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■正体の片鱗
「しッ! 静かに!」 急に立ち止まった聡は、後ろの茜に注意を促した。 「……何してる?」 「特に何かしてるようには見えねぇ。本読んでるみてぇだけど?」 2人から50メートルほど離れたところに、木に寄りかかった新藤がいた。魔法の明かりで本を読んでいる。 ここは学園にいくつかある林の1つ。明かりがないため夜は人気がないが、昼間は木漏れ日の明るいなかなかのスポットである。 「本? 何で寮で読まないのかしら?」 「もしかして、見られちゃまずい魔道書とか……!?」 世の中には、強大な魔法や凶悪な化け物を封じた書物もあるという。あるいは、禁止呪法という、あまりに危険であるが故に使用を禁じられた魔術などもある。 もしそんなものが記された本を持っているところを見つかれば、魔法界から永久に追放されるほどの重い罪だ。それは即、死を意味している。なにせ、魔法使いではない人間など、ほとんどいないのだから。 「ありえるわね。それで学園長を操っているのかも?」 だとしたら、生徒の手に負える事件ではない。だが、この2人にそんな考えはない。魔法の成績に関しては10年生にも負けないという思い上がりが、この2人に無茶をさせていた。 「――どうする? って、聞くまでもないわね。」 「当然。あんときゃ真正面だから防がれたけど、不意打ちならダメージを与えられるぜ!」 先日使った魔法より1ランク落とした魔法を、こっそりと唱え始める。 茜は新藤が逃げないよう、周囲に逃げらない結界を張った。準備は完璧。 「GO! 力馬鹿!」 「馬鹿は余計だ! いっくぜッ!」 魔法を放とうとした、まさにその瞬間。新藤の姿が――消えた。 「……うおう!? 茜! 結界は!?」 「は、張ってるわよ! 逃げられるはずが……!?」 戸惑う2人の後ろから、その男の声が聞こえてきた。 「確かに結界の外に出ようとすると、術者にバレますね。ですが、結界内なら自由に移動出来るんですよねぇ……。」 いつの間にか。新藤は、後ろに回っていた。 自分の生徒たちを見下ろし、新藤は言葉を紡ぐ。 「さて? 教師に攻撃魔法を放つ理由をお聞きしたいのですが?」 「くッ! やいテメエ! 学園長に何をしやがった!?」 もうすでに、教師を悪党と決めてかかっている聡である。 「学園長? 私が何をすると言うんですか?」 「学園長に変な魔法をかけたろ!」 「面白い事を言いますね。今度試してみましょうか。」 クスクスと笑っている。余裕があるからなのか、それとも別の理由か。それが、聡たちには判断できない。 一筋の汗が、聡と茜の頬を伝わった。 「どういう、つもりよ。」 搾り出した声を、新藤は聞き流した。 「夜は外出禁止になっているはずですがね。まあ、いいでしょう。送りましょうか。」 普通の教師なら当たり前の申し出も、今は信じられない。新藤は、ふぅ、と息を吐くと、困ったように肩をすくめた。 「私は信用がないんですね。まあ、今更ですか。どうすれば良いのやら。面倒ですから、ちょっと眠ってもらいましょうか?」 新藤の素早く動く手を、誰かが受け止めた。その間、聡と茜が全く動けなかったのは言うまでもない。 「新藤君。生徒は大切にしないといかんぞ?」 「――学園長。どこからいらしたんですか?」 ほっほ、と学園長は笑った。 「君が気付かぬはずがなかろう? 面白い事を言うのォ。」 さて、と学園長は聡達の方を振り向いた。 「聡君。茜君。ワシはいたって健康、何の問題もないから安心して良いぞ? 新藤君の事を話さんのは新藤君が特殊だからじゃ。」 「特殊で悪かったですねぇ。」 学園長は新藤の嫌味な目線や言葉を気にも留めない。 「新藤君は昔話を嫌うからの。ワシも話してやりたいんじゃが……。」 チラリと新藤を盗み見る学園長。 「本気で暴れますからね。」 堂々と宣言しやがる新藤。 「――何で話さないんですか?」 聡の素朴と言えば、あまりに素朴な疑問。それこそが、憶測や中身のない噂を生んでいる。それを絶たなければ意味はない。 「君達には関係ありません。」 しかし、新藤は、決して話そうとはしなかった。 「そう。1つだけ、教えてあげましょう。私が寮にいなかったのは、あそこが嫌だから。それだけですよ。」 「嫌って、子供じゃないんだから……。」 「私は何と思われようとも、これだけは譲りません。譲れないからこそ、私はここにいる。」 言っている言葉は格好良い感じもするが、要するに女の子が嫌いだからってだけ。理由は果てしなく格好悪い。 「それでは。私はこれで失礼しますよ。」 女嫌いの教師は、仕事の1つである寮の監視をあっさり放棄し姿を消した。 |