべったりと。 首に手を回し、不必要に胸を押し当てている。薄い生地越しにやわらかな感触と熱が伝わってきて、ピース的には非常に暑苦しい。 「ねえねえ、どこに行くのー?」 「だから、依頼だっての。護衛依頼」 「えー、ピースの護衛だったらミリアがやるってば!」 「お前は頼りにしてるよ。でもお前ひとりじゃ、何かあったら困るだろ」 「何かって何? 二人でデートしたい」 「何かだよ。ったく、いいから少し離れろ!」 べりっ、とミリアをひっぺがす。今日の彼女は白いワンピースだが、やはりスリットが深く肌も露になっている。 道行く男性から注目を集めているのは、美貌のせいか露出のせいか、はたまた両方か。 同時、子供のように背が低いピースが一緒にいると子連れのように見えるのか、声をかけてくる相手はいないようだ。 「……ったく。ほら、用件があるのはここだよ」 「え? ここギルドじゃないじゃない」 普通、依頼があればギルド経由で出すのが一般的だ。仲介が入った方が面倒もないし、依頼を受けられる相手を広く探すこともできる。 だが、今回ピースがやろうとしているのは、特定の相手に直接依頼する方法だ。この方法だと相手と摩擦が生じやすいし、報酬の関係で揉め事も起きやすいが、狙った相手にピンポイントで依頼できるというメリットがある。 ピースが訪れたのは、刃物店だった。中に入ると、壁際いっぱいに包丁やナイフといった日用品が並んでいる。 「よう、旦那」 「ん? おお、ピースか。久しぶりだな」 カウンターにいたのは、初老の男性だった。白い立派な髭を生やしたドワーフで、オーバーオールから伸びた腕はピースの倍ほども太い。 「旦那、彼女はいるか」 「ああ。呼んでやるよ。おーい、ローズ! お客さんだぞ!」 ドワーフの野太い声が奥まで響くと、裏からひとりの少女が顔を出した。 「なによ、大きな声で。って、”神楽”の。アタシに何か用?」 今日のローズは冒険に出るわけではないらしく、着飾っていない麻の服姿だ。 ピースはにやりと笑い、 「依頼だよ、ローズ・キックオール」 「あんたが? アタシに?」 ローズはピースとミリアを等分に眺め、 「あんたにはその人がいるじゃない。”暴風”のミリア・コーナ。そのうえでアタシまで必要なわけ?」 「今の俺は冒険者資格を持っていないからな。ミリアの冒険者資格だけじゃ入れないんだよ」 「どんだけ上位の迷宮に行くつもりよ?」 「テムタ鉱区」 「……ふうん」 迷宮の名前を聞いた途端、ローズの顔色が変わった。 「なるほどね、テムタ鉱区の最低挑戦人数は、上位冒険者2名を加えた3人以上のパーティであること。条件のせいでアタシも行ったことのない迷宮だわ」 今回、ピースが弟子たちを連れてきていないのもそれが理由だ。彼女たちの戦闘力では同行するだけ危険だし、そもそも冒険者ランクが低すぎて条件を満たせない。 ピースはゴキリと首を鳴らし、 「ま、そうだ。入り口は鉱山のようだが、奥は古代の神殿に繋がっていて、出現するモンスターのレベルもそんじょそこらの迷宮とは比べ物にならない」 「噂じゃかつての魔王が居城にしていた場所って話もあるくらいだからね。でも、そんなところに何をしに行くの? 採取できるアイテムなんかほとんどないし、討伐が必要なモンスターがいるわけでもない……。というより、ほとんど誰も行かない場所だわ」 ローズの問いに、ピースはにやりと笑う。 「そこでしか採取できないアイテムがひとつだけあるだろ?」 「ひとつ……。もしかして闇の硝石狙いなの? 確かにあれはテムタ鉱区なら手に入るだろうけど……。持ってるだけで体調が悪くなるっていう呪いみたいなアイテムよ? そんなもの手に入れてどうするのよ」 「正確には、それを必要としている人物がいるんじゃないかと思ってる、ってとこだな。とにかくあの迷宮に挑むには人数も資格も必要で、しかも戦闘の実力が伴っていないと話にならない。俺の護衛はミリアに頼むつもりだが、お前も露払いしてくれると助かる」 「はん! 現役最強のアタシを露払いとはね。でもいいわ、あの迷宮には一度入ってみたかったもの。協力してあげる」 「ミリア、お前は常に俺と一緒に行動して守って欲しい」 「いいよー。でもミリア、護衛はあんまり得意じゃないよ。巻き込んじゃうから」 ミリアはバーサーカーというかなり攻撃的な能力を持っている。 腕力では彼女に敵う人間などおらず、頑強さでも他の追随を許さない。一方で魔法は苦手、敵を見ると襲いかかりたくなる性分も相まって、明確に護衛は不向きだ。 とはいえピースの知り合いで、彼女以上に戦闘力がある人物もいない。攻撃的な性分というのも、ピースがサポートに回ればある程度は押さえ込むことができる。 危険な場所では、信頼が一番大事だ。ピースはくすりと笑い、 「いいんだ。俺の命を預けるならお前が適任だ」 「んもー、ミリアのこと大好きか!」 ぎゅーっ、と抱き締めるミリア。ピースはその頭をなでてやりながら、 「場所の関係上、荷物持ちは同伴できない。強行軍になると思うが」 「構わないわ。アタシはいつもソロで強行軍だもの」 「そりゃそうか。出発は3日後でいいか?」 「アタシはいつでも。準備って言うほど準備もないし、今は受けている依頼もないわ」 「助かる。じゃあ、朝イチに門の前で」 「ちょっと、その前に報酬はどうなのよ」 これでも一応は最強への依頼だ。彼女への依頼相場は日給で金貨3枚。普通の冒険者なら銀貨で請け負うものだから、破格の値段ではある。 つまるところ、彼女の戦闘力はそれだけの価値があるのだ。ソロで上級モンスターの討伐が可能な人物など、彼女の他にはいない。 ピースは指を立てて、 「日給金貨4。これでどうだ」 「ふうん。随分と張り込むのね。……それだけ危険なヤマっことね」 「テムタ鉱区まで行くんだ、当然だろ。普通の冒険者じゃ生きて帰ってこられないんだ」 「それだけ? 何か隠していない?」 「……ま、危ないヤマではあるけどな。お前はそういうのを気にしないだろう」 ローズはピースをじっと見つめ、 「まあいいわ。受けてあげる。あそこなら腕試しにもちょうどいいし、前から行ってみたいとは思っていたのよね。報酬は金貨2でいいわ」 「そんなに安くていいのか? 言っちゃ悪いが、死んでも責任は取れないぞ」 「甘えたこと言わないで、こちとら冒険者よ。誰も死なせるわけないでしょう」 そう胸を張るローズ・キックオールは、とても頼もしく見えた。 |