■始まりを告げる鐘の音

「それでは、今年度より心魔学園の教師となっていただく先生方を紹介する。左から、国語の麻生先生、回復魔法の杉崎先生……。」
 学園長の長ったらしい話の後では、先生紹介など面倒な工程の1つに過ぎない。生徒も聞く者半分、といった感じだ。
「最後に、数学の新藤先生じゃ。挨拶は……ま、ええじゃろ。とりあえず、ワシの話はこれで終わりじゃ。」
 そう言って、ようやく学園長の台詞は終わった。
「ようやく終わりか? 途中で寝るかと思ったぜ……。」
「立ったまま眠れるわけ?」
「思っただけだって。ま、立ったままでも寝れるけどさ。」
「いらない能力ね。」
「あいかわらずっつーか、冷たいな。」
 全校生徒が並ぶ中、お喋りを楽しむ2人。男の方は村野聡むらのさとし。髪の毛が黒いのは珍しい方である。
 女の方は宮野茜みやのあかね。地毛からして茶色い髪が肩まで伸びている。聡とは幼い頃からの知り合いであり、数年前から同じクラスという、いわゆる腐れ縁の仲である。恋愛感情は、と問われれば100万分の1秒の間を空ける事無くNOと言える間柄である。つまり、微妙な関係というヤツだ。
 学園長の話の後、2つ3つ注意を受けて始業式は終了。皆、それぞれのクラスへと戻った。

 聡のクラスは、4−Bである。この学校は、日本で言うところの中学から大学までを一貫して教育する。もちろん魔法の素質がない生徒はほとんど入れないが、まるでいないというわけでもない。すなわち、この学校での4年生とは、日本での高校1年生という事である。
 教室の中は、早くも騒がしかった。もう4年も付き合っていれば、仲の良い相手がどのクラスにも1人はいる。騒がしくて当たり前だった。
 生徒同士が騒いでいる時に、ガラリと扉を開け教師が入ってきた。皆、慌てて自分の席に戻る。
「(あん? あれ、誰?)」
 聡は見知らぬ顔に僅かに戸惑いを見せた。学院の先生の顔なんか全部覚えているはずもないが、それでも知らない顔というのは珍しい。スーツに黒い短髪。年齢は意外と若いのかもしれない。
「新藤先生。新任の教師よ。」
 聡の考えを読んだかの如く、前の席の茜が教えてくれた。
「……俺の考えってそんなに読みやすい?」
「そうね。あんたの考えなら8割読めるわね。」
 そんなに単純かな、などと聡が内心でショックを受ける中、担任の自己紹介が始まった。
「数学の新藤です。1年間、君達の担任をさせてもらいます。それで、このクラスの委員長は決まっていますか?」
 返事はない。ただの屍のようだ。
「……それでは、明日委員長を含め役員を決めます。欠席して勝手に決められたなどと言い訳しなくて済むようにして下さい。」
 新藤は時計を見た。解散の時間までは、自己紹介をさせるように言われている。同じ学年でも、全く知らない生徒も多いだろうという意見からだ。だが、この教師・新藤は、丁寧な口調とは裏腹に極度の面倒臭がりな性格である。
 ――大抵の生徒は自己紹介というモノを好んだりはしないだろう。と言うよりも、好む生徒は勝手にやるに違いない。
 勝手に脳内で結論を出した新藤は、やる気のない調子で指示を出す。
「11時まで教室に居て下さい。それまでは自由にどうぞ。」
 あっさりと言うと、新藤は椅子に座って本を読み始めてしまった。
 自由にしろと言われた生徒は、仲の良い友達のところに行き雑談を始めてしまった。
「いいのかな? こういう事して。」
 聡は呆れた調子で教師を眺めていると、1人の生徒が話しかけてきた。彼の名は綾瀬行人あやせいくと。真っ白な髪はストレスのせいではなく地毛だ。髪色は魔力の質によって変化する。そのため、時に奇抜な色の生徒がいたりもする。
 行人は、どちらかと言わなくても不真面目な聡に対し、真面目な生徒である。そのため色々と厄介な目に遭う事も多い。
「いいって言うんだからいいんじゃねぇの? 自己紹介なんざしたくないし、この方が好都合ってもんだな。」
「まあ、そうかもしれないけど。でも、新藤先生って新任だし、普通はもうちょっと真面目にやるもんじゃないのかなぁ?」
 行人の台詞はもっともである。少なくても、マジメな教師のする事ではない。
「子供嫌いってウワサなのよ。あの先生。そのせいじゃない?」
 前の席に座ったまま、茜が言った。髪をいじくっているあたり、やる気は感じられない。
「そういう情報はどっから入ってくるんだ?」
「神楽よ。あの子、学園長の孫だから。」
 神楽というのは神無月神楽かんなづきかぐら。栗色の髪をポニーテールにしている。彼女はこの学園の長・神無月金五郎の孫娘であり、祖父を通じた情報網によって学園中の情報を素早く仕入れている。時に、学園の端で誰と誰が会っていたという情報まで知っているという、恐ろしい生徒だ。
「ふうん……ま、いいけど。」
 新藤先生は本当に11時になるまで自由行動をさせ、11時の鐘の音と同時に解散を言い渡した。



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