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先日は本当にひどい目に遭った。 いきなりシジョーと名乗る不審人物から変身アイテムを渡され、なぜか魔法少女となった男子中学生の僕。 敵の存在は意味不明だし、異世界ってのもよくわからないし、望むと望まざるを関係なく襲撃はあるだろうって話だし。 本当に僕、どうなっちゃうんだ……。 一応、通学鞄の中には例のリボンも入っている。とはいえ、使うつもりは一切ない。ただ、あの敵っていうやつがまた現れたらと思うと……。家に置いていく気にもなれなかっただけだ。 戦う意思があるわけじゃないけど、ほっとくこともできない。そんな、妙な強迫観念の気分だった。 鬱々とした気分で学校まで足を引きずっていく。ちなみに、シジョーさんはうち以外に拠点があるらしく、朝から姿は見ていない。まあリボンで呼び掛ければ通じるんだろうけども。 そうして通学路を歩いていると、道端に変な人を見つけた。 紫色の布切れをテーブルにかぶせ、自分自身は金色の刺繍がある黒いローブで身を隠している。テーブルの上にはあからさまな水晶珠。 「占い?」 こんな朝っぱらから? 道端で? ……どう考えても変人だ。 関わらないようにしようと前を通過しようとすると、 「そこ行く少年」 完全無視。そのまま通過。 「ちょちょ、そこ行く少年! 無視はどうかと思うよ! 人として! 倫理的に!」 「あのね! 現代日本でローブに身を隠した占い師なんて不審者以外の何者でもないの! 警察呼ばれないだけありがたいと思いなよ!」 「そんな冷たいこと言わないで! 占いしましょうよ占い! 無料でいいから!」 「無料ほど高いものはないっておばあちゃんが遺言で言っていたので!」 「そう言わず! 後生だから! というかそれが遺言ってどういう人生!?」 すがりつく占い師を振りほどけず、僕は脱力する。ちなみにおばあちゃんは博多で生きています。 「はぁ。もう、じゃあ学校に遅れちゃうから3分で終わらせてください」 「問題ないない。びびでばびでぶー」 「それ水晶じゃなくてシンデレラでしょ……」 「むむっ。水晶に出ました、キミには運命の人がいます。その人に身を任せると、とっても良いことがあるかも」 「間に合ってます」 「しかもその相手は美人でスタイルも良くてキミのことが大好きになるうえにお金持ちになれる予報だぞっ」 「要りません」 「……キミ、本当に男子中学生?」 「なんでですか」 「男子なら女の子とお近づきになるために全力を尽くす年頃でしょうが」 「結構です」 そのままスタスタと学校に行こうとすると、占い師が僕の行く手を阻んだ。 「そろそろマジで警察呼びますよ」 「わかった、素直に頼むから」 占い師はローブを脱ぐ。その下から現れたのは、女性だった。まあ声でわかっていたけど。 こちらは予想外の金髪碧眼。綺麗な髪を頭の後ろで結んでいる。年齢は僕と大差ないだろうに、胸元が開いた妙に露出の多いドレスみたいな服を着ている。 見た目からすると純粋な白人だけど、日本語には淀みがない。バイリンガルというやつだろうか。 「アタシはテーラ。魔術師……いえ、魔女よ。あなたと交渉がしたいの」 「魔女ぉ?」 「これは本当よ。占い師は副業。フランスでは評判よかったのよ」 その副業、たぶん日本ではやめた方がいいよ。 「アタシはあなたが持っているアイテムが欲しいの。お金なら払うわ。是非とも協力して欲しい」 「アイテム?」 ふと、シジョーさんに貰ったリボンが頭をよぎった。 あのアイテムは効能はさておき、実際に変身できるという今の科学技術を越えた代物だ。自称魔女はさておき、欲しがる人がいてもおかしくはない。 問題は、なんでその事実を知っているのかということだけど……。僕はシジョーさんからリボンを貰ったことなんて誰にも言っていないし、シジョーさんだって方々に漏らすとは思えない。 まあ、情報社会の現代で情報が漏れない方がおかしいって考えもあるから、一概には言えないけども。魔法少女と化した僕が写真に撮られていたっておかしくないんだし。 「……何が欲しいの?」 「それは言えないわ」 「言えない?」 「だって、アタシが何々を欲しいって言ったら、足元見られるかもしれないでしょ。お金は払うけど、無限に払えるわけじゃないんだし」 「なるほど」 ポンコツっぽかったけど、交渉としては頭がいい。逆に言えば、本当に交渉をしたいってことか。 「こちらは30万ユーロ払うわ。日本円なら4800万円くらいね。それで売ってもいいと思うかどうかを考えてちょうだい。一応、不動産とかではなく動産よ」 4800万円。普通に考えたらとんでもない金額だけど、あのリボンの技術を考えたら、はした金かもしれない。異世界の存在となれば、一桁は上を狙えそうだ。 ただーー僕はもう魔法少女のコスプレなんてしたくないし、そういう意味では売ってしまうのも手だ。 「金額は本当。これは証明だけど」 魔女の女の子は占い机からバッグを取り出し、中身を見せる。ユーロ紙幣の束が見えた。見たことのないような大金であることは間違いない。 「これは一部だけど、嘘じゃないって証明でもあるわ。もしもそれで足りなければ、アタシをつけてもいいわよ」 「君を?」 「見ての通り、体にはちょっと自信があるの。一晩くらいなら好きにしてくれていいわよ」 胸元をひっぱり、ちらりと谷間を見せてくる。確かにきめ細かい綺麗な肌だ。 僕はくすりと笑い、 「うん、お断りするよ」 「そうそうそうこなくっちゃ……え?」 断られるとは微塵も思ってなかったのだろう、女の子は目を丸くした。 「ちょ、ちょ、ちょっと待った! 大金に加えてアタシみたいな美少女を好きにできるのよ!? なんで断るの!?」 「中学生の僕にそんな大金は必要ないし、女の子には興味ないから」 「女の子に興味がない!? あ、あなたまさかG……」 「違うよ。でも今の僕にはお金も女の子も必要ないの。そろそろ遅刻するから行くね」 「あ、ちょ、ちょっと!」 僕を追いかけようとした女の子が、ローブを踏んでずっこけた。 ちょうどいいとばかり、僕は小走りに逃げ出す。 「あ、ちょーっと! 逃げるなー! 卑怯ものー!!」 「人聞きの悪いこと言うんじゃない!!」 まったくもう。朝から変なのに絡まれた。 シジョーさんに会ってからこっち、本当にろくなことがないなぁ……。 |