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子供の頃、大好きだったアニメがあった。 女の子向けのアニメで、主人公も女の子。その子は絵本の世界からやって来た使者に頼まれ、正義のヒーローとなる。 ヒーローは仲間と共に、世界を闇で覆わんとする悪い連中と戦う。紆余曲折を経てヒーローは世界を救う。 そんな物語はシリーズ化し、今も子供たちを夢中にさせている。男子中学生となった今の僕は、さすがに女児向けアニメを見るわけにもいかない。だけど、子供心に好きだった世界は今も胸の中にある。 いつかヒーローになりたい。そんなこと、誰だって思うことだ。 ……そうは言っても。 「はぁ、なんでこんなことに」 フリルのついたミニスカート。派手でボリューム豊かな髪の毛。 どこからどう見ても格闘系の魔法少女。ないしコスプレ少女。 ……男の僕が少女ではないとかそういう葛藤はとりあえず脇に置く。スカートなんか似合ってくれても嬉しくない。 道路を駆け抜けながら、僕は少し前の出来事を思い出していた。 ワン、とハナコが元気に吠える。 ゴールデンレトリバーのハナコは散歩が大好きだから、機嫌がいい。はやくはやくと急かされながら、川岸を歩いていく。 海が近いこの町は、川幅も広い。川岸は10メートルほどの幅があり、市民の散歩コースになっている。 春も過ぎた今ごろは、背中を丸めながら歩いていた真冬の寒さもなくなり、散歩するだけで汗ばむ陽気だ。だけど、そんな気候も気持ちいい。 僕は川を眺めながら歩いていると、ふとハナコが足を止めた。 「ハナコ?」 「くぅん」 歩道の脇に生い茂った草むら。その中に何かが落ちているようだった。 覗いてみると、見たことのない動物が転がっていた。どうも弱っている様子だが、まだ生きているらしい。 「怪我している様子はないけど……。なんの生き物だ?」 猫のようにも兎のようにも見える。紫色の毛並みで、額のところに赤く光る石のような部位があった。おもちゃのようにも見えるけど、きちんと呼吸をしている様子がある。 「んん……」 獣は気がついたらしく、目を開いた。真っ赤な瞳ーーやっぱり兎なのかな? 「あ、人」 「え?」 「あっ」 兎(?)は目をパチパチさせると、 「きゅいっ」 「いや、首をかしげても誤魔化されないけど……。今、しゃべった?」 「むう。可愛くない子ね」 ぴょん、と飛んだ兎(?)はそこらに転がっていた石の上に乗る。 「なるほどなるほど。私を見てもビビらないってことは普通の人間じゃないみたいね!」 「普通の人間だけど……」 「普通の人間はびっくりするの!」 「それはさておき。君はここで何をしてたの?」 「気絶してたの。見てわかんなかった?」 「それはわかるけどさ。体の調子でも悪いのかな?」 「体はへーきだけど。空間移動する際に魔力を使いきっちゃったみたいなのよね。いやー、参ったわ」 空間移動。魔力。 「私はシジョー。今は訳あってカーバンクルの姿をしているけど、立派な人間よ」 「うぇっ? に、人間?」 「あら、信じてないの? それじゃちょっとだけね」 兎はきょろきょろと周囲を見渡し、誰もいないことを確認してから、ぐーっ、と背伸びする。 「えっ」 兎の体がきらきらとした光に包まれる。次の瞬間、そこに立っていたのは、紫色のドレスを身にまとった女性だった。 長身で美人だ。年齢は見た目じゃよくわからない。胸元の開いたドレスはよく似合っているけど、町中だと普通に目立つ。 「どう? これで信じられるでしょう」 「なんだ、本当に人間だったんですか……」 「……なんでちょっと残念そうなのよ」 「別に。僕が動物好きなだけです」 「そういうの先に言いなさいよ」 「聞かなかったでしょう」 「初対面で動物好きかどうか聞く人なんていないでしょうが。まあいいわ」 ぽん、と女性の姿が煙に包まれる。すると、先ほどの兎に戻っていた。 「これは変身魔法の一種よ。まあこの姿でいた方が面倒ないしね」 「今の姿でも十分に珍獣ですよ。あなたがどこから来たのか知りませんけど、普通の日本に紫色の兎はいません」 「カーバンクルよ。なに? この世界にカーバンクルっていないの?」 「どこの世界から来たのか知りませんけど、いませんよ」 「マジで!? うちの近所じゃスズメより多いのに……」 そういえば最近、うちの近所でもスズメを見なくなったな。どうでもいいけど。 「で、カーバンクルのお姉さんは僕に何か用事でしょうか」 「よくわかってるじゃない。あなたみたいな、私に驚かない人物がちょうどいいのよ。お願い、私と一緒にモンスターと戦って!」 「そういうのは勇者属性の人にどうぞ」 「ありがとうこれからよろしくね」 「あれ? おかしいな、今断ったはずなんですけど」 「ふふふ。断って……いいと思っているのかしら?」 ぎらりとカーバンクルの額が光る。 「あなたが断ると、私はあなたにずっとついて回るわ! 可愛いペットを連れている男子として有名になるわよ!」 「あ、別にもともと友達もいないんで関係ないです」 「悲しいこと言わないの!! もう、本当にひどいわ、しくしく」 口でしくしく言ってるんだけどこの人。……この兎? 「それならお願い、せめて私をあなたの家に連れてってくれない? ゆっくりお茶でも飲みながらお話ししたいの」 堂々とお茶まで要求してきたぞこいつ。かなり図々しいな……。 「それとも私が珍獣として捕獲されてみんなの見世物にされても構わないというの!?」 「僕の生活には支障ないけど……」 「おに! あくま!」 「……」 いや、どう考えても知らない人を家に連れ帰ってお茶を出す方が異常者では? そんなことは思うけど、でもまあ、ちょっと心惹かれないかと言われれば、まあ思うところはある。 子供の頃は魔法少女に憧れていた。彼女の姿は、そんな魔法少女が連れ歩くパートナーの妖精みたいにも見える。妖精のお願い……。できることならちょっとやってみたいとは思う。 「ワン!」 そろそろ飽きたのか、ハナコも散歩を再開したい様子だ。 「……じゃあ、犬の散歩が終わってからならいいですよ」 「ありがとう助かるわ」 そう言って耳をぴんと立てたカーバンクルは、僕の肩にぴょいと飛び乗った。 「それじゃさっさとレッツゴー! あ、その前に。あなたの名前は?」 ……答えていいんだろうか。一瞬だけ迷い、結局僕は名前を口にした。 「六車ロアンです」 |