当たり前だけど、学校はしばらく休校になった。まあ校庭だけでなく校舎も少し壊れたし、原因も噂になっている巨大兵器ともなれば、生徒の安全うんぬんが出るのは当たり前だと思う。
 休みになったので、僕は蛍石とふたり、高峰山に来ていた。テーラと倒した相手はまだ世間の知るところにはなっておらず、ここは相変わらず人の気配がない。
 そこで、僕たちは魔法の練習をすることにしたのだ。
「マジカルコール! スタンバイ!」
 僕らの詠唱と同時、全身が光に包まれーー魔法少女の姿に変身する。
「よし、これでオッケー」
「……」
 ふと気づくと、蛍石がじっと僕を見つめていた。
「どうかした?」
「ううん。今さらだけど、女装だなって」
「……その点については触れないで欲しいんだけど」
 いいかげんスカートにも少し慣れたし、見た目も似合っているかもしれないが、僕としてそれは歓迎する事態ではないのだ。
「とにかく、今日の目的は少しでも魔法に慣れることだ」
「この前の敵もヴェチルがいなかったらやられていたもんね」
「そう。蛍石はいなかったけど、ここで僕は空を飛ぶ相手とも戦ったし、蛍石が倒した亀だって僕の攻撃が通じなかった」
 結局、僕が一人で倒せたのは最初のモノリスだけだ。あれだって自衛隊が倒せない相手を倒せているんだからスゴいことではあるんだけど、その後に続く敵には僕の攻撃も通じていない。
「それにしても、魔法の練習が私と一緒でよかったの? テーラとかヴェチルの方がこういうの得意そうじゃ」
「あの二人は信用しきれないし……。蛍石なら幼馴染みだから」
「ふうん。まあいいけど」
 なんだかんだ、蛍石はぼっちの僕にも親しくしてくれる。ゴリラなところを除けば基本的に良い子だ。
「それで? どうするの?」
「確か蛍石は亀を倒した時、炎を出せていたでしょ?」
「うん。こんな感じね」
 ぼっ、と蛍石の拳が燃える。手の炎は何かを燃やしているわけでもないのに、消えることはない。
「なんだろう、気持ちを熱くするっていうか。なんとなく炎をイメージすると炎が出るの」
「僕はそういうのができないんだよね」 
 魔法少女に変身した後、何ができるかは人によって違う様子だ。
 テーラは重力を操るのがうまく、箒で飛んだりも得意としている。
 ヴェチルは先日の様子を見る限り風を操っていた。そのスピードは僕を上回るほどだ。
 そして、蛍石は炎の操作。
「たぶん、魔法は人によって属性みたいなものが違うんだ」
「じゃあ、ロアンの属性は?」
「それがわからないんだよね。感じないというか」
 魔法少女に変身すると、体の中で獣が吼えているような感覚に陥ることがある。それが僕の属性なのかもしれないけど、炎とか風とか地とか、そういうゲーム的でわかりやすいやつじゃない。
 必殺技の光線が、僕として唯一の魔法要素だ。
「うーん。でも、体は強くなってるでしょ?」
「それはそう」
 僕はためしに、転がっていた岩を持ち上げた。ひとかかえもある大きさで、当たり前だけど変身前なら動かすことだってできない重量だ。
「このくらいは大丈夫。でも、それだけなんだよね。これ、蛍石もできるでしょ?」
「それはまあ」
 蛍石は同じ岩を片手で持ち上げた。元の筋力がゴリラだと変身後はさらに強くなるんだろうか?
