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■どこにでもある問題
「聡。相変わらず罰則が趣味?」 「茜。格好良いわよ。」 「「うるさい!!」」 夜の外出は基本的に禁止行為である。学園長に見つかった以上、言い訳も無意味だ。聡と茜は仲良く罰則の廊下磨きをしていた。 たかが廊下磨きと侮るなかれ。この学園の広さを考えれば、これは拷問にも等しい。もっとも、彼らは寮の廊下だけで許してもらえるのだが、それだけでも果てしなく広い。 「行人ぉ……。少し手伝ってくれよぅ。」 聡は情けない声を出した。対して行人は、 「自分でやらなかったら意味ないだろ?」 「そゆ事。という訳で、私も手伝いませ〜ん。」 行人も神楽も、手伝う気はサラサラない。この2人にいちいち全部付き合っていたらキリがないからである。 「ケチ。」 それでも、一緒にいてくれるだけでも嬉しいモノはある。ちなみにここは男子寮。昼間は男女入り乱れても良い事になっている。 「結局、新藤先生が何者かは分からなかったのか?」 「ああ。過去に何かあったみたいだし、学園長なら知ってるんだろーけど。」 「記憶でも読まない限りは無理、と。」 一応、記憶を共有する魔法もあるにはあるのだが、互いの額をくっつけるという条件があるため教師相手では通用しない。 「マジックアイテムでもあれば出来るんだけどね。」 「そんなの買うお金が誰にあるのよ。」 記憶を盗み見るなどという物騒極まりないアイテムもあるのだが、一生分の財産くらいの値段である。しかも、悪用出来ない保護機能まであるため、今の時点では使えない。 「ま、あんまり、過去を詮索しない方が良いかもね。隠したがっているみたいだし。」 「気になるけど、今回は諦めるしかねーな。」 悪ガキ・聡や、情報女王・神楽ですら得られぬ新藤先生の過去。 どれだけ気になろうとも、生徒ではどうしようもなかった。 神楽は、寮の屋上へと来た。茜達は未だ罰則中。今は先生の寮を掃除している。流石に先生の寮は居心地が悪かったので、女子寮に帰ってきたのだ。 寮の屋上は、神楽の好きな場所である。静かで落ち着けるからだ。普段騒がしい彼女だが、実はかなり静かな雰囲気も好きだったりする。 屋上への扉に手をかけた時、何か声が聞こえた。誰かが、屋上にいる? 珍しい事だ。別に立ち入り禁止ではないが、屋上に休みの日にいる生徒は少ない。自然に聞き耳を立ててしまう。誰だろうか? 「どうしたのさ? もう終わりぃ?」 「そ〜んな事ないわよねぇ? あんたは強い子だもんね〜?」 「あ、あの……」 その空気。それは、神楽にとって馴染みのあるものだった。人の心を傷つける、奥底をえぐる気配。 そうっと扉を空けてみた。そこにいたのは、女子生徒。服装からして、おそらく6年か7年だろう。それが5人、いや、6人。 女子生徒達に囲まれて、もう1人の生徒が見える。黒とも緑とも言える長いストレートヘア。 「あれ、由佳ちゃん?」 柊由佳。3年生だが絵が非常に上手く、この前学内コンクールで優勝した生徒である。当然ながら美術部に所属している。おそらく、周囲の連中は美術部員だろう。 「む、無理……です。」 由佳は泣きそうな声である。神楽の手が震えだす。 「何言ってるのさ? 美術部期待のエース様でしょう? この位、簡単に描けるはずでしょ?」 「そうそう! それに上手い人は道具を選ばないって言うからねぇ。」 よくよく見ると、由佳は絵を描いているようだ。しかし、その道具は。 「天才3年生様はどんな道具でも学園の風景画が描けるんだ〜。すごいですねぇ? 私にも教えていただきたいものですわ〜?」 ボロボロの道具に、キャンバスなんか破けている。あんなものに描けるわけない。これは、まるでなんてレベルじゃない。まさしく、イジメそのもの。 「何してるんですかッ!」 イジメだと思った瞬間、神楽は反射的に叫んでいた。どうにも止められなかった。 どうやら誰も神楽の存在に気付いてなかったらしく、ビクッと反応した。 「あん? 誰? あんた。」 リーダー格らしき女が詰め寄ってきた。神楽も負けじと睨み返す。 「神無月神楽よッ! それより何をしてるんですか!?」 「あんたには関係ないわよ。」 偉そうに神楽を見下ろし、拒絶の言葉を吐いた。しかし、そんなもので負けるほど、神楽はヤワではない。 「神無月? ねぇ、もしかしてあんた、学園長の?」 この中では割と大人しそうな女が問いかけてきた。神楽は黙って頷いてやる。 それを見て、女は青ざめた。 「何? こいつ、知ってるの?」 「……学園長の孫娘よ。」 女の言葉に、他の生徒も動揺した。 「――ッ! な、何でもないわよ! ほら、皆行くよ!」 リーダーらしき女は急に慌てふためいて仲間を連れ、屋上を後にした。『由佳。また遊ぼうね。』という捨て台詞を残して。 |