数日後。鉱区から戻ってきたピース・チャックは、弟子三人からイベントバトルの相談を受けていた。
「なるほどな、早潜りか。このくらいのランクならいいんじゃないか」
「ほら」
 リンが胸を張る。それでもハルトは不安そうだったが。
 公園の休憩スペース。四人でテーブルを囲むなか、ピースはテーブルに乗せたポスターを見つめる。
「お前らに足りないのは場数と目的意識だ。今回みたいに目的がはっきりしていて、他と競いつつ場数を踏めるなんて機会はそう多くない。参加して損はないだろう」
「そうおっしゃると思っていました」
「場数が足りないってのはわかるけど、他と競うのは意味があるの?」
 ミヅホの質問に、ピースは頷く。
「冒険の成果ってやつは基本的に早いもの勝ちだ。これは探索が一番顕著で、情報を誰より早く持ち帰ったやつだけが利益を得る。二番目以降の情報には価値が薄くなるからな」
「あ、なるほど」
「まあ一番手より安く売るって方法もないわけじゃないが、どのみち利益は減るからな。とにかく早さは重要だ。かといって正確性を失っては意味がない」
「そういう意味で、競う機会ってのは大事なのね」
「そういうことだ。今回は迷宮の地図を全員に配るルール。探索というよりは採取に近いな」
「ピースさんは、このラチナ鍾乳洞って行ったことがありますか?」
 問われ、ピースはうーんと唸る。
「ここは出現するモンスターもそれほど強くないから討伐の仕事が発生する場所じゃない。採取としては一応、虹の雫ってアイテムが手に入るんだが……。これはここでしか入手できないってものでもない」
「じゃあ、迷宮としての魅力はあまりないんですね」
「そういうことだ。行ったこともないわけじゃないんだが、確か一度か二度くらい……。あんまり記憶にも残っていないんだな。だからこそ、こういうイベントにはちょうどいいんだろうが」
「そうなると対策も立てにくいでしょうか」
「地図を頭に叩き込んでおくこと、モンスターとの接触は控えること。ま、そういう基本を押さえておく程度だな」
「でも、そうなるとミニャに必ず勝てるとは限らなくなるでしょう?」
「そうだな。ミニャ・カネチャは万能タイプだったよな?」
 ピースの視線に、ハルトは頷いて答える。
「お嬢様は剣も魔法も一通り扱えます。役割としては突撃アサルトに近いですが、その気になれば後衛だって勤められます」
「その割には中堅程度なのか」
「出力に突出しているわけではありません。専門の魔術師より魔法の威力は劣りますし、パワーならミヅホさんの方が上でしょう。それでも支障なく冒険できるのは、イーさんのサポートがあるからこそです」
「彼も万能っぽいからな」
「はい。お二人とも優秀で……。僕では足元にも及びませんよ」
「んなことはないと思うが……。ま、格上ってことだな。今回は直接戦闘ではないから、勝敗に直結するってわけじゃないが、戦闘力がある彼女の方が経験も上だろう。その分は覚悟しておいた方がいいな」
 弟子三人は顔を見合わせる。
 リンは錬金術という特殊性が、ミヅホはパワーが売りだ。ハルトは経験だけならミニャを凌ぐだろう。
 そういう意味で、この三人はそれぞれミニャに勝てる要素を持っている。それがどこまで通用するか、という問題だろうか。
「ま、お祭りの企画なんだ。勝ち負けにこだわらずやってくりゃいいだろ」
「私たちはもちろん負けても問題ないんですが……。ミニャは本気で来ると思います。それなら、私たちも本気で対抗するのが筋じゃないでしょうか」
「本気で、ね。お前ら、あいつにそんな恨まれることしたのか?」
「恨まれる、ということではありませんが。彼女が私たちを目の敵にしているのは事実ですね。でも、私たちには身に覚えがありません」
 ミヅホも、うんうんと頷いている。
「ハルト、おまえは何が原因か知らないか?」
「あんまり詳しく聞いた覚えはありませんが……。学生時代の態度が気に入らなかった、というようなお話はされていました」
「確かに冒険者学校では知り合いだったけど……。別に何もしていないわよ」
「たぶんですけど、お嬢様は周囲にお嬢様として扱う者しかいません。なのに、おふたりが相手にされなかったので、すねているんじゃ……」
 そう言われ、リンとミヅホは顔を見合わせる。
「そんなことある?」
「まあ、私は学生時代から彼氏一筋でしたから、それ以外の人間関係はあまり興味ありませんでしたけど」
「あたしもあんたがラリーと仲良くしてたから、邪魔するのに躍起だったけど」
「……そういうことか」
 ピースはため息をついた。要するに、自分をチヤホヤしなかった二人に逆恨みということか。
「くだらない話だな。そこまで勝負にこだわることもねえ気がしてきたが、ま、素直に負けてやることもねえだろ。対策はリン、お前の索敵と探索がメインとなる。とりあえず地図を覚えとけ」
「了解しました」
「ミヅホはあの迷宮で出現するモンスターの種類を覚えろ。速攻で倒せるものは倒す、そうでないものは逃げる。その取捨選択をお前が決めろ」
「あたしなの? わかったわ」
「それとハルト。お前は様々な役割を経験しているよな? そんなお前に、教えておきたい術式がある」
「術式、ですか?」
 ピースはにやりと笑った。
「こいつは俺のオリジナルだし、使いこなせなきゃ危険もあるシロモノだ。だが、使いこなせりゃ力のない俺でも一流の仲間入りができるくらいの可能性がある。やってみろ」
「それってまさか……。神楽の術式、ですか」
 ピースは頷くが、反対にミヅホは首をかしげた。
「何それ? なんでハルトなの?」
「神楽の術式っていうのは、いろんな役割の側面を全部使う。誰にでもできるものじゃないんだ」
 紙を取り出したピースは、そこにインクで絵を描いていく。
「まずは突撃アサルト。スピード重視の役割で、これを真似るために自分自身を加速させる。
 次に探索サーチ、加速した自分の足場を常に探知し、足の置き場というものを常に意識する。
 さらに防壁タンク、次の動作で攻撃の反動を受けないよう自分を防御結界で守る。
 そして砲撃キャノン、相手の至近距離で爆破魔法をぶっぱなして、射程のかわりに威力へ魔法の効果を全振りする。
 そして維持キーパー、防御結界で防ぎきれなかったダメージを回復する。
 最後に指令センター、術式の継続か中断を判断し、可能な限り術式を維持する」
「要するに、加速しながら相手に近づいて、至近距離で爆破しろってこと?」
「そういうことだ。普通の魔法は動かないで術式を起動させる関係上、効果範囲にも気を配る。この術式は絶対に当たるところまで近づくことで、射程ではなく威力に魔力を割り振ることが可能だ。俺は魔法の威力が高いわけじゃないが、この方法でドラゴンの鱗でもぶっ飛ばせる」
 術式を見ていたハルトは、
「……なるほど。最初の強化魔法が肝ですね。これで自分自身の速度と魔法の威力を同時に高めている。しかもこの術式は同じ魔法を自動ループさせるから、強化魔法のターンが入るたびに再現なく強化されていく……」
「自動ループだから、詠唱に時間を取られないのもいいですね。そのかわり途中で他の術式に切り替えることはできないし、攻撃魔法も時間が来たら勝手に発動しちゃうから、常に状況を判断し続けなければいけない……」
「俺はこの術式を他人に教えたことはない。けどハルト、お前ならこれを使いこなせると信じてる。やってみないか」
「……わかりました。やらせて下さい」
 そう言うハルトの瞳は、強い光が宿っていた。