『何か変身に問題でも?』
「大有りだよ!! なんで女装なの!?」
『似合うからいいでしょう』
「そこは論点じゃないの! 何!? そっちの世界は男女で同じ服装なの!?」
『違うけれど』
「じゃあこれが女子の服だということも理解できるよね!?」
『諸事情があるのよ』
「何をどうしたらそうなるの!?」
『それはさておき。見た目には軽装かもしれないけど、そのバリアドレスは耐熱・耐寒・耐刃・耐衝撃・身体強化・魔力強化とバフてんこ盛りよ。それならあいつにも対抗できるわ』
「だからって……」
『いいかしら、少年。人生ってのはやるかやらないか、その二択しかないの。やるの? やらないの?』
「……」
 なんだか面白くない。うまく乗せられている気もする。
 だけど、既存の兵器じゃ倒せない相手ってのはなんとなくわかる。戦闘機が撃ち落とされたくらいだ、戦車が集まったって同じことが起きる。
 ならーー戦うしかない。
「ふう」
 覚悟を決めると、僕は拳を握った。
 変身した直後から感じてはいた。それを、ただ意識しないようにしていただけだ。
 お腹の底から感じる熱い気配。獣が唸り声をあげているような、強い鼓動。
「……わかった」
 まずはこの衝動に身を任せてみよう。
 軽く息を吸い、吐きながら地面を蹴る!
「ッ!?」
 ほんの一息。それだけで飛び上がっていた。
「なっ、な!?」
 町が眼下に。そのまま落下し、道路に着地する。コンクリートがひび割れるけど、足は痛くも痒くもない。
「これ、本当に魔法少女なんだ……」
 子供の頃に憧れた、その気持ちは嘘じゃない。可愛いドレスと力強いヒーロー像、それらを合わせ持った存在。
 戦う魔法少女。今は僕自身がそれなんだ!
「これなら、行ける!」
 道路を駆け出す。
 三車線の国道を横切り、まっすぐ前へ。防風林を抜けた先は小さな漁港だ。
 海上には、さっきのモノリスが屹立していた。戦闘機や護衛艦が集まってきている。
 けどーー。
「ミサイルが、届いていない?」
 こうして間近で見るとよく分かる。モノリスから1メートルほど離れた場所で、ミサイルが爆発してしまうんだ。
 見えない壁がある? いや、攻撃を防ぐシールドがあるんだ。これじゃ自衛隊にも打つ手がない。
 既知と違うっていうのはこういうことか。未知の力。通常の物理攻撃では届かない相手。それなら別の武器が必要になるけど、自衛隊にはそれがない。
 モノリスが上陸するまではもういくらもない。ここで止めなければ、この先はすぐに町だ。あんな巨体、倒れただけでもひどい被害が出てしまう。
「行くしか、ない!」
 ぎゅっと体を縮める。
 全力で、ジャンプ!
「せぇのっ!!」
 そのまま飛び蹴りした。モノリスを蹴り抜き、その巨体がぐらりと揺れる。
「っ!? 効い、た?」
 ミサイルでも通じなかったモノリスのシールド。それが、僕が近づいても反応しなかった。人には反応しない? いや、この魔法少女衣装のせいか?
「とにかく考えるのは後だ!」
 港に戻る。すると、モノリスが僕を敵として認識したのがわかった。
「っ!!」
 戦闘機を切り裂いた謎ビーム。それが僕を襲う。
 とっさに手を前に。ビームがグローブに当たり、
「ちょっ……。と、熱い?」
 僕が消し飛ぶようなことはなかった。やっぱりこの魔法少女衣装の力だ。
 そういえば耐熱とか色々とついてるって言ってたな……。
「ふっ!」
 腕を振るうとビームがかき消される。
 でも、このままじゃ決定打がない。空を飛べるわけでもないし、海の上を走れるわけでもない。このままじゃ海上にいるモノリスに攻撃するのは難しいーー。
「シジョーさん! これどうすれば倒せるの!?」
『気合いよ!』
「根性論なんて今どきパワハラだからね!?」
『そうだけどそうじゃないわ! 魔法の根元は心の強さにある! あなたが強く強く思うの!』
「何を!?」
『何かを!!』
「何かってなんだ!?」
 何かって言われても。違う。心の強さが根源?
 何かを強く思うってそういうことか?
「……なんでもいいのか」
 何かを守ろうとするわけでも、何かを倒そうとするのでも、とにかくなんでもいい。ヒーローが戦う理由、それがそのまま力になるんだ。
 今の僕はヒーローだ。ヒーローの、ヒーローたるゆえん。それを心に聞くだけだ!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 叫ぶ。叫びと共にエネルギーが集まっていく。胸のリボン、そこに輝く宝石にーー。
 リボンに集った強い光。美しく輝く桜色の輝きを、拳を通してーー思いきり! 解き放つ!!

「ライトニングシャワー!!」

 拳から放たれた光。それがモノリスを切り裂き、どてっ腹に大穴を開けた。
 モノリスはぐらりと揺れたかと思うと、そのまま横倒れになる。海に倒れたせいで、大きな白波が港を洗い流した。
「な、なんとか、やれた……」
 直後。力の抜けた僕は、そのままぶっ倒れた。

☆   ☆   ☆   ☆

 
 目が覚めると自室だった。
「あれ?」
 気がつけば、制服姿のままでベッドに転がっていた。起き上がる。
「夢?」
 手もある。足もある。怪我とかは特にないし、ちゃんと動く。
 首をかしげていると、部屋のドアが開いた。人間モードのシジョーさんが姿を見せる。
「起きたね少年」
「シジョーさん。なんか変な夢を見ちゃって……。って、なんであなたがここに」
「ああ、リボンは机の上に置いてあるからなくさないようにね」
「夢じゃなかったのかぁぁぁぁぁ!!」
 頭を抱える。金ぴかリボンは確かに机の上に乗っていた。見えていたのに脳みそが理解を拒んでいたらしい。
「シジョーさん! あのでかいのは何!? なんで変身!? なんで魔法少女!? というかなんでスカート!?」
「オッケーオッケー。ひとつずつ答えていくわね。まずあの大きいの。我々の世界ではリーゼと呼んでいるわ」
「リーゼ?」
「リーゼそのものに意思はない。破壊用の兵器と考えてくれていいわ。それがこちらの世界に送り込まれるのは時間の問題だった。だから私たちは、こちらの世界でリーゼと戦う存在を用意しなければいけなかった」
「それでシジョーさんが来たってこと?」
「まあそう。こちらの調査も兼ねてだけどね。あなたに与えた物質変換装置は、こちらの世界にあるものを私たちの世界にあるものと置き換えている。あなたのドレスもそのひとつ」
「なんでスカートなのかとかは」
「さておき」
「さて置くな」
「こっちにも色々と事情があるのよ。この世界の調査は当初限定的だった。その中で取得できたこちらの情報で、こちらの人に無理なく理解されるものを調べていったら、その形に行き着いたの」
「もう少し他にあったでしょ。というか、今から変更とかは」
「無理。予算が足りない」
「せちがらい……」
「それと、リーゼはあれで終わりじゃないわ。むしろ始まり。本部隊がそのうち来ると思うから、それまで頑張って耐えてね?」
「……は?」
「つまり、まだまだ魔法少女できるわよってこと。よかったわね少年」
「よく、ないわッ!!!」