■別離の刻

 上下すらない世界に光る扉が現れた。もう別れの刻。次はない。だから、もう会えない。永遠に。生きていれば会えただろう。だが、もう、生きていないのだ。
「じゃあな、飛鳥。俺が地獄に逝くまで待っててくれよな。」
「冗談。お兄ちゃんがそうそう死ぬもんですか。」
「そう、だな。」
 ニッと笑い、天原は片手を上げながら扉を潜った。後ろを振り向くことなく。前に、進むために。
「聡クンも元気でね。お兄ちゃんはす〜ぐ悩む性質だからさ、悪いけど見守ってあげてね。」
「大丈夫っス。それじゃあ……さようなら。」
 笑っているような、泣いているような、躊躇しているような、表現しがたい複雑な表情で手を振り、聡も扉を潜った。
「さて、と。私も行きますよ。」
 新藤もさっさと帰ろうとする。それを、飛鳥が止めた。
「新藤、クン。」
「飛鳥さん。私は人を愛せない。私の手は血にまみれ、私の歩んできた道は憎悪と嘲笑に満ちている。それに、あなたもすでに死んだ身です。無理なんですよ。」
「新藤クン。アタシを信じてとは言わない。でも、他の人は信じてあげて。誰も新藤クンを傷つけたりしない。新藤クンも誰も傷つけたりしない。大丈夫だから、人を拒絶しないで。そんな悲しい事、絶対、ダメだから。」
 飛鳥は、後ろから新藤を抱きしめる。新藤はいつも通りそれを拒絶した。少しだけ違ったのは、その動きがどこか優しげだった事くらい……。
「私にはまだ無理ですね。さようなら、飛鳥さん。」
 そう言って、新藤は光の扉へと歩を進める。そして、扉まで一歩のところで足を止めた。
「……飛鳥さん。村野君やその友人達は、本当に羨ましいほどの関係ですよ。私が遠い昔に憧れていた、そのままの光景です。彼らと一緒にいると、信じてしまいたくなってしまう。確かに、まだ・・愛せません。ですが、あるいは――くっくっく、私らしくなかったですね。さようなら、飛鳥さん。」
 それ以上を言わず、それ以上を聞かず、新藤は光の中に姿を消した。
「……新藤クン。絶対に、幸せになってね。それが、私の、幸せだから。」

 戦いは終わりを告げ、聡達の生活は普段に戻った。
 天原は補助教員という事に決まった。世界中を旅したその経験を生徒に伝える役という話だが、マジック・マスターが生きていて、おまけに学園の教師になったという事は世界中を騒がせた。
 秀一と桔梗は生徒として編入した。本人達は嫌がったのだが、天原の命令では仕方ない。
 そして、ある日の事。聡達は学園長に呼ばれ、その私室に向かった。
「何スか? 学園長。」
 部屋に入るなり、聡は学園長に問うた。
「来たかの。とりあえず座りなさい。」
 聡達をソファーに座らせ、学園長はゆっくりと茶をすすった。
「全てが終わったからの。そろそろ話そうかと思ったんじゃよ。昔話を、の。」
「全て……?」
「そうじゃ。ジジイの戯言と思って聞き流しても構わんぞい。」
 そう前置きし、学園長は話し始めた。

 今から15年前の話だ。ちょうど神楽が生まれ、学園長は自身の出身である村の儀式のために、神楽と共に2人だけで近くの湖にいた。その時であった。まさに天地が揺るぐ程の、大きな爆発が起きたのは。
 急ぎ村に戻ってみれば、そこには何もなかった。まさに、何も。家々も、人々も、何もかもが存在しなかった。ただ1人の少年を除いて。
 その少年こそ、新藤だったのだ。新藤は自身の魔力をコントロールしきれずに暴走させてしまい、全てを失ってしまった。
 両親を失った神楽と新藤を学園長は引き取り、心魔学園に連れてきた。子供の魔力暴走は珍しい話ではない。だが、これほどに大規模なものは存在しなかったろう。新藤はすぐに心魔に入学した。
 だが、どこで洩れたのか、新藤が暴走し多くの人々を死に至らしめたという話は子供達の周知の事実となってしまった。それは当然、イジメに繋がる。
 学園長はそれを知っていた。知っていて、それでいて何もしなかった。心の底で、学園長は新藤を憎んでいたのだから。己の妻を、娘を、娘婿を、殺した少年を――。
 新藤は自然と孤独になった。常に独りで、魔力のコントロールを練習する時間が増えた。それが結果として、ロードになるほどの力の源となった。
 学校では仲間との協力を前提とした戦闘しか教えていなかった。故に新藤は独学で違う魔法形態も覚えた。それこそが鬼神。鬼神は本来、新藤の戦闘をサポートする前衛の役割なのだ。
 結局、新藤はそのまま卒業した。その後、新藤は天原に会う。そして、今へと繋がる――。



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