僕の家で緊急会議が行われることになった。
 参加者は僕に蛍石、加えてテーラとヴェチル。例によってシジョーさんは不在だ。
 みんなで見ているのは動画サイトの映像。そこにはシルエットだけど、蜘蛛型ロボットと戦う僕らの姿がはっきりと見て取れる。
 ヴェチルはさすがスパイと言うべきか、情報はすでに知っていた。テーラは初めて見たようだけど、反応は薄い。
「ふうん。それで?」
「それで、って……。僕らにとっては重大な事態なんだけど」
「アタシらには関係ないからねぇ」
 テーラは平然と言う。
「なにせ、アタシもヴェチルも、ヤバかったら本国に戻ればいいんだもの。魔女の里にはチューバーだって入ってこられないし、もともと偽名のヴェチルなんてもっと関係ないでしょ」
「え、偽名なの?」
「スパイが本名で活動すると思うの?」
 そりゃそうだ。
「アタシのテーラっていうのも、言っちゃえばコードネームみたいなものよ。本名は別だし」
「え!? そうなの!?」
「名字のない名前なんてあると思う? 現代で」
「……名乗っていないだけかと」
「のんきねぇ、中学生」
 むぐっ。
「とにかく、現状ヤバいのはガチで中学生のあんたらだけ。今までの相手はなんとか情報も隠れていたようだけど」
 そうなのだ。
 最初のモノリスは港湾、次の鳥は山間部、三匹目の亀は工事中のテーマーパーク。いずれも防犯カメラが存在するような箇所ではなく、僕らの情報は漏れていなかった。噂はあっても映像がなければ、現代で信用されることはない。
 ところが、蜘蛛が現れたのはバリバリの市街地。家庭にだって今時はカメラくらいついているし、車の車載カメラもある。そもそもスマホがこれだけ存在している中で、今まで撮影されていなかったのはただの奇跡だ。
「……でも、僕らの情報がバレたら二人だって本国に帰らなきゃいけなくなるわけでしょ? まだ目的は達成できていないんじゃないの?」
「まあ、それはそうだけどね。チャンスは今回限りってわけじゃないもの」
 テーラは肩をすくめ、ヴェチルも頷く。
「最低限の魔法に関する情報はわたしも入手できているわ。無理をする必要が何もない」
「じゃあ……。今回、二人は協力してくれないってこと?」
「というか、何を協力すればいいのか分からないわ。今さら動画サイトに削除申請したって意味がないし、そもそも通らない可能性が高い。一度でも漏れた情報を隠すことは無理だわ」
「それはそうだけど……。じゃあ、私たちはどうすればいいのよ。魔法の存在が世間に知られたら困るのは魔女も同じじゃないの?」
「魔法は知ったところでどうこうできる技術じゃないからね。知識だけでどうにかなっていないのは、そこのスパイも同じでしょ」
 確かに……。
 魔法の存在を知られて僕らが困るのは、おそらくメディアに追いかけ回されることだけだ。普通の生活が望めなくなる。
「ひとつ可能性があるわよ」
 僕と蛍石が窮していると、どこからともなく声がした。テーブルの下を覗く。いつの間にか、シジョーさんがカーバンクルモードで丸まっていた。
「そんなところで何をしてんですか」
「まあまあ。とりあえず、問題を解決する方法もなくはないわ。そもそもあなたたちが魔法少女をしているのは、リーゼがこの世界に進攻しているから。それが止まれば、もう変身する必要がない。身バレも何もないってわけよ」
「それはそうだけど……。って、何かわかったの?」
「まあね」
 シジョーさんはテーブルに乗っかると、僕を見上げる。
「この世界にリーゼが来ている理由。前にも話したと思うけど、こちらの世界では組織が二分されているわ。そして私は穏健的にこの世界の原因を取り除きたいと考えているんだけど」
 ちらりとテーラを見る。彼女はこの話、信用が置けないと言っていたけど……。特に口を挟む様子はない。
「強行派もこちらの世界に潜入していることが判明したわ。そして、こちらの世界を破壊しながら、歪みの原因を見つけ出そうとしている」
「ふうん。そういうこと」
 ヴェチルは頷く。
「なぜ日本ばかりが襲撃されるのか、理由がわかっていなかったけれど。あれらをこの世界に呼んでいる”誰か”が近くにいるのね?」
「おそらくね。その人物がこちらと向こうのトンネルを開いている」
「……じゃあ、その人を止めれば!」
「もうこの世界が積極的に脅かされる理由はない。あなたたちは魔法少女を廃業できるってわけよ」
 それは朗報だ。相手はなんら根拠なく襲撃してきているわけじゃないーー!
「それなら手伝ってあげられるかもね」
 そう言ったのは、意外にもヴェチルだった。
「要するに、日本でーーもっと言えばこの近くで不穏な活動をしている某を探せっていうことでしょう? 情報収集ならお手のものよ。そこに暇な魔女もいることだし」
「それって手伝えってこと?」
「いいでしょう。ついでに魔法見せて?」
「嫌よ」
「ま、まあそれはさておき。ヴェチルが協力してくれるのはありがたいよ、本物だし!」
 僕が手を握ると、ヴェチルはくすりと笑った。
「本当に、簡単に信じるのね。中学生だからってもう少し疑うことを覚えた方がいいんじゃない?」
「え?」
「天然ね。まあいいわ。とりあえず、異物を探してくればいいんでしょ」
 ヴェチルとテーラは席を立つ。
「それまで、あんたらは無闇に外出しない方がいいわよ。一応は休校中なんだし、おとなしく自宅謹慎していたら?」
「別に僕らが悪いことをしたわけじゃ……」
「同じようなものでしょう」
 ヴェチルたちを見送り、僕と蛍石はため息をついた。
「それにしても、異世界の存在か。そんな人がシジョーさん以外に来ているんだ」
「まあ、見た目は同じく一般人でしょうしね。ただ、気をつけなさい。相手の居場所が判明したら、イコールで即バトルになるんだからね」
「ああ。わかってるよ」
 そう言って、僕らは頷いた。