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ゾンビ相手に、帝都を背にした冒険者たちは善戦していた。 ドラゴンゾンビという絶対に落とせないユニットはいるものの、総じて戦闘力は限られる。無理さえしなければ、持ちこたえることだけはできていた。 そんな冒険者たちを、馬上から認める一人の女。 「ふうん」 背中に負ったハンマーを手に握る。 「さあて、誰から殺そうかな」 「じゃ、俺から頼むわ」 ざっ、と砂を払いながら立ちふさがる。その小さな影に、女ーーミリアは目を細める。 「どうしたの、ピース。邪魔だよ、そこをどいて」 「そういうわけにゃいかねえ。お前に好き勝手させてたのは俺の落ち度だ」 「いいからどいて。帝都滅ぼせないじゃん」 ひょい、と首なし馬から降りる。ハンマーを地面におろし、 「ピース、もうわかってるんでしょ? 全部さ」 「ああ。お前がやったこと、やろうとしたこともな」 「じゃあミリアが何をしたかったか、それもわかってる?」 「ああ。……俺を、帝都から出さないつもりだな」 「せーいかーい」 ぱちぱちと手を叩き、 「だってさ。ピースってばどんなにお願いしても冒険に行っちゃうんだもん。でも冒険先じゃ、いくらミリアでも常に守りきれるとは限らない。なら、帝都の中から出られないようにしちゃえばいいんだって」 「モンスターが帝都の中に溢れるようになってもか?」 「反転術式を使ったところで、モンスターが溢れることにはならないよ。別に帝都の中でモンスターが発生するわけじゃないからね。そのへんは光の力が強すぎる町中と、闇が濃い迷宮の違いかな」 「だから大丈夫だってか?」 「ま、いくらか死ぬだろうけど、そんなのミリアには関係ないし」 けらけらと笑う。本当に、なんら曇りなく。 彼女にとって、ピースとそれ以外の人間は明確に区別されている。大事なものはほんの一握り、それ以外には執着しない。それが彼女の生き方なのだ。 ミリアは胸元を開き、そこからネックレスを取り出した。青い宝石で彩られたそれは、妖しい魅力を秘めている。 「これが反転術式の鍵。これを奪えればピースの勝ちね」 ミリアはネックレスを首にかけ、にこりと笑う。 「じゃ、死なない程度に潰すね? 大丈夫、ぜーんぶミリアが面倒看るからさ!」 ぴしり、とハンマーにヒビが入る。ミリアの腕力に負け、ハンマーを形作っていた鉄の塊が砕けたのだ。 中から現れたのは、巨大な鎌。ミリアが使う、ミリアだけのアーティファクト。 「久しぶりに本気ってわけか」 「もちろん! だってここが正念場だもんね?」 その名を【畢竟デスサイズ】という。 握るだけで強い闇の力を受け、まともな人間では正気さえ失う自分殺しの武器。だが、もともと狂ったバーサーカーであるミリアにはなんら問題にならない。 「さあ、遊ぼうか!」 「おっと、お前の相手は俺じゃないぜ」 「へえ?」 後ろから迫る影。その一撃を、デスサイズの刃が受け止めた。 火花を散らしながら、巨斧が空を切り裂く。 「アタシの戦場で死人なんて出させない。それが、アタシの誇りだ!!」 ”現役”最強。ローズ・キックオール。 「はん。あんたはピースじゃないからね、殺すよ?」 ”無名の魔王”ミリア・コーナ。 両者はにらみ合い、同時に動いた。 ローズの斧とミリアの鎌が火花を散らす。ただ切り結ぶだけで、ドラゴンが激突したような衝撃波があたりに響く。 「いいねぇ、”最強”を気取ってさ!! ミリアが本気出したら消し飛ぶ程度の勇者なのに!!」 「るさいッ! アタシが最強じゃないなんてことは……!! アタシが、一番よく知っている!!」 ただ強く、どこまでも強く。 もう二度と、守りたいものを溢さないために。それだけのために、ひたすらに強く! 「るあぁぁぁぁぁぁぁ!!」 迅雷の二つ名を持つローズ、その速度はピースの加速にも劣らない。しかもピースと違うのは、緩急が激しいことだ。 ゼロ秒でトップスピードまで持っていくことができる極端な挙動。それは、まともな相手であれば追いつけない神速の世界。 だが、相手はーーどれだけ殴られようとも恐れることを知らない、狂戦士だ。 「ひゃっはあああああああああああ!!」 眼前に斧が迫る、なのにミリアは前進した。刃が頬をかすめてなお加速し、鎌を振り回す。 「ッ!!」 緊急離脱は迅雷の得意技。だが、ただただ突進する女を相手に引いたのは悪手。 「逃がすかよぉぉぉぉぉぉ!!」 構わず、ミリアは鎌を振りかざした。ぶん回す魔力の余波で地面が削られ、周囲に転がっていた死霊が砕けた肉塊に変えられる。 「な、によそのアーティファクトは!?」 「ミリアのデスサイズはね、殺したモンスターの怨念を全部吸収するの! 殺せば殺すほど闇の魔力をチャージする!! これが、現代の魔王だよ!!」 ローズは紙一重で攻撃をかわす。刃の周囲を覆った闇が城壁をえぐり、破片さえも蒸発させていく。 「冗談じゃないッ……!?」 そんな一撃、食らえば当然耐えきれない。 だが、逃げ続けるわけにはいかない。 「ぐッ!!」 鎌の一撃を受ける。とんでもない重さが斧を通じて伝わるが、ローズはこらえた。 「はん。なんで逃げないのさ?」 「逃げたら、まわりが迷惑するでしょうが……!」 ミリアの攻撃は見境がない。その一撃で一緒に戦っている冒険者たちを屠られては意味がないのだ。 ただ勝つだけではない。完璧に勝つ。それがローズに求められること。 誰かが殺されてしまっては意味がないのだ。 「ひゃはっ! そういう無駄な重荷を背負って勝てる相手かなぁ?」 だが、ミリアはそんなの関係ない。ただ自分とピースだけが全てで、他の全てに興味がない。 遠慮なく攻撃をぶん回せるミリアと、被害を気にしなければいけないローズ。有利なのはどちらか、言うまでもない。 「お前が最強と言われているのは! 単にミリアが本気で冒険者していないだけ! 格下のお前ごときが、ミリアに対抗しようだなんて……おこがましいにも程がある!!」 ミリアが全力で振り回した鎌の一撃。重量であれば勝るはずの斧が弾かれる。 込められた魔力量、純粋なパワーでは全くかなわないのだ。正面からの殴り合いでは、スピードで上回っていてもダメージが通せない。 巨大な壁を相手に、ただただ飛び回っているような状態。このままでは勝ち目などない。 「……やるしかない」 全力を尽くす。後先は考えない、ただこの一瞬! 打ち勝つために! 「術式起動……!! 【迅雷業火】!!」 ばちん、と空気が爆ぜた。 全身に走らせた雷の魔力を全て攻撃モードに切り替える。言うなれば攻撃魔法をまとった形。 だがそれは、己を焼き尽くしかねない諸刃の剣。 「自分の魔力を燃やして全部雷に変える術式か……。その程度でミリアと並んだつもり? お前が魔力全部使いきったって、ミリアに勝てるわけないじゃん!」 「それでも……! 出し惜しみしてらんないのよ!!」 燃えるような赤い髪を逆立てて、ローズは斧を両手で握る。 「触れれば感電じゃ済まないわ。覚悟を決めなさい!」 「それはお前だ!!」 互いに全力、互いに遠慮なしの突撃。 双方のアーティファクトが激突した。 |