「……これ、パワーでも魔法要素でも僕って劣化じゃない?」
「それはそうかも」
「はっきり言うな。でも、実際そうなんだよな……」
 みんなは、このシステムが”僕をコアにしている”と言っていた。
 僕が魔法の中核であるなら、きっとこのシステムには僕にしかできない何かがあるはずなんだ。
 それがなにか、今の僕にはわからない。
「火が出せたり水が出せたりとか、そういう気配は?」
「感じたことがない。というか、どうすれば出るのかもわからない」
「それじゃあ、空飛んだりとか何かを操ったりとか」
「……そういうのもない」
「……」
「そんな目で見ない!」
 とりあえず実験として、身体能力を蛍石と比べてみた。
 腕相撲は蛍石の方が強い。これはまあ、もともと彼女がゴリラだからとも受け取れるが。
 走るスピードは僕の方が圧倒的に上だった。でも、僕はヴェチルほどのスピードは出せないし、テーラみたく飛ぶことだっってできない。
 しばらく蛍石と運動したり魔法を使ってみたりしたけど、結局、僕だけの利点というものは見つけられなかった。

☆   ☆   ☆   ☆


 お昼になったところで中断した僕らは、下山して食事をすることにした。
「今日は僕の都合に付き合わせてるし、おごるよ。どこか行きたいとこある?」
「えっ。そんな、別にいいのに」
「そうは言ってもさ」
「……じゃあそこらへんで」
 結局、駅近くのファーストフードに腰を落ち着けることにした。
 平日とはいえランチタイム、店内は相応に混雑している。
 なんとかカウンター席を確保した僕らは、並んで食べることになった。
「それにしても、僕のって外れなのかなぁ。みんなはもっと強いのに」
「何かあるんでしょ、きっと。ロアンにしかない何かが」
「僕にしか、ねぇ」
 なんだろう。魔法といえば本人の気持ちとか資質が関係する的な話はよくあるけど、実際のところ僕の資質ってなんだ? 僕にしかないものーーそんなものがあるんだろうか?
「あら、お二人とも」
 ふと、後ろから声をかけられた。振り返ると、どこかで見た女子がトレイを持っていた。
「あ、副会長」
「副会長? ああ」
 そういえば、ヴェチルへの対策を考えていた時、相談に乗ってくれたのが彼女だ。制服じゃないと印象が違う。
「お隣失礼しますね」
 僕の隣に座った副会長は、僕らを見つめて微笑む。
「どうでした? お友達とは」
「まあ、それなりのところで落ち着きました」
「それはよかったです。ちょうどあの時、ロボット? も出たみたいで。少し心配していたんです。巻き込まれたって話はなかったけど……」
 どきっ、と心臓が跳ねる。
 そういえば、副会長は僕らに学校へ忍び込むようそそのかした張本人だ。
「ぼ、僕らが出ていった後にロボットが来たみたいだから」
「なるほど。運が良かったですね」
「本当に。校舎を壊すようなやつと遭遇していたらどうなっていたか」
 まあ一番校舎を壊したのは、力任せに蜘蛛をぶん殴って壁に激突させた蛍石だけど。
「それで、お二人は付き合っているんですか?」
「ぶっ!?」
 いつの間にか、副会長は目をキラキラさせていた。
「大丈夫ですよ、言いふらしたりしませんし、うちの学校は恋愛禁止でもありませんから!」
「そういう問題じゃなくて、僕らはそういう関係じゃ……。なあ、蛍石」
「……そうね」
 蛍石はどこか不機嫌そうに答える。いやまあ、僕と付き合っている疑惑が嫌でも、そんな顔せんでも。
「ふふっ。ではそういうことにしておきましょう。でも、二人とも気をつけないといけませんよ」
「気をつける?」
「最近ニュースは例のロボットで持ちきりでしょう? あのロボットが学校に出たってことで、生徒に取材しようとしているメディアも多いんです。記者さんとかなら節度も守ってくれるでしょうけど、最近はチューバーとかも多いですし」
 それは確かに。学校の周辺は自衛隊が封鎖しているって話で僕らも近づけないけど、話題性重視の人らは関係なく凸るだろう。
「生徒のSNSも、この件については禁止ですし。迂闊なことはしないように注意しないと」
「それはわかってますよ」
 蛍石が頷き、僕も同意する。
 と、そのとき、蛍石のスマホが鳴った。画面を見た蛍石の顔が青ざめる。
「ロアン、これ」
 画面に映っていたのはクラスのグループライン。僕が入っていないのはさておき、画面に映っていたのはーー暗闇の中で跳ね回る、魔法少女の影だった。