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ピース・チャックはホビット女を探し、帝都の中を歩いていた。 もちろん当てもなく歩いたところで、こんな人混みから1人のホビットを探すなんて不可能だ。だが、相手がアウトローも相手にする商人となれば、必要なものはおのずと限られてくる。 祭りの喧騒から少し離れたところにある裏通り。まっとうな冒険者なら出入りするような場所ではないが、闇商人というのはこういうところで取引すると相場は決まっている。 裏道にいた連中から情報を集めつつ辿り着いたのは、帝都の西側にあるマーケットだ。 ここはスラムが近く、出歩いている連中もガラが悪い。 そんな通りの一角で、大きな布を広げた女を見つけた。 「さあさあ、どうっすか! 掘り出し物は色々あるっすよ!」 ホビットの女だ。こんなヤバい街だというに、堂々と商売をしている。 赤と黄が入り交じった髪は遠目にも目立ち、小柄ながら豊満な体つきを最低限の布地で隠した出で立ちは娼婦のようでもある。 「よう、あんたがサウザンか」 「ん? そういうあんたは……。もしかしてピース・チャックっすか?」 「なんだ、俺を知っているのか」 「ホビットの血が混じってるのに冒険者やってる人なんてそんなに多くないっすからね。あんたはホビットの間でも注目の的っすよ。もっとも今は冒険者じゃないんでしょうけど」 「大きなお世話だ。それに、俺はホビットって言われんのが嫌いなんだよ」 「ふうん。ま、小さくて良いことなんてあんまないっすからね。そんで? 今日は何か入り用で?」 「情報を売ってくれ。ミハイルについて」 「……またストレートっすねぇ。そんなん言われて売ったら旦那に睨まれるじゃないっすか」 「繋がっていることは否定しないのか」 「否定したところで意味ないっすからね。肯定したところで証拠もありませんし」 さすがだ。アウトローと商売しているだけあって、度胸も並ではない。 「旦那は上客なんすよ。なんせ相場の倍は平気で払ってくれるっすからね」 「金払いか。じゃあ3倍払ったら売るのか?」 「そうはいかないっすねぇ。なにせ商売ってのは信用第一! 信じられない相手からは何も買ってもらえませんし、何も売ってもらえませんから」 「そういうとこは義理堅いってわけか」 「そらそうっすよ。商売なんて義理人情の世界っすから」 「はん。ま、そんなところは俺にとっちゃどうでもいいんだ。ミハイルが何をたくらんでんのか、それさえ分かればな」 「だから売れないんすよ、そういう情報は」 ピースは懐から金貨を取り出し、 「そうだな、教えてくれ。この帝都で……。テロを起こすのに最適な場所を」 「ただの冒険者が戦争屋に鞍替えするつもりっすか?」 「まさか」 サウザンは金貨を押し返し、 「戦争は勘弁して欲しいっすねぇ。ありゃ儲からない」 「死の商人ではないってか?」 「人が多い方が儲かるんすよ。戦争なんて人が死ぬだけの話、長期的には損するだけっす」 「懸命だ。邪魔したな」 金貨を懐に戻す。 「あ、そうだ。サウザン、お前さんはイベントとかには出展しないのか?」 「胸張れる商売じゃないっすからねぇ。表舞台はちょっと」 「じゃあ北のイベント会場も行ってないのか?」 「興味ないっすね」 「そうかい」 ピースは足早に立ち去る。 「……あの商売人が近づかない、と」 金が優先の彼女にとって、表だ裏だというのは関係ないだろう。 実際、アウトローと商売しても違法というわけではない。彼女が逮捕される理由はなく、ゆえにどこで商売しても関係ないはずだ。 北側では複数のイベントが行われており、帝都内での人通りはかなり多い部類。変装した男が紛れ込むには向いており、かつ、商売するのに適した場所ーーなのにサウザンは西側の裏通りにいた。 「そっちに行ってみるか」 つぶやき、ピースは北側へ足を向けた。 「それでは競技者のパーティさん、スタートラインに並んでください!!」 アイドルリポーターのチェリー・マリアが台の上で拡声する。 参加するパーティが横並びする中、リンとミニャは肩も触れあう距離でにらみあっていた。 「いちについてー、よーい!! スタートぉ!!」 チェリーの合図と共に全員が洞窟に殺到する。 入ってすぐ三股に分かれる通路。この洞窟はどのルートからも最深部に辿り着くことは可能だが、今回はお祭り競技ということで、通常とは意図的にルートを変えられている。 具体的に言うのなら、本来は近道として通れる道が塞がれていたり、逆に橋でもなければ通れないはずの場所に橋をかけられていたりする、ということだ。 事前に地図を頭に叩き込んでおいたとしても、今回のルートはそれとイコールにならない。このあたりが競技を面白くしているポイントでもある。 リンたちとミニャは同じルートに飛び込んだ。現れるモンスターは全無視の特攻スタイルである。 「真似しないでくださいます!?」 「こちらの通ろうとする道がたまたまかぶっただけです、そちらこそ」 「ふん! いい度胸ですわ」 ごつごつした岩肌にはところどころ魔法光の照明が設けられており、洞窟の外まで映像を送る装置も取りつけられている。これにより、洞窟の外で観戦している人々も状況を把握できるということらしい。 これも、本来は洞窟の外にいる補給部隊と連絡を取り合うための中継装置なのだが、今回はお祭り仕様だ。 駆け抜ける2つのパーティは、そのまま開けた場所に出た。 「お嬢様」 「リン!!」 「「わかってる!!」」 二人の声がちょうどハモる。 そこにいたのは大きな牙を持つ蛇型モンスター。 「ミドガルズオルム! 肉食の蛇です!」 「モンスターに肉食も何もあるかぁ! こんなの相手にしてられないでしょ!」 「いいえ、お嬢様。ミドガルズオルムは素早く、しかも道を塞いでいる様子です」 奥に進む通路は蛇の向こう側。出し抜くにはいささかヘビーな相手だ。 それでいて牙には毒があり、無闇に逃げ回ると詰む可能性がある。鱗はそれほど固くはないが、全身が筋肉の塊なので、生半可な攻撃では痛打にならない。 倒すには面倒な相手だが、逃げるにはさらに面倒を強いられる相手だ。 「ちっ、やるしかないようですわね。足を引っ張らないでくださいまし、リン・サクモ!」 「それはこちらの台詞です、ミニャ」 イーとミヅホが前に出る。戦闘陣形だ。 「やーってやるわよ!」 「それなりに」 リンはちらりとハルトに視線を送った。ハルトはこくりと頷き、音吸収の耳当てをつけた。 五感のひとつを縛る、非常に危険な行為。だが、それでこそハルトは本領を発揮できる。 「例の術式と組み合わせたらどうなるか……。まずは下準備です」 そう呟いて、リンもまた詠唱を始めた。 |