■何者なんでしょう?

 始業式の後、数日。新藤先生が実は強いという話はその日のうちに(神楽のせいで)広まっていたが、数日の間に尾ひれが付いて訳の分からない話になっていた。
「神楽ぁ。あんたどういうウワサ話したの?」
「普通よ。ふつー。」
 あくまで惚ける神楽。しかし、頬を一筋の汗が伝わっている。
「確かに俺の魔法を弾いたけどさ、魔法科の教師なら誰でも出来るぜ? それがどうしたらドラゴンの群れをぶっ殺したなんて話になんだ?」
「知らない知らないあたしは何も知りません。」
 首をブンブンと振っている。やはり怪しさ満点である。
「そういえば新聞部に何か話をしてたね。そして次の日の新聞にはアンデッドの群れを3分で片付けたなんて記事が載ってたっけ。」
「偶然です奇跡です何も知りませんですはい。」
 行人の目撃情報もあれば、ほぼ有罪は決定である。
 お昼休み。弁当やらパンやらを持ち寄り、4人は一緒に外で弁当を食べていた。男女で食べるのは珍しいが、この4人に関してはそれほど珍しい話ではない。
 学園長の孫というだけで、神楽は友達が少なかった。また、行人は行人で、なぜか避けられていた。に自然に接したのが茜と聡だった。それ以来、このメンバーはよく昼食を共にするようになっている。
「でも、やっぱりすごいわね。聡の魔法は威力だけなら馬鹿みたいに強いのに。」
 茜は感心したように言った。
「馬鹿は余計だ、馬鹿。」
「確かに。聡の魔法を防げる数学科教師はあまりいないね。どうして魔法科じゃないんだろ?」
 実際、あまりどころでなく魔法科以外では数えるほどしかいない。先ほど聡は誰でも弾けると言ったが、実際はそうではない事など、茜たちはしっかり理解していた。
「神楽。そういう情報はないの?」
 茜の質問に対し、神楽は首を傾げた。
「それがね、新藤先生の過去はぜんっぜん情報がないのよ。どこから来たのか、どして強いのか、あの性格の悪さまで含めていくら調べても分からないのよ。」
「(性格の悪さは分からないと思うがな。)」
 聡の心の声が聞こえる事は恐らくあるまい。
「神楽が分からないってどういう事? 学園長も知らないの?」
「う〜ん。お爺ちゃんなら何か知ってるんだろうけど、教えてくれないのよ。コレに関してだけは。」
 神楽は肩をすくめた。
「あの神楽には超甘の学園長が?」
 聡が驚くのも無理はない。学園長は孫娘である神楽にやたらと弱い。そのため、聞かれた事には大抵答えてしまう。それが答えないとなると?
「……爺さんもボケたか。」
「とうとう脳みそが死んじゃったのね。」
「一応、先生なんだから手加減してあげよう。」
 聡と茜の悪態を、行人がいさめる。このメンバーではいつもの事である。
「お爺ちゃんはボケてはいないわよ。少ししか。」
 フォローになっていない神楽。いつもだが。
「学園長はあれで元は世界で五指に入る偉大な魔法使いだったんだろ? そんなはずはないよ。」
「じゃあ、新藤先生って何者なのよ?」
「それはぁ……うむ。」
 う〜ん、と皆が首を捻った。しかして、結論は出ない。
「――そういえば、夜になると先生どっかに行っちゃうのよね。」
 ポツリと、茜が脈絡のない事を言い出した。
「夜? どういう事だ?」
 聡が聞き返す。
「新藤先生、女子棟の担当になってるのよ。けど、寮じゃ一回も会った事ないわね。」
 神楽が茜に代わり、説明してくれた。
「もしかして、そこに強さの秘密があるのかな?」
「面白いじゃない。」
 聡と茜は、顔を見合わせてニヤリと笑った。
「……何する気?」
「問題に俺らを巻き込まないでくれよ?」
「大丈夫だって。」
 聡の大丈夫が本当に大丈夫だった事は稀である。行人と神楽の心は、一抹どころでない不安が渦巻いていた。

 その夜。茜と聡は寮を抜け出していた。男子寮を抜け出した聡が、女子寮の茜を迎えに行く。
「よう。こんな事すんのも久しぶりだな。」
「そうね。半年ぶりかしら。」
 この会話で、この2人の悪ガキ具合がよーく分かる。
「で? どうするんだ?」
「とりあえず、新藤先生の魔力の跡を追ってみるわ。」
 茜の補助魔法クラスにおいての成績はA。それも、ぶっちぎりの満点である。特に得意なのは、捕縛系。移動するモノを動けなくしたり、その動きをトレースしてどこにいるかを掌握する魔法である。これはそう高位の魔法ではないが、才能が全てで努力ではどうにもならない魔法でもある。
 ぶつぶつと呪文を詠唱し、魔法の光がこの辺りの地図を描く。そこに、1つの光が点状に現れた。
「見〜つけた。ここから……西に200、北に800よ。」
「おっけ。じゃ、行こうか。」
 悪ガキペアは、夜の学園を歩いて行く。



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