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拘束したミハイルと共に、ハルトたちは急ぎ帝都に向かっていた。 馬車は借りていたものの、それでも帝都は近くない。一晩中、馬車を走らせたとしても、到着する頃には夜明けを迎えていることだろう。 死霊たちが活性化するのは夜のうち。当然、ミリアの急襲は夜間で終わるはずだ。 つまるところ、到着したってハルトたちにできることは何もない。それでも、三人とも心が急いている。ただひたすらに走り続ける。 「……」 そんな中、ミハイルは荷台でそっと目を開く。 「気がつきましたか」 ミハイルの左右にはリンとミヅホが構えていた。一応、拘束具に加え全身の力を奪う薬品を投与している。ネクロマンシーも魔力を封じてしまえば問題ないし、筋肉に力が入らないなら格闘術も意味がない。 「ふむ」 ミハイルは状況を確認し、特に暴れる様子もなかった。 「何? 諦めたの?」 「俺は傭兵だ。負けは死と同義。暴れたところでどうにもなるまい」 「失礼ね、殺したりなんかしないわよ。ラリーのとこに連れていくだけなんだから」 「一応、あなたの行為は犯罪も含まれますが、立証できるものはそれほど多くありません。迷宮内での活動は冒険者ギルドの決めた規範には反しますが、あなたはもともと冒険者資格を有していない。資格のない冒険活動は違反ですが、それも帝都民でない人間には適用されません」 「ふん。甘い連中だな」 「強いて言うなら先日の祭りで暴れたことに関する罪と、現在帝都を襲撃していることくらいですが……。そちらも主犯はあなたではないのでしょう」 帝都襲撃も、帝都民ではないミハイルが行う限りただの侵略活動だ。 帝都の中でテロ活動を行えば犯罪行為として捕えることも可能だが、帝都の外での行動を制限する法律はない。これは冒険における活動と区別できないことにも起因している。 極論、迷宮で攻撃魔法を使うのと帝都に影響がある場所で攻撃魔法を使うのと……。ふたつを切り分けられない以上、有罪にできる根拠がないのだ。 もっともそれは、ミハイルにとっても計算したことだったのだろうが。 「襲撃していることを知っていながら、お前らはこんなところでのんびり馬車を走らせていていいのか」 「大丈夫です。転移魔法で先生がローズさんと共に帝都へ飛びました。誰が出てこようと、ローズさんより強い冒険者はいません」 「ローズ・キックオールか。……ふふ、なるほどな。確かに彼女より強い”冒険者”はいないだろうがな」 「どういう意味ですか」 「そのままの意味だ。戦闘力と、冒険者という肩書きは関係がない。帝都出身のお前らは戦闘力を冒険にしか使わないだろうが、外の世界ではそんなことはない。俺の力が、人間を相手にすることで鍛えられたようにな」 「……人間同士の争い、ですか」 「お前らにとっては絵空事か。まあそれでもいい」 「だからあなたは、ミリア・コーナの依頼を受けたのですか?」 「尋問は聞かんぞ」 「単なる質問です。それを帝都内でバラそうとも思いません。さっきも言ったように、あなたの罪は限定的なんですから」 「……ふん、本当に甘いことだ」 ミハイルがクライアントーーミリアと出会ったのは、2年ほど前のことだ。 当初、彼女はネクロマンシーの技術を持つ相手を探していた。死霊を操る魔術は帝都内でも禁忌であり、外の世界で探すしかなかったのだ。 ミリアから相談されたミハイルは、当初彼女の願いを突っぱねた。死霊を操る技術というものがあっても、なんでもかんでも操れるわけではない。 そこで、とミリアが提示した第二の提案。そちらは現実的に可能だった。だから乗っただけだ。 帝都の防御結界を反転させ、モンスターの出入りを自由にしつつ人間の出入りを制限する。多くの死霊を連れるミハイルにとっては、実に便利な条件だった。 だからミリアの提案は飲んだし、作戦にも協力してきた。その過程で、彼女という存在についても知ることになった。 「お前らはミリアの生まれを知っているか」 「生まれ? 帝都の西区画、でしたか」 「そうだ。そして彼女は、生まれた時から異常なほど高密度の魔力をまとっていた」 「異常なほど?」 「例えるなら、人間と馬の徒競走だ。どれほど人間が鍛えたところで、馬に走りで勝てるはずがない。彼女の力はまさにその次元で、どんな相手でも比べ物にならなかったそうだ」 魔力はあらゆる魔法活動の源だ。それが多いだけでどんなこともできるが、彼女の場合は単に多いという枠に留まらなかった。 「生まれながらに彼女は誰にも負けない。そんな人間が、戦闘で他人と能力を競うことに意味を見出ださなかったのは当然の話だ。戦えば誰が相手でも勝てる、だからこそ本気で戦う意味もない。彼女にとって戦いとはそうした類いのものだ」 ミハイルにとって戦闘がただ生き残る手段だったのに対し、ミリアにとってはどこまでも結果の決まった遊びでしかなかった。 だからこそ、そんな彼女に協力する気になれたのかもしれない。 「ミリアが冒険者として最強と呼ばれなかった理由は、ひとえに勝ち負けや冒険の強さというものに興味がなかったからに過ぎない。ピース・チャックとの冒険も、あくまでピースに協力する形。彼女がソロで潜れば、制覇できない迷宮など存在しないよ」 「それは……」 「あのバカみたいな魔力量があれば、ドラゴンの攻撃だって通じない。攻撃が通じないのであればモンスターなど、どれほど出現したところで無意味だ。ただ道のわからない迷路を歩いてくるだけ、そんなものは冒険でもなんでもないだろう」 「つまり、彼女はローズさんよりも先生よりも強い、と……」 「ありていに言ってその通りだ。帝都中の冒険者が束になったところで、彼女の防御を突破することはできない。ただ……」 単純な戦闘力でミリアを上回る冒険者が生まれたことは未だかつて一度もない。 それゆえ、彼女の強さは上限が知れていない。ミハイルとて、彼女の方が自分より強いであろうとは思うものの、まともに戦ったことは一度もない。 すなわち、その実力を推し量ることができるほどの強敵がいないのだ。そう、ミリアはーー今まで格上と戦ったことなど、一度もない。 もしも帝都民に勝機があるとすれば、その一点だけ。 「なに、俺たちが帝都に到着する頃には決着もついているだろう。その時にミリアが立っていれば、お前らも殺されるだけだ。逃げるなら今のうちだぞ」 「そんなこと、できるはずがないでしょう」 「そうよ。先生だってラリーだって、帝都にいるんだから!」 「そうか。まあ俺にはどうでもいいことだが」 ちらりと馬車の外に流れる景色に視線を走らせる。 月夜の中、銀色の街道が流れて消えていた。 |