夜半。風が吹きすさぶその場所は、墓地だった。
 明かりなどは当然存在せず、ただ墓石だけが黒い影となって屹立している。その最中を、一匹の獣が歩いていた。
「……なるほど、そういうことか」
 ひとり納得するように頷き、ぴょんと墓石の上に飛び乗った。
「あんたらが先に押さえていたのね。だから見つからなかった」
「そういうことです」
 墓石の群れ、その中にーー人影が現れていた。魔術で姿を消していたようだ。
「いいかげん、諦めてくれませんか。我々とて、あなたと戦闘行為をするのは本意ではないのです」
「そう言われて素直に頷くと思う?」
「交渉は大事ですよ。不成立となっても、交渉した事実の有無がなければ話が始まりませんから」
 影の人物はくすりと笑う。
「それで、どこにいるんですか。彼女の血を引く者は」
「教えるわけないでしょ」
 毛を逆立てる。とはいえ、自分ひとりで相手にできるようなレベルではない。
 それでも、ロアンを渡すわけにはいかない。
「ふむ……。まあいいでしょう。帝国法第4条違反として、拘束させていただきます、シジョー。抵抗すればさらに罪が重くなりますよ」
「うるさい!」
 バチンと、小さな雷が走った。
 倒れた獣を拾った使者は、ふう、と息を吐く。
「まあ、だいたい想像はついていますし……。あとは確かめるだけのことです」

☆   ☆   ☆   ☆


 ヴェチルたちには家に居た方がいいとは言われていても、実際に家にいてもやることは特にない。
 例によってシジョーさんも姿を見ないし、僕はテーラみたいに魔法の研究(?)もできない。
 どうしたものかと考えていると、スマホが震えた。クラスのグループラインから連絡が入っている。
 送り主の名前はクラスメイトの一人。いわく、明日は登校するよう担任から指示があった、とのこと。まだ授業をやれるわけじゃないようだけど、確かに中学生をずっと自宅謹慎ってわけにもいかないんだろう。
 というわけで本日、僕は制服に着替え、家を出た。すると、門の前に蛍石が立っていた。
「あれ、蛍石。どうしたの?」
「あ、ロアン……。一緒に行こうかと思って」
「それはいいけど。なら呼び鈴でも押せばよかったのに」
「ほら、まだ少し早いから……」
「それもそっか」
 僕も、今朝はなんとなく早く目覚めちゃって、いつもより早めに家を出ることにしたんだ。
 二人で並んで学校に向かう。ヴェチルも来るんだろうか。そういえばあいつ、グループライン入ってたっけ……。
「もう学校が再開するんだね。蜘蛛にやられた被害も直っていないだろうに」
「まあ、学校を直そうと思ったら一ヶ月とか休むことになっちゃうしね。さすがにそう長期間は休めないんじゃない?」
「そういうものかな」
 蜘蛛が出てからというもの、なんとなく朝でも町が静かだ。みんな外に出るのが怖くなっているのかもしれない。
 学校が見えてきても、他の生徒は見当たらなかった。早すぎただろうか。まあ、朝練とかないだろうしな……。
 蛍石と二人で教室まで行くと、すでにひとり待っていた。
「あれ?」
 そこにいたのは、生徒会の人だった。相談に乗ってもらって以来、顔は覚えたもののーー彼女は2年生とかだったはず?
「ああ、六車君。蛍石さん。待っていましたよ」
「待っていたって……。何か生徒会の用事ですか?」
「いいえ、もっと個人的な用事です。そのために、あなたのクラスメイトに頼んでラインを送ってもらったんですよ」
「……? なんでそんな面倒な、っていうか、ラインを送ってもらったって」
 ふと気づく。なんでクラス委員の蛍石からじゃなくて、ただのクラスメイトから連絡があったんだ?
「あなたたち二人に連絡しても警戒される恐れがありましたので。こちらとしては、なるべく穏便に話を済ませたいのです」
「……あんた誰だ。副会長はどこだ!」
「失礼ですね。副会長は私です。あなた達の認識が違うのですよ」
 副会長はとんとんと、こめかみを叩く。
「あなた達が思う以上に、我々は早い段階でこちらの世界にアクセスしていました。当然でしょう? 兵器を使用するなんてのは最終手段なんです。別段、この世界を破壊したところで意味はありませんから」
「え? ど、どういうこと? 副会長は……」
「蛍石。この人だ。この人がーー異世界の刺客だ」
 ごくりと喉が鳴る。
 こちらも探してはいた。でも、向こうに先手を取られてしまった……!
「刺客とは随分と剣呑な言い方ですね。別にこちらとしては、あなた達に害意があるわけではありません。単純に世界のためです」
「うるさい! 町を破壊しておいて、何を言ってるんだ!」
「崩壊まで時間がありません。いよいよ余裕がないんです。まあ、あなたを発見できたのでよしとします」
「蛍石!」
 僕はポケットに手を突っ込み、リボンを手に取る。
「マジカルコール!! スタンバイ!!」
 全身が光に包まれる。体の内側で獣が吠える。
 魔法の力を手にした僕を前に、副会長は平然としていた。
「六車君。勘違いしていませんか? こちらとしては戦闘の意思がない、そう伝えたはずです」
「信じられるか! あれだけの兵器を送り込んでおいて……!」
「それぞれに意味がありました。目標物はうっすらと日本に存在することはわかっていましたが、その詳細が不明だった。そこで、順番に地域を絞っていたのです」
「地域を、絞る?」
 副会長は頷き、
「モノリス型は日本で最も人口の多い地域に向かわせました。結果、魔法で迎撃を受けた。近くに魔法を扱える者がいる証拠です。続いて鳥型で市町村単位の限定、亀型で居住域の限定ーー。蜘蛛型は最終確認です」
「……まさか、僕を探していたのか」
「ええ、その通りです」
 迂闊だった。魔法少女の力がなければ破壊できない兵器ーー向こうもこっちを探すのは当然だ。
「リボンを所持している以上、コンフィデンスシステムを使用することは想定範囲です。それによって目覚めた能力では抵抗できない兵器を次々と使用することで、徐々に絞っていきました。まったく、シジョーが余計なことをするから手間が増えましたよ」
「シジョーさんを……。知っているのか」
「当たり前です。彼女が余計なことをしたから、手間が大幅に増えているんですよ。彼女は大罪人です」
「大罪って……」
 副会長は、ふう、と息を吐いた。
「まだるっこしいので、核心を申します。六車君。あなた、母親の記憶はありますか?」
「お母さん?」
「ええ。私たちが探していたのはあなたのお母さん、そして、お母さんの血を継いだあなたの存在なんです」