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『祖国のためにって気持ちはわかりますけどね。実際、戦勝なんてのは不可能なわけですよ。でもこのまま戦闘行動を続けていれば、死者はどんどん増えていく。命が失われる。私、それは一番いけないことだと思うんですね』 『じゃあ、あなたは全面降伏しろって言うんですか』 『そおいうことを言うわけじゃないんですけども、方法は何も徹底抗戦ばかりじゃないように思うんですよね。対話の道だってありますし、一度避難するって方法もある』 『避難できない人はどうするんですか』 『それにしたって、抵抗すれば、やっぱり反撃されるわけじゃないですか。正義としてはもちろん正しいんですけど、命が失われるってことを考えるとちょっと』 テレビ画面を見ていた少女は、箸をどんぶりの上に置く。 「……ごちそうさま」 そこは、町中華とでも呼ぶべき、古い店だった。片隅にねぼけたテレビがあり、コメンテーターがどこかの紛争地域について議論らしいものを交わしている。 少女は代金を店員に渡すと、店の外に出た。 外は雑踏だ。明るい日が差し込む日曜日。通りを歩く人々は平和な表情でのんびりしている。 「……」 そんな光景を眺めていた少女は、そっと歩き出す。 「生きていれば、良いわけじゃない」 ぼそりと呟きながら歩いていると、交差点にさしかかった。信号が赤なので、足を止める。 交差点の反対側には二人の子供がいた。友人同士だろうか、元気な声がここまで届いてきそうだ。 そんな二人を見るともなく眺めていると、右手側からトラックが走ってきた。その動きが何かおかしい、と思った時には、車は反対側の信号機に突っ込んでいた。 金属のひしゃげる轟音に心臓が跳びはねる。潰れた車がいる場所は、さっきまで子供が立っていた場所だ。 人々がざわめきながら、携帯を取り出す。警察に連絡する者、救急車を呼ぶ者、カメラを起動させる者。何人かは危険を理解しているのかいないのか、潰れたトラックのところに向かう。 トラックの下から子供が引きずり出される。一人は泣いているが、もう一人は傍目にもぐったりしていた。 「……」 少女は、その光景をはっきりと見ていた。 命が失われる瞬間を、はっきりと見ていた。 |