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じり、とドラゴンゾンビが迫る。 「ピース・チャック。お前の術式は確かに面白い。加速し、強化した魔法を至近距離で炸裂させる。仕掛けると同時に撤退し、相手の反撃を許さない。そのスタイルは立派だが、ドラゴンゾンビには通じない」 もともと対爆性能の高いドラゴンが、痛みさえ忘れているのだ。爆破魔法で攻めるにはハードルが高い。 「さて……」 直後、ミハイルの視線が泳ぐ。 「アタシを、無視してんじゃないわッ!!」 迅雷の速度は伊達ではない。 一瞬でリビングデッドを蹴散らすと、すぐさまドラゴンゾンビに襲いかかる。全力スイングで死竜の横っ腹をぶん殴った。 ぐらりと揺れる竜の体。だが、すぐさま体勢を立て直す。 「ウウウウァァァァァァ!!」 吐き出される黒紫色の煙。人体に有害な毒ガスだ。 「ローズ、逃げろ!」 「ちっ!」 正面から殴り合いをすることについて、ローズ・キックオールは誰にも負けない。 一方で、彼女は搦め手に弱い。状態異常を引き起こすような相手にも一方的に負けるというわけではないが、彼女のメインウエポンはあくまで斧。ガスを防げるものではない。 「引いとけ、ローズ。こういう相手はミリアの方がいい。頼むぜ、ミリア」 「はーい。そのドラゴンを壊しちゃえばいいの?」 「ああ。遠慮はいらないぜ!」 「任せて」 ハンマーを片手に、ミリアが前に出た。 「ぶち、殺すよ!!」 巨大なハンマーを振り回しながら、ミリアは飛び出す。 ゾンビはブレスで対抗するが、ミリアは気にせず真っ向から飛び込む。 「なッ!?」 「ミリアはバーサーカー……。状態異常なんて気にしないぜ!」 バーサーカーというタイプは、自分自身の脳内を少々いじり、相手を撃滅すること以外の情報をシャットアウトする。 麻痺も毒も、彼女には通じない。ただの殺戮マシンと化しているからだ。 「ヒャッハァ!!」 ハンマーでドラゴンゾンビと殴り合う。パワーは互角だ。 「ふむ、ただのパワー型というわけでもないわけか」 「魔法タイプじゃないからって油断したな、ミハイル! このまま連行されてもらうぜ!」 「悪いがそういうわけにもいかん」 ミハイルが拳を固める。同時に、ローズが斬りかかった。 「おとなしくしてなさい!」 「ふん、邪魔だ小娘」 ローズが振り回す斧の一撃。それを、ミハイルはあろうことか横から殴りつける。 「!?」 迅速の斧を見切った上でのカウンター攻撃。体を内側に滑り込ませ、肩から当てる。 「ぐっ!」 「遅いぞ娘」 一瞬だけ動きが止まったローズ。その腹を膝で蹴りあげ、空中に浮かせたところで踵を落とす。 地面に叩きつけられ、ローズは息と共に斧を取り落とした。 特別に早いわけでも、特別にパワーがあるわけでもない。ただ上手い。 「戦闘経験が半端ねえって感じだな……。どういう生き方してたらそうなるんだよ」 「どうということはない。お前らがモンスターと遊んでいる間、俺は人間を相手にしていただけだ」 拳を構える。それが彼の戦闘スタイルなのだろう。 特別な武器はいらない。己の体だけで十分に戦えてしまうことの証左。 「ちっ、めんどくせえヤロウだなぁ、オイ!」 再び神楽の術式を起動させる。 神楽のポイントは、無限に加速と爆破を繰り返すこと。時間をかければ、ローズ以上の速度で仕掛けられる……! 「ふん」 だが。そこまで貯めさせて貰えない。 一度目は慣れていないが故に貰ってくれたようだが、今度は一発も当てられない。爆破を回避され、足場にしようとした場所に先回りされる。 こちらの一挙手一投足を先読みされているかのようだ。逃げても逃げても追いかけられてしまう。 ちらりと見れば、ミリアとドラゴンゾンビも拮抗しているようだ。いや、冒険者にとって悪夢となるような存在と殴り合っている時点で人間離れはしているのだが、今は単純に戦力を取られていると考えるべきか。 