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やはりと言うべきか、ヴェチルはグループラインに入っておらず、僕らが呼び出しされたという事実にも気付いていなかった。 副会長と分かれた僕らは、ヴェチルに連絡を取り、テーラにも来てもらった。 学校から少し離れたところにある商業施設のフードコート内。がやがやしている場所は、かえって内緒の話にちょうどいい。 どうせどこかで見張られているのだから、自宅に隠れる意味はなかった。 「なるほどね。ヴェチルに絡まれていた時と状況は似ている、けど」 「要求はだいぶ違うわね。わたしは魔法の情報を欲しただけなのに対し、今回の要求はロアンの身柄か」 「今回は絶対に譲れないわ。戦うしかない」 「まあまあ」 気炎をあげる蛍石に対し、僕らの方がむしろ冷静だ。 「まあ、選択肢は二つよね。ロアンを渡して魔法少女ごっこを終わりにするか、徹底抗戦して世界崩壊を待つか」 「崩壊なんてあいつらが言っているだけよ。本当に壊れる証拠もない」 「それは本当だと思うわよ」 答えたのは、意外にもテーラだった。 「おばあちゃんが言っていたけど、昔より最近の方が魔力が高まっているんですって。おそらくこっちの世界に入り込んでいるエネルギー量の増大を感じているんだわ」 「だからって……」 「それに、彼らは兵器をこちらに持ち込んだり、人員を割いたりしている。そのコストに見合う必要性があるってことよ。常識的に考えて、ただの中学生を騙すためにそこまですると思う?」 もちろん、向こうの世界とこちらの世界では常識が違うだろう。それでも、言っていることはわかる。 僕はただの子供だ。リーゼの製造コストなんてぜんぜん分からないけど、中学生一人を拘束するためには大きすぎるものだということくらい理解できる。 それを認めざるをえないくらい、緊急で重要な案件ってことなんだ。 「でも、じゃあロアンを渡せって言うわけ? そんなことできるわけないじゃない!」 蛍石が言うと、ヴェチルとテーラは顔を見合わせた。 「……オッケー、まずはアタシの意見ね」 テーラは手をあげ、 「前から言っていると思うけど、アタシはロアンが持っているアイテムが欲しいだけ。それさえ貰えれば田舎に帰るわ」 「じゃあ今度はこっち」 ヴェチルも手をあげ、 「我々としては魔法の技術を知りたいだけ。でもそれは必須じゃないし、そもそもこの世界が崩壊したら意味がない。もともとこちらとしてもロアンを犠牲にすることは躊躇してない」 「……!!」 そうだ。 テーラはアイテムを狙って日本に来ただけ。 ヴェチルは魔法研究目的で、僕らとも敵対していた。 二人ともなし崩しに協力してくれているけど、蛍石と違って積極的な味方というわけじゃない。 「……いいよ。僕、向こうの世界に行くよ」 僕が答えると蛍石は目を丸くした。 「なんで……!? なんでロアンが犠牲にならないといけないの!?」 「だって仕方ないじゃん。それに、考え方によっては異世界に行けるなんてスゴいことだよ?」 「そんな安易に……。もう会えなくなるんだよ!?」 「まあ、僕はこっちの世界に友達もいないし、困る人もそんなにいるわけじゃないし……」 「バカっ! そんなわけないでしょ!」 立ち上がった蛍石に胸ぐらをつかまれた。その目には涙が浮かんでいる。 「ひとりで生きているやつなんかいないの! あなたがいなくなったら……!」 「そうは言っても、現実的じゃないわ」 ヴェチルはくすりと笑った。 「副会長を説得したとしましょう。それでも状況が改善するわけじゃない。ロアンがこちらの世界にいることは事実、それでバランスが取れていないのであれば、これはもうどうにもできないわ」 「それは……」 ぐっ、と拳を握った蛍石は、 「そう、シジョー。まだ彼女に会っていないわ」 「それが?」 「副会長はシジョーを拘束しているはずよ。何か打開策を聞けるかもしれない!」 「望みは薄いと思うけど?」 「それでもやるしかないの!」 「……ま、そう言うなら」 ヴェチルはポケットからスマホを取り出した。何かのアプリを開くと、マップが表示される。 近所の地図だ。その中の一点に旗のマークがついている。 「これは?」 「シジョーにつけた発信器の場所」 「!?」 「以前、遭遇した時にこっそりつけておいたの。ま、情報はあるに越したことないでしょ?」 パチンとウインクするヴェチル。この時、僕は初めて彼女を頼もしく思った。 発信器の信号が出ていた場所は、空き家だった。住宅街にあり、外見は比較的きれいだけど、庭にはとんでもない雑草が鬱蒼と生い茂っている。 僕らはそんな家を見下ろすことのできる崖の上にいた。周囲には木々が生えており、こちらの姿を隠してくれている。 まあ、魔力とかでサーチされたら無意味なんだろうけど……。やれることはなんでもやらないと。 副会長の姿は見えないけど、リーゼでもいるのだろうか。とはいえ、こんな町中でバトルをするってわけにもいかない。 「どうする?」 「ま、まずは一人でいいわ」 ヴェチルは一人で魔法少女モードに変身する。彼女の速度は僕らの中でも随一。どんな罠があったとしても切り抜けられるだけの度胸と知識もある。 「必要になったら合図するわ。まずは偵察ね」 ひゅっ、とヴェチルの姿が消える。 「大丈夫かな」 「この中では一番大丈夫な子でしょ」 テーラの言う通りだ。彼女一人で僕ら三人分くらいの能力はあるんだから。 そんなことを考えていた直後、空き家の窓が内側から破裂した。 飛び散るガラス片。砕けた桟。それらをぶち抜き、ヴェチルが飛び出してくる。小脇に動物ケージを抱えーー後ろから、小型のリーゼが追ってきていた。 「追われてる!?」 「見張りがいたんだ!」 ってそりゃそうだ。拘束しているのにそのまま放置なんてことがあるはずがない。 ……あれ? でも、その程度はヴェチルだってわかっていたはずじゃ。 「ふっ!!」 すると、僕らの隣で身構えていたテーラが箒を構えた。 重力波による援護。追手の動きがにぶくなるなか、ヴェチルは高速の刃で切り刻む。 敵を倒したところで、ヴェチルは僕らがひそむ茂みに戻ってきた。 「……ふう。テーラ、支援ありがとう」 「どういたしまして。それで? 獣は無事?」 「とりあえず」 ヴェチルはケージを置く。その中で、シジョーさんは目を回していた。 |