ミリアの戦闘力は異常だ。それは今もなお出力で負けていることからもよくわかる。
 ローズの”迅雷業火”は、持ち合わせた魔力の全てを攻撃に回すバクチ技。それゆえにこそ、攻撃力だけで言えば最高のレベルに達する。
 なのに勝てない。単純な魔力勝負で負ける。
 異常なほど涌き出る魔力が、ただただ壁となって立ちはだかる。
 勝ち目がどうとか、そういう話にならない。
「ぐッ……!!」
「ひゃあははははは!! どうしたどうした、さっきまでの威勢は!? お前の能力はそんなものかよッ!!」
 ミリアの持つ武器はアーティファクトの一種だ。
 モンスターを殺すほど魔力を吸収する闇の武器。だが、その本質はーーミリアの有する無限に等しい魔力を受けてなお破裂しないほどの許容力にある。
 魔力を込めれば込めるほど強度が増していくデスサイズは、ミリアが持つに相応しい武器だ。
 一方で、ローズの持っている斧はそれほどの力を発揮できるわけではない。これもまた帝都では一級の武器であるものの、無限に強化するなどという無茶苦茶は通じない。
 力も、武器も、ミリアには敵わない。
「おとなしく死んどけッ!!」
 ミリアの鎌が眼前に迫る。その一撃を受ければ確実に死ぬ。
 それでもなお、ローズはただ敵だけを見ていた。

 ーー勝ちたい。
 ーー誰よりも強くありたい。
 ーー二度と後悔しないために。

「最強はッ!! アタシだッ!!!」
 両手で斧を強く握る。刃が朱色に強く輝く。
「でええええええりゃああああああああ!!!」
 斧を全力で振り回し、鎌と激突させる。
 何度目かの衝突。斧と鎌、ふたつの刃がギリギリと火花を散らす。
「輝け!! アストロペレキ!!!」
 その時、ローズの握る斧に変化が生じた。
 ローズのアーティファクトは、無限に強化できるわけでも、絶対に砕けないわけでもない。その真価は、持ち主の感情を受け止めること。
 使い手の折れない意思がそのまま武器となる。勝ちたいと思えば勝利し、強くありたいと思えば強くなる……。
 直情的なローズに最適の、想いを乗せる唯一の武器!
「ッ!?」
 デスサイズは無限の許容量を持つ。ゆえにミリアも油断していた。
 その武器が負ける恐れがあるなどと、欠片ほども考えたことがなかった。
 ほんのかすかな刃こぼれ。だが、奇跡的にも拮抗した一瞬において、それは致命的な強度不足。
「あ、あああああああああ!?」
 ローズの全力によって、ガシャン、と鎌が砕け散る。その一瞬、本当に刹那をーーピース・チャックは見逃さなかった。
「待ってたぜッ!!」
「ッ!?」
 超ゼロ距離の拘束呪文。ローズが稼いだ時間で神楽のチャージも済んでいる。
 神速の接近と強力なバインドにより、ミリアの全身を縄状の魔力が捉えた。
 両手両足を拘束し、地面に転がす。三重のバインドをかけ、さらにその上から重圧魔法で動きを制限した。
「ぐっ……!! は、離せ!!」
「バァカ、逃がすわけねえだろ」
 地面に転がったミリアは、自力では拘束を抜け出せなかった。いくら彼女が強力なバーサーカーといえど、力を込めることさえ封じられてしまっては文字通り手も足も出ない。
 いや、むしろ押し潰されてもおかしくないような拘束をかけているのに、普通に暴れている時点でやはり異常か。
「何よ、ピース・チャック。アタシの戦いに茶々を入れて」
「わりぃな、俺は冒険者なんだ。高潔な戦いを旨とする騎士様じゃない。勝ちゃいいんだよ」
「あんたのそういうとこ、本当にこずるいわ」
 ローズは斧を下ろした。周囲で暴れていたゾンビたちも大人しくなりつつある。
 ネクロマンシーの種はミハイルが用意したものだろうが、見る限り操作はミリアが行っていた。操作者がいなくなったことで、機械的に動くだけの死霊たちも活動が制限されつつあるのだろう。残った雑魚は、ミニャを中心に駆逐できそうだ。
 ピースはミリアの脇にしゃがみこむ。
「ようやく話ができるな、おい」
「何よ。ミリアに話すことなんてないもん」
「俺は話があるんだよ。お前、本当に俺が好きなのか?」
「は? 当たり前でしょ? だから死んで欲しくないし、冒険にも行って欲しくないの」
「本当か? 俺を籠の鳥にしようとするのも、ラリーを呪ったのも……。全部ただの代償行為だろ」
「……」
 ミリアは答えなかった。そのまま歯を食いしばる。
 かわり、ローズが聞く。
「代償ってどういうこと?」
「ミリアはな、数年前に弟を失くしているんだよ。弟も元冒険者でな。……ミリアが同行していたのに、守りきれなかった」
 冒険は危険と隣り合わせだ。ミリア自身が無敵の戦闘力を有していたところで、数に襲われれば仲間を失うこともありうる。
「こいつはな、俺を弟みたいに見てるんだよ。ま、こんなちっせー体だからな。そういう風に見られること事態は慣れてんだが……。こいつは、俺を弟の代わりにしようとしてたんだ」
 ピースはそっとミリアの頭をなでる。
「俺を弟と重ねていたのは知ってたさ。でも、お前の所有物じゃないんだ」
「だって……」
「俺は俺だ。俺という魂があり、生きているんだ。お前が欲している家畜にはなれない」
「やだよ……。ピースにまで死なれたら、ミリアは……」
「俺は死なねえさ。お前に襲われたって死ななかっただろ」
「戦ったのはアタシなんですけど」
「ま、それも含めて俺の冒険センスってこった」
 にやりと笑う。
「勝てないほど強い敵は戦わない。それが冒険者ってもんだ」
「ふん。そんなの討伐の生き方じゃないわ」
「悪いな、俺はもう討伐型の冒険者じゃないんだ」
 だから、とピースはミリアに言う。
「俺はもう、お前に守って貰わなくても十分だよ」
 ミリアは、何も答えなかった。