■終わらぬ鐘の音

「それで、話は終わり?」
 神楽の言葉に、学園長は黙って頷いた。
「じゃあもういいわね。」
 そう言って神楽は立ち上がった。
「もういい、じゃと?」
「そうよ。もういいの。新藤先生の過去は……知らなくてもよかったかもしれない。私達は先生と関わって、それで今の新藤先生を知っている。だったらそれでいいじゃない。それが全て。先生が昔、誰を殺そうが関係ないわ。」
「許すのかの? 両親を殺した相手を?」
「意地悪いわね。わざとじゃなかったんだし、しょうがないでしょ。先生に非があったわけじゃないもの。」
 サバサバとした口調。何の感慨もない瞳。これらの言葉が、心の底からのものだと示すものだ。
「神楽……。ワシが知らんうちに立派になったのう。」
「ありがと。みんなはどーするの?」
 神楽は聡達を見た。みながそれぞれ、今の話を自分の中で理解している。
「俺も行くわ。」
 聡が立ち上がれば、行人も無言のまま席を離れる。
「あたしも、行きます。」
 由佳が立ち、茜は学園長を振り向く。
「学園長。最後にひとつ、いいですか?」
「構わんよ。何かの?」
「先生はもう振り切ったんですか?」
「……まだじゃ。それが証拠に新藤君はまだ女性を恐れている。彼が力を暴走させた原因が女性じゃったからのう。じゃが、ワシの事は許してくれるらしいの。まったく、甘い男じゃよ。」
「ありがとうございました。もう、行きます。」
 茜も立ち、5人は部屋を出て行った。
「神楽……。良い友人を持ったの。さすが、ワシの孫娘じゃ。」
 ほっほっほ、という学園長の笑いが、静かな部屋に響いていた。

 教室の中はガヤガヤと騒がしい。生徒はみな、浮き足立っている。理由は簡単。明日から夏休みなのだ。
 本日は1学期の終了式。あれだけ色々な事があったというのに、まだこれだけしか日が経っていないのだ。
 聡は机に突っ伏してものすごい表情をしている。普通は悩み事があるのか、と聞きたくなるところだが、聡に限っては聞くまでもない。
「ああ……成績表なんていらねえよ。つーかもうあげるからさ、返さなくていいっつーの。」
「そんなのあんたが勉強しないのがいけないんでしょ?」
 いつも通りの会話。こんなものも、随分と久しぶりな気がする。
「だってよう、訓練やら事件やらで勉強する暇なんてなかったじゃねーか。お前はどうなんだよ?」
「私の試験結果、見る?」
 茜が渡した紙切れに聡の目が走る。
「――はあ!? お前、何でこんなにいいわけ!? ちょ、ないわこれ! いや、ありえねえ!!」
「あんたと違って勉強してるの。夏の宿題は大丈夫かしら? 聡君?」
「ぐ……。すまん、茜。助けてくれ。」
「そうねえ。今年は何をおごって貰おうかしらねえ?」
「あまりいじめねーでくれよ……。」
「そうね。今年は私に付き合ってくれたら許したげる。」
 さりげなく言うが、茜の魂胆を知ったら神楽が怒るかもしれない。
「荷物持ちか? うぬぬ……。仕方ねえな。」
 茜がさりげなく机の下で拳を握ったのを、聡は知らない。
 その時だ。ガラリと扉を開き、新藤が入ってきた。生徒達は席へと戻っていく。
「では、成績表を。出席番号に従って前に来て下さい。受け取ってすぐに捨てないように。それと受け取り拒否もしないように。」
 その後の教室は阿鼻叫喚。喜ぶ者よりは嘆く者の方が多いか。
 成績表を配り終わると、新藤は早々に終わりを告げる。
「それでは皆さん、夏休みの間に死なない程度に楽しんで下さい。私に迷惑をかけた者は来学期の数学の成績を落としますからね。以上! これにて解散します。」
 茜が号令をかけ、生徒達は先刻以上に騒ぎ出した。
 明日からは夏休み。学生の間だけの、本当に自由な感覚を味わえる期間。生徒達は騒ぎあい、笑いあう。全ては、これから。事件はもう過去の事。過去など、いつまでも引きずるものではない。
 本当に、全てはこれから―――。



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