■女嫌いの教師

 心魔学園は全寮制である。おまけに学園の敷地内に列車が走るほど広いため、1つの町と呼べるシロモノだ。宿泊施設だけでなく、レストランやら購買部(服などの日用品も売っている)、娯楽施設まであるので基本的に学園の敷地の外に出なくても生活は出来る。別に学園の外に出る事は禁止ではないのだが、そういう理由で外に出る生徒はそう多くない。これは生徒・先生共通である。
 新任教師・新藤は、始業式の日の午後、学園長に呼ばれた。本当なら行きたくはないのだが、仕事であるため仕方がない。
 学園長室のドアをノックし、中に入る。
「新藤です。お呼びですか、学園長?」
「来たかの。とりあえず、そこに座ってくれるかの?」
 学園長はソファに座るようすすめた。ちらりとソファに視線を送り、けれど新藤は動かない。
「このままで構いません。何の御用でしょうか?」
「つれないのぅ……。無愛想は美徳ではないぞい。
 さて。新藤君、修行という事は分かっておるの?」
 爺さんは急に真面目な調子になって問いかけた。
「修行という言葉は気に入りませんが。そうでなければ来なかったでしょうね。」
「はっきり言うの……。では新藤君、君の泊まる場所なんじゃが。」
「――? 教師棟ではいけないんですか?」
 当然の疑問である。元々、そのつもりだったのだから。実際に、すでに数日前から教師用の寮の一室を使用している。
「修行の一環として、君には女子棟の見回りを兼ねてそちらに移って……」「嫌です。」
 学園長の言葉を遮り、新藤は即座に否定した。
「そんな事を言っても駄目じゃ。君の女性恐怖症が治らぬ限り、修行は終わらん。だったら、さっさと終わらせた方が良いじゃろう?」
「学園長。私は若いんですよ?」
 眉にシワを寄せ、新藤は言った。ある種の威圧感が出ているが、学園長に効いているとは思えない。
「そうじゃな。」
「一応、若い私が女子生徒の泊まる場所に泊まれるわけがないでしょう?」
「君が間違いを犯すとは思えんがの。それに、同じ部屋に泊まれと言ってるわけじゃなく、同じ棟に泊まれと言ってるだけなんじゃが?」
「それでもお断りします。」
「君が何を言っても、もう教師棟に君の部屋はないぞ?」
 両者互いに譲らず、沈黙が部屋を支配して数分。
「分かりました。失礼します。」
 クルリと踵を返し、新藤は学園長室を後にした。
 学園長はその様子を眺め、立派に伸びた髭をいじりながら、ふとつぶやく。
「変わらんのぅ……。」

「茜! 聞いた!? あんたのクラスの担任が女子寮の担当になるって!」
 購買部で新学期に必要なものを買い、寮に帰る途中で茜は神楽に呼び止められた。
「ふ〜ん。男の教師が担当なんて珍しいわね? 何で?」
「なんかね、先生の女嫌いを治すためだって。」
「へ〜。あの先生、女が嫌いなの。それはまた随分と変わったご趣味で。」
 茜はその手の話題に興味がない。実に変わっている。
「ノリ悪いわね。担任が担当って聞けば普通はもうちょっと興味示さない?」
「大きなお世話よ。だって一階の教師部屋に泊まるんでしょ? 関係ないじゃない。」
「そうだけどぉ……。あんた本当に冷たいわね?」
「性格だから良いのよ。これが私の個性。」
 そしてこの後しばらく、二人のお喋りは続く。そのまましばらく話していると、人影が近づいてきた。
「あん? 茜か。何でこんなとこでお喋りしてんだ?」
 聡が2人のお喋りを止めたのは話し出して10分以上経過してからだ。ちなみに聡はたまたま行人と2人で歩いていた時、たまたま通りかかっただけである。
「聡じゃない。別に? 神楽に呼び止められただけよ。」
「冷たッ!? いやもうあんたホントに冷たいわね!?」
「だからこれが私の個性なのよ。」
 茜は最初から乗る気はない。もっとも、神楽の言う事にいちいち反応していたらキリがないとも言える。
「お前らさ、不毛な会話してて楽しいか?」
「だから! あたしは先生についての情報を……。」
「先生? 新藤先生の事か?」
「そう! それがね?」
 この不用意な一言のせいで、聡と行人はこの後、30分もの間、神楽のお喋りという名のイジメを受ける羽目になった。。



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