学校からの帰り道。念のため、僕はいつもの通学路をやめて、ぐるりと一周する形で遠回りしていた。言わずもがな、今朝の変人に会わないためだ。
 曲がり角ごとに警戒しながら家まで帰ると、なんとまあ、家の前に白人の女の子が立っていた。
 僕は無言で携帯電話を取り出し、
「もしも……」
「ちょーっと待った! いきなりポリスはないんじゃない!?」
「だって不審者……」
「美少女! この顔を見て不審者だなんて思う!?」
「顔の造形と不審者であるかは関係ないでしょ」
「そういう正論を聞きたいんじゃないの!」
「じゃあどんな異論を聞きたいんだよ」
「とにかく交渉したいって言ってるでしょ!?」
「だから、交渉には応じません。それで終わり」
「そんな冷たいこと言わないで! 第一、アタシが欲しているアイテムはあなたが持っていても仕方ないものだわ!」
「仕方ない?」
 女の子はため息をつき、
「仕方ないわね。もう少しこっちの情報も開示するわ。でもあんまり人に聞かれたい話じゃないの、家の中に入れてもらえない?」
「……」
 変人は間違いない。どう考えても不審者を家にあげるのは危ないだろう。
「じゃあ、玄関までなら」
 それが僕の妥協案だった。確かにこんな変人と話しているところはあまり見られたくもない。
 玄関を開き、女の子と対峙する。
 改めて見ると、美人だった。自分で言うだけのことはあり、スタイルもいい。モデルだって勤められるんじゃなかろうか。それがどうして魔女なんか……。
「まずはアタシの自己紹介からね。改めて、今朝も言ったけど、名前はテーラ。魔女よ」
「それで?」
「ヨーロッパでかつて魔女狩りってあったのは知っているでしょう? 実際、その時代から魔女という存在はいたの。男性の魔女もいたから、日本語的に正確なのは魔術師。まあ、アタシらは魔女って言い方を好んでいるけど」
「呼び方はなんでもいいけど」
「魔女はね、この世界と異なる空間から力を呼び出し、行使することができる者のこと。異世界を知覚し、エネルギーを別の形に使うことができる。そういう人間は決して多くないけど、アタシの家は代々魔女の力を受け継いでいて、アタシはその末裔ってわけ」
「異世界の力……」
 シジョーさんの話を思い出す。
 僕が使っていた魔法少女変身のリボンは、異世界の力を使っていると言っていた。同じようなものなんだろうか。
「アタシたちの力は人によって強弱がある。けど、その力を外から強化することができる。アタシが探しているのはその強化アイテムってわけ」
「つまり、魔術師の力が強化できるだけで、他の使い道はない。だから僕が持っていても仕方ない、と」
「そうそう、理解が早いじゃん。そういうこと」
「事情はわかりました」
「それじゃ」
「お断りします」
「素直に……って今のそういう流れじゃないでしょ!?」
 壁を叩いて抗議するテーラに対し、僕は首を横に振る。
「……強化するアイテムってのが何か知らないけど、あなたたちにとっては大金を払っても惜しくないほどのものなんでしょう? なんでそれがウチにあるのさ」
 僕の質問に、テーラはぶすっと答える。
「それはわからない。もともと魔女の里では丁重に保管されていたものが、突然消失したの。盗難……という線が濃厚だけど、それがどういう経緯で極東まで来たのかはわかってない」
「うちが盗んだって?」
「そうは言わない。善意の第三者とも言うしね。ただ、事実としてこの町に、もっと言えば今はこの家にある。それは確実確定」
「なんでそれがわかるの?」
「アタシは優秀な魔女だから。自分を強化できるアイテムなのよ? 近くにあれば存在を感じることができる」
「つまり客観的に説明できる理由は何もないって言い換えられるね」
「……あんた、いちいち嫌なとこ突くわね。友達なくすわよ」
「いないから大丈夫」
「それは大丈夫じゃないわ」
 はぁ、とテーラはため息をつく。
「オーケィ、じゃあ、あなたは何がそんなに不安なの? お金も貰えて自分には損もない。それなら何も怖がる必要がないでしょう?」
「素性不明の人がいきなり大金を出して使っていない持ち物を売れって言われて、素直に信じられると思う?」
「怪しいのは認めるけど事実だから」
「平行線だね」
「そうね」
 両手をあげたテーラは、首を横に振る。
「わかったわ、今日のところは引き上げる。でも交渉を諦めたつもりじゃないから」
「諦めてくれていいよ」
「そうもいかないのよ。それじゃあね」
 テーラは案外と素直に玄関から出ていった。こっそり扉を開けて覗くと、普通に門扉から帰っていく。
 まあ、外国人の彼女が帰る場所はわからないけど。ホテルだろうか。
「……また来るのかな」
 そう思うと、若干暗澹たる気分になる。
 実際、そのアイテムが何なのか知らないけど、僕には無用の長物だろう。異世界と言われてもよくわかっていないし。
 ただ、その事実と何百万という価値が吊り合わないことが気にかかる。これが焼き物とか宝石とかで、それを売ってくれって言われればまだ理解できるんだろうけど……。
 適切な例えか分からないけど、ゴミ箱に入っているペットボトルを一万円で売れって言われている気分だ。理由は説明していたけど、納得できているわけじゃないから気持ちが悪い。
 とはいえ、揉め事は起こしたくないんだけど……。
 そんなことを思っていると、突然、ポケットが叫んだ。
『ロアン! 聞こえる!?』
「えっ」
 ポケットからリボンを取り出す。よくよく見ると、リボンの金ぴか部分が明滅している。
「ちょっ、シジョーさん!?」
『ロアン、出動だよ!』
「へ?」
『そこから西方向にある山の上空! また例のやつが出現したんだよ!!』
「ええぇぇぇぇぇ!?」