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「ううううむ」 魔女テーラは一人、路地裏で水晶とにらめっこをしていた。 「間違いないんだけどなぁ」 六車家から感じる魔力が一番強い。これはもう間違いない。あそこに、魔女の秘宝があるはずなのだ。 なのに家の中に入ると特定が難しくなった。家のどこにあるかわかればコソドロという選択肢もあったのに、わからなければその選択もできない。 「なんでかなぁ。まさか魔法の素人がジャミングしているとも思えないし……。でも雰囲気は似たような感じなのよねぇ」 口に出しながら思考を整理する。 テーラにとって、魔女の秘宝が欲しいだけであって、極東に魔法使いがいたかどうかなんてのは興味がない話だ。 そも、なぜ村から秘宝が消えたかもよくわかっていない。それがなぜ極東にあるのかと聞かれたらもっとわからない。 今回は不可解な、わからないことだらけなのだ。 「もしかしてあの子、魔女がバックにいるとか……? まさかね」 極東で活動している魔女なんて話は聞かない。というか、魔女は基本的に村からあんまり出ない。科学文明と異なる技術体系だから、そっちの技術が手に入ってもあんまり意味がないのだ。 もちろん文化的な面で興味を持つ人はいるし、旅行とかだってしないわけじゃない。テーラだって他国の言語を覚える程度には外界との繋がりもある。 しかし、それにしてもーー秘宝が持ち出されるなんて考えられないことなのに。 「とにかく、あの子は徹底的にマークしないと……。ん?」 ふと。水晶に、おかしな反応があった。 六車家とは正反対の方向。山側に、強い魔力反応がある。 「何これ? ……調査するか」 あるいは秘宝と関わりがあるかもしれない。 そう考え、テーラは箒を手にした。 高峰山は、家からも見えている山だ。標高は最大800メートルほど、極端に高いわけじゃないけど、トレッキングで登るにはちょっと険しい獣道が多い。登山者はほとんどおらず、手入れされていない野山だ。 そして、高峰山というのは通称。本当は6つくらいの峰が連なった地形で、それぞれ違う山なんだけど、総じて地元では高峰と呼ばれている。 そんな高峰の山頂から、魔法少女に変身した僕は相手を見ていた。 「……出た、とは言われてもなぁ」 緑色が連なる山々。その上空にいるのは、鳥のような相手だった。 黒光りする体は先日のモノリスと同じ。前回は柱のような形だったが、今回は鳥のような飛行機のような形をしている。 そして最大の問題は、空を飛んでいることだ。 前回のモノリスも浮いてはいたけど、海面に接触していないというだけで高さは普通だった。けど今回は完全に空を飛んでいて、高度は山の中腹から見てもさらに100メートルほど高い。 幸いと言うべきか、高度が極端に高いわけじゃないので、麓からは見えていない。今のところ騒ぎにもなっていないけど、たぶん自衛隊とかは見つけているだろうし、そのうち来るんだろうなぁ……。 とはいえ、自衛隊じゃあいつらに勝ち目がないのは前回の戦いで分かりきっている。僕がなんとかするしかない。 僕はリボンの通信機能を生かし、 「シジョーさん、聞こえる?」 『どうしたの、ロアン』 「この魔法少女服、空を飛んだりとかはできないの?」 『将来的には実装したいと思うんだけど、空を飛ぶと人間の体って姿勢制御が難しいのよねぇ』 「つまり飛べないんだね」 どうしたものか。空を飛んでいる相手じゃパンチもキックも届かない。 必殺技なら光線みたいのが飛んでいくから攻撃できるけど、疲労感がヤバい技だし、一発こっきりだ。空を飛んでいる相手に外したら目も当てられない。 とりあえず、今のところ鳥は動きを見せていないから、何か投げれば当たるだろうか。もちろん技以外の何かだけど。 僕は周囲を見渡し、ひとつの石を見つけた。 大きさは頭ほど。普段なら抱えることも一苦労するサイズだけど、魔法少女モードなら力もある。 僕は石を拾い上げると、鳥に狙いを定めた。 「せーのっ!」 全力投球! 石は狙い通り飛んでいき、ガン、と弾かれた。 「ありゃ」 そりゃそうか。自衛隊のミサイルでさえ、モノリスには傷もつかなかった。ただの石ころが当たったところで痛くも痒くもないだろう。 どうも僕が近づいての格闘技なら効くようだけど……。違いは分からない。 あるいは、僕が近づけば相手の障壁を無効化できるとか、そんな話なんだろうか。とはいえ、近づくことが無理だ。なんとか引きずり下ろさないと、攻撃もできない。 「ロープとか掛けられれば……。でも届くかなぁ、あれ」 とりあえず相手は害意もなさそうだし、このまま観察していてもいいだろうか。幸いにも山の中で人の気配はあまりないし、ここなら女装していても目立たない。 「ん?」 ゆらり、と機首が揺れる。その視線が山の奥を見つめている。 「何? どうして……」 突然。鳥の翼が光を放った。 「ッ!!」 先日、モノリスが放ったのと同じ光線。木々がなぎ倒され、爆音が響く。 「なっ……!」 一瞬、無差別攻撃かと思った。だが、よくよく見れば倒れた木々の間を人が走っている。 「登山者!?」 僕は慌てて駆け出す。思いきりジャンプすると、走っている人の姿がわかった。 山を歩くにはふさわしいとは思えない、フード付きローブ。あんな怪しい格好をしている人物は……。 「って、テーラ!?」 僕の家を訪れていた自称魔女が、なぜだか山の中にいた。僕は慌てて山肌を駆け降りる。 「くっ! 鳥、こっちだ!!」 僕は手近の石や朽ち木を拾っては投げる。が、相手は魔女をロックオンしているのか、こちらを向かない。 「なんでさ……! もう!」 仕方なし、手近な木を踏み台に、思いきりジャンプする。その勢いで彼女のもとへ! 「ちょっとそこの人! 危ないですよ!」 すっ飛んできた僕にテーラは目を丸くし、 「え? 何それ、コスプレ!?」 「格好については触れないでください! とにかくあいつは危険です、すぐに避難して!!」 「あんたこそ避難しなさい! あいつはこの世界の存在じゃない、対抗策なんかない!!」 「っ!?」 「信じられないかもしれないけど、あいつは異世界から来ている! こっちの世界に存在する連中とは物理法則が違うの! そんなやつを相手にするなんて危険すぎるわ!」 そうか。彼女は魔女ーー異世界から力を引き出す能力がある存在だと言っていた。 つまりこの敵は、魔女の力と同じ世界から来ているんだ。だから彼女にも存在が理解できている。 「理屈は僕もわかっています。僕はあいつらと戦う力があります!」 「戦う力が……!? そうか、その光! あなたも異世界の力を使えるのね!?」 「はい! ただ、あいつは……。ちょっと厳しいかもしれませんけど」 「厳しい!? なんで!!」 「だって飛んでるんですから! 攻撃当てられません!」 「飛べないの!?」 「飛べませんよ! あなただって飛べないでしょう!?」 「アタシは飛べるわ!」 テーラは転がっていた棒を手にした。いや、よくよく見れば箒だ。落ち葉掃きにでも使うような竹箒。 「魔女は箒で空を飛ぶの。知らなかった?」 「……!! その力、貸してください!」 |