とはいえ、これほどの体術を持っている相手ではミリアが合流したところで大差ないだろう。 「くそっ、無理か……!」 ピースは咄嗟に判断する。 「ミリア、ローズ! 逃げんぞ!!」 おそらくだが、彼にとってはここが拠点だったのだろう。こちらが攻めたから防衛しているのであって、逃げれば追いかけてくるとは……。 「甘いぞ、”神楽”の。逃がすと思うか?」 「ぐっ……!」 追いすがるミハイル。その拳が容赦なくピースを叩く。 「ここを突き止めた嗅覚は素晴らしい。だが、お前をここで逃がすと違うアジトも突き止められてしまうかもしれん。お前はここで潰しておいた方が無難だ」 「ああそうかい……!」 冷静だ。冷静に、彼我の戦力を計った上で最善の道を進んでくる。 パチンと指を鳴らすと、どこからともなくリビングデッドたちが溢れてくる。 「けっ、どんだけ死体を集めてやがるんだ……!」 「たいした人数ではないさ」 ピースの能力は、基本的にタイマン専用だ。リビングデッドの群れとは相性が良くない。 ましてや、ミハイルを警戒しながらではーー。 「くそっ、詰んだか……?」 「させ、るわけ……。ないでしょ……」 その時、ゆらりとローズが立ち上がった。斧を引きずり、口から血を吐く。 「ざっけんじゃないわよ。アタシは最強だ! アウトローごときに負けてらんないわよ!」 「ふむ、気概はよし。だが、それだけで戦いにはならんぞ」 「当たり前だッ!!」 両手で斧をつかみ、ミハイルに斬りかかる。 当たれば大ダメージを与えるであろう斧の一撃も、体術に優れたミハイルは紙一重でかわしてくる。 「くっ……!」 「動きは悪くないぞ。ただ、単調だな」 ぴたりと合わせたカウンター。殴打でローズを削ってくる。 左腕、脇腹、右足ーー。 様々な箇所に打撃を加えられると、痛みと共に動きがにぶる。そのせいでますますカウンターを避けられない。 「ローズ、無理すんな! お前じゃそいつは無理だ!」 「無理ってなにさ! 無理なんてあるかッ!」 全力で斧を振り回し、やはりかわされーー反撃の蹴りを貰ったローズは、ごろごろと無様に転がった。 それでも、ローズはすぐさま立ち上がる。 「おい、ローズ。無理だって。あいつはお前より強い」 「無理なんて、ないわ……。アタシがやらなきゃ、誰がやるんだって……」 「そこは俺がなんとか……」 「あんたに、なんとかなんて……。できないでしょ……。アタシが、アタシが守らなきゃ」 「……ローズ?」 斧を握る手に力が宿る。瞳に炎が点る。 それは、ずっとソロで戦っていた彼女にとって初めてとも言える、強い闘志。 守りたいという心が産み出すーー戦いの意思! 「アタシがいて! 殺させてたまるかッ!!」 全身に稲妻をまとい、ローズは飛び出す。 テクニックでは敵わない、ならばスペックでーーミハイルが知覚できない速度で倒すしかない! 「ぬッ……!?」 それは奇跡だった。 必死のローズ、今この場で自分がやらなければという強い意思。対するミハイルは、ただ迎撃しなければという責任感。 当然、想いの強さはローズが上回る。 「るぅあああああああ!!」 紙一重の回避、それがほんのわずか遅れる。かわしきれる筈の斧をかわせず、打撃がミハイルをかすめた。 風圧だけでも人間を吹き飛ばすパワーがあるローズの斧。その打撃をかすめたミハイルはいくらか揺さぶられた。 「ぐッ!」 「そこだッ!!」 一瞬の隙、その瞬間を見逃すピースではない。 サイドから迫り、ほとんどゼロ距離で爆破魔法をぶっぱなす! 「ぬあっ!?」 ノーガードなら手足が吹き飛びかねない威力だ。もちろんミハイルがノーガードで受けてくれるわけではないが、ローズの一撃もあってよろけさせることには成功する。 「ミリアァァァァァ!!」 「了ッ!!」 その刹那、ミリアはドラゴンゾンビを捨て置き、ミハイルをハンマーでぶっ叩いた。それを避けることはできず、闇の中へ叩きつける。 「今だ、逃げるぞ!!」 三人は揃って駆け出した。 ミハイルからの追撃はなかった。 |