| ■謎の教師
「茜アカネあかね! どこ行った〜?」 女子寮の廊下にて。始業式の日の夜、夕食も終えまったりとした時間が流れている。そこに、あからさまにそれをぶち壊してくれる存在が現れた。神楽である。 「あんたの目の前にいるでしょうが。というか3種類も文字を使わないで。うるさいったらありゃしない。」 「……何の話?」 「こっちの話よ。で、そっちこそ何の用よ?」 神楽はポン、と両手を叩き、 「あ、そうだ。新藤先生って見なかった?」 「新藤先生? 1階にいるんじゃないの?」 教師の泊まる部屋は、1階の入り口の近くである。夜中に寮を抜け出す生徒がいないようにという事だが、2階の窓から出る生徒もいるのであまり効果はない。 「それがさ、いないのよ。どこ行ったのかしら?」 時間は間もなく11時。教師が外を出歩いて悪いという事はないが、それでもこの時間に部屋にいないのは珍しい。 「外で酒でも飲んでるんじゃないの?」 教師が酒を飲み、帰りが遅くなるというのは問題がありそうな気がするが、有り得ない話ではない。だが、この学園において、それは無理だった。 「こんな時間じゃ学園の施設で開いているとこなんかないわよ。だから見なかったって聞いてるんじゃん。」 学園にいるのは基本的に教師か生徒だけだ。遅くになれば、大抵の店は閉まってしまう。そもそも、夜遊びできる環境ではないのだ。 「見てないわよ。別に教師がいなくたって困らないでしょ?」 そう言いつつも、茜は何となく変な気分だった。 翌日、新学期が事実上始動する日だ。 結局、昨日の夜は新藤の姿を寮で見かける事はなかった。一部の生徒の間では話題になっていたが、それほど騒ぎになっていないのは朝のHRで普通に出欠を取っていたからだろう。ちなみに、朝のHRで茜はクラス委員という面倒な役割に決まってしまった。本人は嫌がったのだが、クラスの空気というものは拒否権を与えない。 始まったばかりの今日だが、学校はフルタイム6時間目まである。心魔学園の授業は普通の学校でもある国語や数学などと、実技を伴った魔法の授業の2つがある。生徒に人気があるのは後者の授業だ。 魔法の授業は生徒の得意分野を実際に使って伸ばす実技と、理論や苦手な相手に対抗するための策を教える学科の2種類に分けられる。普段は学校内での魔法の使用が禁止されているため、堂々と魔法を使える機会を逃す生徒はそういない。 4−Bにおいて、本日の午後の授業も、魔法の授業なのだが――。 「せんせー。何で数学の教師が魔法を教えるんでしょーか?」 「私も好きでやってるわけではありません。攻撃魔法科の先生が風邪を引かれてしまったからです。」 聡の質問と言う名の嫌味に、冷静に返す新藤。 生徒達は、あからさまにがっかりしていた。本来なら思いっきり魔法が使えるはずなのに、数学教師が担当していてはマトモな実技は出来ないだろう。 「魔法を使いたいんですか?」 そりゃあもう、当然です、当たり前じゃないですか。生徒達の意見を聞き、新藤は授業内容を決定した。 「それでは実技をしましょうか。私に向かって知っている中で一番威力の高い攻撃魔法を1人ずつ使ってみなさい。」 「大丈夫なんですか? 先生は魔法科じゃないのに?」 新藤は聡のもっともな意見を鼻で笑った。 「君達みたいな子供の使うモノは魔法とすら呼べないシロモノですよ。そんな程度の魔法で私がケガをするはずがありません。」 新藤の台詞に、聡はカチンときてしまった。 「言ってくれますね。それじゃあ、俺からやってもいいですか?」 「構いませんよ。」 聡は、実は威力だけなら一番成績が良い。威力だけなら、というのは理論なんかを全く理解しないで使っているため、非効率的であまり撃てないためである。 「じゃあいきますよ! 後で後悔しても遅いですからね!!」 聡は呪文の詠唱に入った。 呪文には主に2種類がある。1つは長めの詠唱を必要とするタイプ。威力は高いが詠唱中の隙が多いため、サポートする仲間や本人の格闘能力が必要となる。一般的に紅魔法と呼ばれている。 もう1つはアイテムを多用するタイプ。短い詠唱をアイテムなんかの力で補い、その効力を高める。1人で戦えるが、代わりに強力な魔法は使えない。一般的には蒼魔法と呼ばれている。 どちらも一長一短で一概にどちらが良いとは言えないが、この学校で教えているのは前者である。 詠唱が終わり、聡は呪文を解き放つ! 「行っけぇええええ!!」 放たれた魔力は直線状に突き進み、真っ直ぐ新藤に激突――しなかった。 「あ……れ?」 魔力は光となって弾け、ダメージどころか、かすり傷すら負わせられなかった。完全なる無効化。まさに、勝負になっていなかった。 「これが私と君達の差ですよ。君達程度の魔法では、実戦ではせいぜい蚊に刺された程度のダメージしか与えられませんよ? そのために理論を学ぶわけですし、修練を積むわけです。」 言うだけの事はある。その感覚は、その場にいる全ての生徒に伝わっていた。 4年生といえば、3年間はこの学校で魔法を学んできた経験があるのだ。だが、その程度の経験は一人前の魔法使いとは次元が違う事を思い知らされた。 「どうしたんですか? 他の人は?」 誰も続かない。続くはずがない。攻撃科の中で最も威力のある攻撃が、命中すらしなかったのだから。 「それじゃあ、全員結界に向けて基礎魔法を順に打ち込みなさい。」 新藤の指示に従い、皆、ノロノロと動き始めた。 |