ピース・チャックがテムト鉱区へ向かった、ちょうどその頃。
 新米冒険者のリン、ミヅホ、そして新たにパーティーを組んだハルトの三人は、低レベル迷宮の入り口にいた。
 洞窟状の迷宮で、ここまでは外の光が入り込んでいる。ちょうどよくテーブルサイズの岩があったので、その上に洞窟の地図を置き、三人で囲んでいた。
「さて。まずは役割の確認です」
 リンは仲間二人の顔を見比べる。今日は低レベルとはいえ一応冒険なので、三人ともフル装備だ。
「ミヅホは前衛として私たちを守る役割。ハルトは荷物を運びつつ、必要に応じて味方の治癒と防御を担う係。そして私は、索敵しながら安全なルートを調べつつ、進軍と撤退の判断をします」
「うん、了解」
「いいと思います」
 リンはハルトを見やり、
「私たちのパーティーはそもそも探索型なので、モンスターとの戦闘は最小限。なので戦闘力も控えめで問題ないという前提ですが、実際に私たちの戦闘力は高くありません。そこが課題の一つ目、もしも強敵に遭遇した際に逃げ切れるかどうか? という点ですね。ハルト、この点はどうでしょう」
「モンスターは強いほど自分のテリトリーから動かないことが多いです。なので、戦闘力が控えめでもそれほど問題じゃないと思います」
「オーライ。では問題の二つ目、経験のなさ。私とミヅホは、実際にモンスターや迷宮を探索した経験が圧倒的に足りていません。そのため、モンスターに遭遇した際に逃げるべきか戦うべきか? この判断を誤る場合があります。一応、私は書物で調べてはいますが、それでも限度はあるでしょう」
「うーん。こればっかりは慣れるしかないんじゃないの?」
「半分はその通りです。ですが、もう半分は違います」
「何か対策があるってこと?」
 リンは頷き、
「いくら私でも、書籍の情報を全て暗記し、とっさに引き出せるとは限りません。また、モンスターの時々におけるコンディションの違いなども判断しかねます。そういう情報を補助するアイテムを作ろうと思っています」
「なるほど、錬金術か……。でも、そんなアイテムなんて作れるものなの?」
「はい。見破りの魔鏡と言います。錬金術としては中級レベルのアイテムで、モンスターの情報をいくらか鏡に映し出すことができるというマジックアイテムです。当面はこれを作ることを目的としています」
「その材料がこの迷宮にあるってわけね」
「はい。書物の情報を記憶させるために使用する魔水晶が目的です。ちょうど先生がしばらくいらっしゃらないので、採取に時間を使おうかと」
「目的はわかったよ」
「では参りましょう」
 索敵するリンを先頭に、三人は迷宮の奥へと足を向けた。

☆   ☆   ☆   ☆


 首尾よく水晶を手に入れた三人は、町への帰路を歩いていた。
 帝都のなかは少々騒がしくなりつつある。町のあちこちに旗がひらめき、賑やかさが増しているのだ。
「そういえばもうすぐお祭りの時期だっけ」
「そうでしたね」
 建国祭まで残り二週間。祭りの準備が最盛期となっている時期だ。
 建国祭は帝都における最も重要な祭りで、国の内外から数万人が訪れるビッグイベントとなる。
 三日の祭り期間中、あちこちで出店が出たり、催し物があったりと楽しい時期でもある。
「いいわねー、出店の料理も美味しいのよね」
「いつも食べてませんか……?」
「ミヅホはそれが通常営業です。たまには催し物を見るのもいいですね」
「それは誰と?」
「彼とに決まっているでしょう」
「はーいデート禁止でーす。お祭りの期間は冒険しよう冒険」
「リーダーは私ですが」
「仲間の意見も大事よね〜?」
「け、喧嘩はやめましょうね?」
 三人で通りを歩いていると、横道から二人の冒険者が顔を出した。
「あら、ハルト」
「あ、お、お嬢様」
 顔を見せたのは金髪をくるくる巻いた女冒険者。名をミニャ・カネチャという。
 ハルトが以前パーティーを組んでいた相手であり、生粋のお嬢様だ。そして、リンとミヅホを目の敵にしている相手でもある。
 軽装の鎧姿であるところを見ると、彼女も冒険帰りなのかもしれない。
「本当にリンたちと組んでいたのね」
「も、申し訳ありません、お嬢様」
「いいのよ。あなたの腕は買っているけれど、パーティーとして相応しい相手はまた別でしょうから」
「ふうん。今日は絡んでこないんだ?」
 ミヅホが言うと、ミニャはじろりとミヅホをにらんだ。
「それとこれは別ですわ。わたくしはあなたたちを嫌っているけれど、ハルトには関係ありませんもの」
「ストレートに言うわね、あんた……」
「取り繕ったところで仕方ありませんでしょう? それともおサルさんのような脳みそではそんな簡単なこともご理解いただけませんこと?」
「誰がサルよ!」
「あーら、失礼しましたわ。あなたはトカゲでしたわね!」
「なにおぉ!?」
「あ、あの、ミヅホさん、お嬢様、こんな往来で喧嘩は……!」
「喧嘩ではありませんわ、下等な貧民を指導してさしあげているのよ?」
「誰が貧民だぁ!」
「そこは事実」
「リンはどっちの味方なの!?」
「ほーっほっほ! アホのあなたにはちょうどいいですわね! そうだ、もうすぐお祭りですし、ここはひとつ勝負といきませんこと?」
「……勝負?」
「イー、例の」
「はい、お嬢様」
 従者のイーがポスターを取り出す。冒険者のイラストが描かれ、【早潜りチャレンジ企画】と書いてあった。
「建国祭で冒険者中心のイベントがありますの。中級ランクの迷宮に対する早潜り対決よ。最速で迷宮奥のアイテムを入手し、入り口まで戻ってきたパーティーが優勝するっていうイベントバトルですわ」
 どうやら冒険者ギルドが行う催し物のひとつらしい。参加は自由、優勝賞金は金貨5枚とある。
「わたくしにとっては大した金額ではないですけれど、あなたたちにとっては貴重な収入でしょう? もちろんわたくしに勝てれば、ですけれど」
「いいよ、乗ってやろうじゃない! ねえ、リン!?」
「まあ、実力試しと思えば……」
「決まりですわね! ではお祭りで勝負ですわ! ほーっほっほっほ!!」
 なにやら上機嫌でミニャは立ち去る。ハルトはすぐさまリンを振り返り、
「あ、あの、勝負って本気ですか!? お嬢様は実力だけなら僕らより上ですよ!?」
「ランクなら、の間違いです。実力は同等ですよ。特にハルト、あなたはね」
「え、いや、そんなことは」
「前にも言ったでしょう、自分に自信を持ってください。ミヅホみたいなアホでも自信を持っているんですから」
「おいコラどういう意味だ」
「とにかく、参加して損することはありません。先生にも相談しますけど、とにかく参加はして、なるべく勝ちに行きましょう」
 そう言って、リンはウインクした。