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■精神世界
「どこだ? ここは?」 「無限の書の中ですよ。」 聡達が立っているのは形容しがたい空間。世界に上下がない。 足の下も頭の上も、全く違わぬ同じ空間が広がる。周囲は赤とも青とも言える色が広がる。 「説明しにくいんだけど。どーゆー世界っスか?」 「無限の書とは、あらゆる世界に通ずる空間の断片。簡単に言うと、ここは私達の住む世界以外にも通じた道のようなものという事です。特に決められた形もありませんから、こういう不安定な光景になるんですよ。」 「はぁ。分かったような、分からないような?」 「仕方ないでしょうね。これはあまりにも特殊すぎる空間ですから。」 「で、何すりゃいいんだ?」 天原は辺りを見回す。当然、何もない。 「どうやらあなた方に会わせたい人がいたようですよ。」 「誰だ?」 言いつつ天原は新藤を振り返る。そして、気付いた。新藤の先に立つ女性の存在に。 真紅の髪色はまるで桔梗のよう。しかしその風貌は優しげで、桔梗とは全く似ていない。 「久しぶりね、新藤クン。……お兄ちゃん。」 「飛鳥、なの、か?」 「お兄ちゃんがアタシを見間違える事なんてありえる?」 それは、ありえない光景。死した人が、今、目の前にいる。話している。触れられる――! 「あなたは、聡クン? 大きくなったわね〜。アタシが知ってる頃なんてまだほんの赤ん坊だったのに。」 「あれから何年経ったと思ってるんですか。」 飛鳥は聡と同じくらいの身長なのに、手を伸ばして頭をなでる。聡も、嫌がったりはしない。 「飛鳥、どうして……?」 状況が飲み込めない天原は愚問を口にした。 「うん? アタシはね、普通の人間じゃないの。わかってるとは思うけど。ここは無限の書の中で、簡単に言えば精神世界。アストラルって空間なの。 普通は死んだらおしまい。天国に行くか地獄に行くか。あるいはそのまま消滅する霊魂もあるらしいね。で、アタシはその中のどれにも当てはまらない。いわゆる浮遊霊ってやつ? それもそこらをフヨフヨ浮いてるんじゃなくて、精神世界に溶け込んでるの。この世界の一部になってるってワケ。分かる?」 「どうして、そうなったんだ?」 「いくつか理由はあるけど。まずね、アタシの魂を誰も回収しなかったの。それでさ、消滅するほどに意思も弱くはない。でさ、少しだけ当てもなく浮いてて……心魔学園に来たの。そうしたら、クロウがアタシを見つけてくれて。アタシの自我を保つ方法として、ここに来るように言われたってワケ。」 「んだよ。それじゃ、お前は、最初から――!」 まさに喜劇。最悪最低のピエロ。踊らされていると気付かず、笑われている事を知らず、ただただ生きた道化師。 「マスター。あなたは言いましたよね。全てを護れないのに、護るなんて言うのは好きではないと。でも、人間には限界があるんです。その中で護ろうとするのならば、護れないものも出てくる。それは辛い事です。だからと言って、護る事を諦めたところで何も得られない。そういうギリギリで妥協せざるを得ないんですよ。現実とは、そういうものです。」 「お前に言われると果てしなくイラつくな。まあ……わかっちゃいるさ。でもよ、諦めても仕方ねぇだろ? 諦めた先に未来は存在しねえ。だがよ、諦めなければ叶うって、思いたいじゃねえか。」 「くっく。そうですねぇ。」 「でさ、お兄ちゃんは私に用があったんじゃないの?」 飛鳥が天原の顔を覗き込む。 「うん? いや。用があったわけじゃねぇんだ。ただ、お前に生きていて欲しかった。お前にずっと一緒にいて欲しかった。それだけなんだよ……。」 「勝手ねえ。ま、いいか。お兄ちゃん、気合入れてきなさいよ。昔っから詰まらない事をウジウジ気にしすぎなのよ、お兄ちゃんは。」 「ああ。もう、大丈夫だ。俺は、独りじゃねーから。」 「当たり前でしょ。秀ちゃんも桔梗ちゃんも、それに新藤クンもいるんだから。みんな、お兄ちゃんを大事にしてる。世界中の尊敬を集めるマジック・マスター様の復活ね。」 飛鳥の笑みが、天原の心を溶かしていく。溶ける事のなかった氷を。あっさりと、それでいて、優しく。 |